10-EX01 セレナリーゼとアナスタシア
娘のルミナスの誕生祭を締めくくる夜の舞踏会の時、母親であるアナスタシアは少し一人でバルコニーで休んでいた。
「アナスタシア皇帝」
「⋯⋯なんだアリシア殿?」
振り返るとそこにはアリシアが居た。
アナスタシアにとってそれは意外な事だった、こうしてアリシアの方から⋯⋯ましてや二人っきりの時を見計らって、こうして話しかけてくる事が。
「もしもあなたが望むなら今夜だけ連れて行って差し上げますよ、魔の森のギルドへ」
「⋯⋯セレナリーゼの所へか?」
アリシアは無言で頷く。
アナスタシアはアリシアの真意を読み取ろうとするが、読み切れなかった。
「何が目的だ? セレナリーゼに頼まれたのか?」
「いえセレナさんはまだ知りませんよ、私が勝手にしているお節介ですので」
「⋯⋯ではただの善意だと?」
「違います、気まぐれです」
そこにどんな違いがあるのかアナスタシアにはわからない、しかしあのアリシアがこんな事をしようとするのには驚く、以前会った時はもっと無機質な印象だったからだ。
「⋯⋯しいていうなら、ルミナスをいつもお借りしているお礼とでも思ってください」
その言葉でアナスタシアはアリシアを変えたものが何なのかを理解した。
そして急に会いたくなったのだ、自分もあの親友に⋯⋯
その夜、アナスタシアの自室にアリシアは現れる。
「では皇帝、貴方をお連れします」
アナスタシアは少しだけ緊張する、セレナリーゼと久しぶりに会う事に対して。
移動は一瞬だった。
それだけでアナスタシアの周りの風景は変わってしまた。
「⋯⋯どうやらまだ起きているようですね」
「事前に報せていなかったのか?」
「⋯⋯驚かせたかったので」
アナスタシアは今まで知らなかったアリシアの一面を知っていく。
アリシアはノックしてアナスタシアをその場に残し、一人で中に入るのだった。
「アリシア殿か? こんな遅くにどうした、今は帝国に居るんじゃなかったのか? 何かあったのか?」
セレナは入ってきたのがアリシアだった為ひとまず安心したが、これは何かの異常事態だと気を引き締めた。
「セレナさん遅くまでご苦労様です、そんなあなたに会いたいという人を連れてきました」
「会いたい? 私にか?」
そして無言でアナスタシアが入ってきた。
「久しぶりだなセレナリーゼ」
「アナスタシアか⋯⋯?」
十年の時を超えた二人の再会だった。
「では私はこれで、早朝に迎えに来ますから」
「ああ、頼む」
そう言ってアリシアは姿を消した。
「⋯⋯アリシア殿に頼んだのか?」
「いや、向こうから気をきかせてくれてな⋯⋯それよりそれを外せ」
セレナは言われて変装用の魔法具を外し金髪に戻った。
「これでいいかアナスタシア」
「結構だ」
こうして二人の夜が始まった。
「まあ再会を祝して」
そう言いながらアナスタシアは持って来たつまみを出し、セレナリーゼは秘蔵のワインを出す。
「乾杯」
小さくグラスを合わせ一気に飲み干した。
「⋯⋯しかし本当に生きていたんだな、お前は」
「まあな」
「しかし何故、今まで行方をくらませていた?」
「私を救ってくれた森の魔女様との契約でな、生きている事を十年間黙ってろ、とな」
「森の魔女殿がか? そういう事を企む様な方ではなかったと思っていたのだがな」
「その頃育て始めた弟子の未来の為に必要だと思ったんだろ」
「⋯⋯確かにルミナスとフィリス姫の今を考えるとそうだが⋯⋯腑に落ちん」
「⋯⋯相手は魔女だぞ」
「そうだったな」
そしてもう一杯ワインを飲む。
「居なかったお前に言うのもなんだがフィリス姫は本当に素晴らしい姫に育ったな、おかげでルミナスの生き方も変わった」
「そうなのか?」
「ああそうだ、あいつは子供のころは周りを見下してたきらいがあったからな、いいライバルになってくれたよ」
「私達のようにか?」
「かもな」
二人はお互い笑いあうのだった。
そして話が進むうちに酒の量は増えていく⋯⋯
「しかし今日会ったお前は見違えたぞ、ずいぶん老けたじゃないか余程皇帝の椅子は重労働なのだな!」
「ああぁ! 気楽な冒険者風情に言われたくないわ!」
こうして醜い争いが始まったのだ。
そしてこの時リオンは夜の見張りでいなかった為、幸運にも巻き込まれずに済んだ。
翌朝、アリシアが迎えに来た時にはギルドの建物が半壊しており、それを見て放心するのであった。
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