第四幕 光と影の協奏曲

11-01 使い魔入門

 ギルドや工房を中心とした街づくり。

 アリシアが関わり実際に作業をするのは、最初の方の大掛かりな所だけである。

 なので今のアリシアは、少々手持ち無沙汰になってしまっていた。

 しかし何もしなくていいという訳ではない、何故ならルミナスの弟のミハエルの誕生日まで、あとひと月もないからだ。

 こうして魔の森にいつもの四人が集まり、アリシアの相談が始まるのであった。


「え? ミハエルへの贈り物?」

「そう、ルミナス何がいいかな?」

 その日の議題は、アリシアがミハエルに何を贈るかを決める事であった。

 一応ミハエル本人に聞けばすむ話だとはわかってはいるが、それでも魔女は驚かせてなんぼの存在という固定概念がアリシアにはあった。

「なるほど、直接聞かないのはサプライズプレゼントにしたいからですね」

 ルミナスは素早くアリシアの意図を読み取る。

「まあミハエル君はルミナスみたいに、直接的に何が欲しいとは言ってこないからね」

「ええあの子は奥ゆかしい、いい子だからね⋯⋯しかしあの子の喜ぶ物か?」

 アリシアは暫く待つ。

 ここでルミナスから聞き出せるのであればそれが一番いいが、無理なら直接本人に聞くしかない。

 適当な物を創って喜ばれないよりは感動が薄くても喜んでくれた方がいいと考えるアリシアは、わりと現実的だった。

「⋯⋯物ではない方が喜ぶかもしれないわね」

 ルミナスの答えはそんな曖昧なものだった。

「物じゃない? どういう事ルミナス?」

「⋯⋯あの子動物が好きなのよ、お城でいろんな生き物を飼っているわ」

 そのルミナスの答えはアリシアにとって予想外のものであった。

「つまりミハエル君には飼育に関わるような道具、あるいは飼う生き物が望ましい?」

「そういう事ね⋯⋯たぶん」

 こうしてアリシアにまた新たな難題が課せられたのだった。


「ねえアリシア、魔の森の生き物で飼えるような珍しいのっているのかしら?」

「うーん、ただ飼うだけならお勧めはできないな⋯⋯危険な生物ばかりだし、ただ使い魔にするなら話は別かな?」

「使い魔?」

「魔女が使役する契約したしもべ。 一応絶対服従でかなり無茶をさせないかぎり裏切らないけど」

「それをミハエルに?」

「ミハエル君魔力はかなりあったよね、あれ位なら使い魔を維持するのは簡単」

 ちなみにミハエルの魔力量は初めて出会った頃のフィリスくらいはある。

 人間としては最上級で母であるアナスタシアよりも多い、将来有望な資質だった。

「⋯⋯使い魔か、あの子なら絶対喜ぶわね」

 そうルミナスも太鼓判を押したのだった。

「ならどんな使い魔がいいのでしょう?」

 そんなミルファの質問に対してみんなはふと疑問に思った事があった。

「そういえばアリシアは魔女なのに使い魔を使っているところ、見たことないわね?」

「見てると思うけど? あの庭の畑を管理している魔法人形マギ・ドールは師から受け継いだ、私の使い魔だし」

「なるほど、生物とは限らないんですね」

「⋯⋯昔生き物を飼っていた事があるけどすぐ死んじゃってね、それから正式な生物の使い魔はあまり作りたくなくなった」

 とはいえこの魔の森に住む数多の生物たちは全てアリシアの半契約状態の為、必要な時だけはその視界を共有したり自由に動かせたりもする。

「そんな事があったのですね」

 命に対して侮辱したがらない、アリシアの理由がわかった三人だった。

「まあそれは置いといて、使い魔にも色々ある」

「というと?」

「ずっとそばで一緒にいるタイプ、少し離れて放し飼いになっているタイプ、最後は遠くにいて必要な時だけ召喚するタイプ」

「なるほど」

「私が半契約している魔の森の生物は放し飼いになっている、必要な時だけ召喚出来るタイプかな」

 そういってアリシアは一羽の鳥をその場に呼び出した。

 そしてお茶菓子のクッキーを一個与えて窓から放す。

 そうした一連のアリシアの動作を見ていてルミナスは言った。

「カッコいい⋯⋯絶対あの子が喜ぶ奴よ、それは!」

 こうしてミハエルへの贈り物は、使い魔を持たせる方針に決まったのである。

 あとはどんな生物にするかなのだが⋯⋯


「あまり大きすぎるのはちょっと⋯⋯ね」

 いざどの生物にするのか決める段階になって、ルミナスからの注文が始まる。

「確かにそうだね、私だったら小型化の魔法で竜とかでも小さくして連れまわせるけど、ミハエル君には無理かな?」

「普段は小さくて手元に居て、いざという時封印解除で大きくなって大活躍とか絶対素敵なんだけど」

「魔物側自体が小型化の魔法を使える、もしくは受け入れてくれる個体でないといつか暴走するから危険⋯⋯避けた方が無難かな」

 ルミナスはカッコよさや美学を愛しているが、それでも自分の手に負える範囲内というくらいには弁えていた。

「万が一の危険も看過は出来ないわね、元々小さくておとなしい⋯⋯何かそういうのはいませんか?」

 そう言われてアリシアの頭の中で選択肢が減っていく。

 とりあえず魔の森の深層エリアの生物は却下である。

 かなりの大型や近づくと危険な生物がほとんどだからだ、なので候補は中層よりも外側の魔獣になってくる。

死の烏デッド・レイブンあたりが一番無難かな?」

 それがアリシアの結論だった。

死の烏デッド・レイブンってあの黒い烏の?」

「うんそう、魔女の使い魔としては初歩かな? 育て方次第でおとなしくもなるし、視覚共有とか色々便利」

「育て方って?」

「主に餌かな? 生きた餌ばかり与えていると攻撃的に育つし、主人が処理した肉の切り身だけ与え続ければおとなしく育つ」

「なるほど⋯⋯てことは雛から育てる必要がある?」

「理想は卵からだね、孵る前からマスターの魔力に馴染んでる方がより従順になるし」

 こうしてミハエルへの贈り物として、死の烏デッド・レイブンの卵を手に入れる事になったのであった。


「アリシア様、死の烏デッド・レイブンって要は烏ですよね? 今の時期に卵が見つかりますか?」

 ミルファはかつて教会の屋根に烏が巣を作った事を覚えていた、そしてその時は確か温かい時期に雛が産まれていたはずである。

「確かに今は時期外れかな? でも強制的に発情させて卵を産ませるのは半月ちょっとくらいで出来るから、ギリギリ間に合うよ」

「なるほど」

 若干やり方に問題がある気がしたが、この際気にしても仕方がない。

「親鳥はこれから探すけど、それとは別にルミナスに頼みたい事がある」

「なにかしら」

 そういってアリシアがルミナスに渡したものは魔石である、しかしその魔石には一切の魔力を感じなかった。

「これは?」

「それをミハエル君に渡して魔力を充填してから私の所へ持ってきてほしい、それを使って孵卵器を創るから」

「なるほど、そうやって最初っからミハエルの魔力に馴染ませるつもりなのですね、わかりましたわお任せあれ」

 そういってルミナスは空の魔石を受け取った。


 その後アリシアはつがいの死の烏デッド・レイブンを召喚して媚薬を与えた。

 これで暫くたてば卵が産まれるはずである。

 そしてこのつがいの死の烏デッド・レイブンは卵を産むまでの間ここ魔女の庵で暫く飼われる事になるのだが、それがどんな結果になるのか今は知るよしもなかった。

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