13-08 リオンの決意
アリシア達はアクエリア共和国の南の都のセロナンへ行く予定を立てていた。
しかしそれを知ったアレクが待ったをかけて、アリシアを呼び出したのだ。
アリシアはお城でアレクと会った。
「アリシア殿、フィリスから聞いたがセロナンへ行くそうだな?」
「はい、それが何か?」
「実は今まで伝えていなかったがセロナンだけでなくイスペイやポルトンからも、アリシア殿への招待はされているのだ」
「⋯⋯そうだったんですか」
それを今まで伝えなかったのはアレクの配慮なのだろうとアリシアは思った。
「だから今行くと決心してくれたのは非常に都合が良かった」
「そうですか」
何故だろう⋯⋯人の思惑通りだと思うと途端に行く気がなくなってくるのは⋯⋯
とはいえもう行かないとは言いづらい状況になっていた。
「とりあえず聞いておきたい⋯⋯なぜセロナンからなんだ?」
アレクにとってもこの三国、どの順番で訪れるか非常に悩ましい⋯⋯どうでもいいからだ。
だがそんな事は言えない、何かもっともらしい理由を付けないと相手に不信感を抱かせる可能性がある⋯⋯政治は面倒だった。
「えっと⋯⋯たしかルミナスが今は寒いから一番温かいところからにしようって」
「⋯⋯悪くない理由だな」
アレクは王族の自分だったら駄目だが、自由な魔女のアリシアの理由としては悪くないと思った。
「えっ?」
「いやなんでもない。 セロナンの後はすぐに他の国にも行くのか?」
「⋯⋯その予定です」
本当は間を置くか行った後で考えるつもりだったが、どうも連続して行かないといけない雰囲気だとアリシアは察した。
「⋯⋯そうか」
少しアレクは考えた。
「アリシア殿、どの順番で出かけるのかは好きにしてくれ、だが決定したら私に知らせて欲しい相手に話を通して置かないといけないからだ」
「わかりました」
ただの観光のつもりが大事になったなとアリシアは思った。
「⋯⋯それと、東のポルトンに向かう時はリオンを連れて行ってくれないか?」
「リオンを? 何故ですか?」
「それはポルトンにはエルフの大集落、ガディア大森林があるからだ」
「そこへリオンを連れて行くのですか?」
「ああそうだ、ガディアと我が国は全く国交がない、リオンをこの国に妃として迎えるのなら国交の足掛かりになるかもしれん」
「連れて行くのは構いませんが交渉には協力できませんよ?」
「それはこちらでする、アリシア殿にはリオンを含めた外交団を一緒に連れて行って欲しい」
「わかりました、そのくらいなら」
それからアレクと細かい話をしてアリシアは城を後にした。
そして再びアリシア達四人は魔の森で会議を行う。
今回の議題は国を巡る順番とリオンの事だった。
「まったくお兄様、欲をかいたのかな?」
「欲?」
フィリスは事情の説明を始める。
「ガディア大森林のエルフ族は閉鎖的でポルトンくらいしか交易をしていないのよ」
「だからリオンさんを連れて行って交渉しやすくする⋯⋯と?」
「そうだと思うわ」
その話とは別にルミナスはやや困った顔になる。
「ガディアに行くなら、私はいかない方がいいかもね」
「なんで、ルミナス?」
そのアリシアの質問にルミナスは答え始める⋯⋯言いづらそうに。
「過去の野望皇帝だった頃の帝国は戦争で森を焼き払ってエルフを追い出したのよ⋯⋯そのエルフの末裔の多くがそのガディアに居るはず⋯⋯いや、まだ存命なエルフも居るわね」
今の話は二百年前の事だ。
だから今のルミナスには関係ない、しかし長命なエルフにとっては子供の頃や親の世代の忌まわしい記憶に違いない。
「難しい問題ですね」
そうミルファは感想を述べる。
「⋯⋯ただの気楽な旅行くらいのつもりが、どうしてこうなるのかな?」
「世界は一見平和でも、そこには色んな問題があるから⋯⋯かしら」
その後、四人の話し合いでルミナスがガディアに同行するかは皇帝のアナスタシアと話し合った後、決まる事になった。
そしてそれにリオンの同行は必須になる為、いったんルミナスは帝国に戻り残りの三人はイデアルへと赴く事になった。
「そんなの無茶ですわ!」
イデアルの冒険者ギルドの会議室でアリシア達三人とセレナとリオンと意見を聞く為にネージュも呼んだ。
そしてリオンを連れていく事を話した途端、ネージュの大反対である。
「落ち着けネージュ殿、まあ仕方ない話だ」
「仕方ないって何ですか!」
普段冷静なネージュには珍しく感情的だった。
「今まで国交がなかったところに同じエルフだからという理由だけで交渉の責任を押し付けるなんて、間違っているわ」
だがそんなネージュを冷静にいなしてセレナは言った。
「おそらくアレクが言いだした事ではないだろう、たぶんノワール派閥の高位貴族の誰かと言ったところかな?」
「なっ!? ⋯⋯貴方になにがわかるというのです! それに呼び捨てなんてアレク殿下に不敬ではありませんか!」
ネージュはセレナが言っている事が正しいと思っていた、しかしそれを認めたくない為にセレナがアレクを呼び捨てにした事を責める。
この時変な沈黙が会議室に起こる⋯⋯そう、ネージュだけがこの中でセレナの正体を知らないのだ。
この時ミルファは批難する様な目でセレナを見た。
「そうだな⋯⋯ネージュ嬢には言っておいてもいいか」
そう言ってセレナは変装用の魔法具を外した。
それによって普段の髪の色が鮮やかな金髪へと戻った。
「えっ?」
ポカンと淑女にあるまじき顔でネージュは固まる⋯⋯
そしてそのフィリスと同じ色の髪を見て思い出す⋯⋯忌まわしい記憶が⋯⋯
「久しぶりだなネージュ」
「あ⋯⋯あ⋯⋯セレナ⋯⋯リーゼ⋯⋯様?」
そしてネージュはその場に崩れ落ちたのだった。
それからネージュはリオンに支えられて立ち上がるのに、やや時間がかかった。
「あの⋯⋯大変失礼いたしました⋯⋯セレナリーゼ様」
そこにはさっきまでのネージュは居なかった。
「ネージュ様はお母様の事苦手だったの?」
そのフィリスの質問にセレナリーゼが答える。
「昔何度か小言を言った覚えはあるが、そこまで怖がらせたかな?」
ネージュは覚えている。
彼女は最初っから優秀な淑女だった訳では無い、アレクと結婚しろと言われる前はそれなりにお転婆だった。
そんなネージュを人前で初めて叱ったのがセレナリーゼだった。
それまで親にも怒られた事のないネージュにとって、お転婆だった側面が消え去ってしまうほどのトラウマになっていた。
「⋯⋯まさかアレク殿下のお母さまだとはつゆ知らず、今まで大変なご無礼をしてきました」
ネージュはここイデアルに来て何度もセレナと交渉した。
そしてその交渉は自分の公爵令嬢としての地位を使った強気な交渉が多かったのだ。
「気にするなネージュ、今まで単なるギルマスとして欺いてきたんだ、別に構わんさ」
本当にセレナは気にしていなかった。
むしろネージュの的確な交渉術には感心すらしていたのだ。
「ネージュ、そんなに怖がらなくてもいいよ、セレナさん案外優しいし」
そう自分に言うリオンがネージュにはまるで別人のように思えた。
今まで自分はリオンの事を守ろうと思っていたが、もしかしたら傲慢で侮辱的な事だったのかもしれない⋯⋯そうネージュは考えを改めたのだった。
「ふーん案外優しいんだ⋯⋯お母様は」
「なんだフィリス何が言いたい」
珍しくセレナは照れ臭そうだった。
そしてネージュが立ち直り話し合いが再開する。
「まあ私が今更生きている事になっても周りが混乱するだけだ、ここだけの話にしてくれネージュ」
「⋯⋯はい、わかりました」
明日からどうセレナと接していけばいいのか、ネージュの苦悩が始まる。
「先ほどセレナ⋯⋯さんがおっしゃた通りだと思います、リオンを交渉に使う事を提案したのは⋯⋯」
「なんでそんな重荷をリオン一人に押し付けるの?」
率直な疑問をアリシアはした。
「それはだなアリシア殿、こういう事がリオンには求められているからだ⋯⋯今後はな」
「要するにエルフの妃を取る王室のメリットなのよ、だからそれを使えと貴族たちは提案しているのよ」
セレナとフィリスの説明を聞きアリシアは漠然と理解していく、そういう事をさせる為にリオンはアレクとの婚姻が認められるのだと。
「私⋯⋯やります!」
重苦しくなった会議室に、これまででは考えられないほど凛としたリオンの声が響く。
「リオン⋯⋯あなた」
「私アレク様の役に立ちたい、アレク様との結婚をみんなに認めて欲しい!」
それはリオンの決意だった。
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