09-13 『春』の訪れ
魔法の絨毯によって港を出発ししばらくした時に、ルミナスは失敗を悟る。
「⋯⋯しまった、何匹現れたとか聞くの忘れてた」
「戻って聞いてみる?」
「いや、その必要はないよ一頭だけだね」
アリシアの広域探査魔法では既に目標を補足しているようだった。
「この距離でわかるのですか⋯⋯さすがですね」
ルミナスは自分とアリシアの差をあらためて思い知る。
「後はどうやって倒すのかですね」
ミルファの発言によって簡単に作戦会議が始まる。
「どうやって倒すの?」
そうアリシアはルミナスに問いかける。
アリシア自身が思い付き実行できる方法だと、リヴァイアサンがいる海の水を割って露出させて撃破である。
しかしあえてその方法を言わなかった、ルミナスがどんな方法を使うのかアリシアは聞きたかったからだ。
「そうね、まずは海面に出て来てもらわないと始まらないから、餌でも撒いておびき寄せて攻撃⋯⋯かしら?」
「餌って何を?」
「この前倒した魔獣の死体がまだ通魔鏡に入っているから、それで行きましょう」
そして戦い自体は出たとこ勝負という方針に決まった。
それからしばらくした頃にルミナスの探査魔術でもリヴァイアサンを補足出来た。
「お⋯⋯居たわね、みんな準備はいい?」
そういうルミナス自身は既に『
最終確認が終わったルミナスは通魔鏡から魔獣の死体を海にばら撒く、そしてそれらに正確に『
それからしばらくすると海面付近にリヴァイアサンが現れる。
体長三十メートル以上の蛇の様なシルエット⋯⋯なかなかの大物だった。
「『
ルミナスは自身の持つ最大の氷結魔術を『増幅』してリヴァイアサンの真下の海水にかけた、すると凍った海水がリヴァイアサンを持ち上げる事に成功する。
「よし! 行くわよ!」
こうして四人はルミナスが作りあげた決戦の舞台へと降り立った。
そして戦い自体は非常にあっさり終わったのである。
「さすがあんたとその剣ね⋯⋯まさか最初の一発で首を切り落として終わりとは」
「え⋯⋯いやチャンスだったし」
「いいじゃないですか、簡単に倒せたのならそれで」
何とも言えない閉まらない終焉であった。
「アリシアさま、コイツを持って帰りたいんですけど、お願いできますか?」
「いいよ」
そういってアリシアは収納魔法にリヴァイアサンの死体を仕舞う。
通魔鏡の収納機能は基本的に収納魔法の劣化である、その一つの例が大きすぎる物が入らないなのだ。
「さあ凱旋よ!」
こうして四人はリヴァイアサン討伐を成し遂げ、帰還するのであった。
一方その頃、港で一人海を見つめながらネージュは皆の無事と帰りを祈っていた。
「おい嬢ちゃん、そこは海風がキツイだろ、こっちへ来ないか?」
「いえここで構いません、皆さんが危険な目にあっているのに私だけ安全な場所に居る訳にはいきませんわ」
「大丈夫さ、皇女殿下だけなら心配だがあのお仲間の方々が一緒なんだからな」
「ご存じなのですか?」
「当たり前だ、この帝国を救ってくれた英雄たちじゃないか」
どうやら自分よりもこの船長の方がよほどアリシア達を信頼しているのだと、ネージュは悟った。
――いつかあの方々を本当に知る時が来るのでしょうか?
そんな事を考えていると空の彼方に見えてきた、無事に四人は帰還したのだリヴァイアサンを倒して。
大地に降り立ったルミナスは集まった民衆に宣言する。
「見よ! そなたらを脅かした脅威はここに落ちた! 皆よ、安心するがいい!」
ルミナスの横でアリシアが出したリヴァイアサンの死体を見て歓声が上がった。
「こんなにも容易く⋯⋯」
ネージュはただ絶句する、彼らが海へ出て戻って来るまで一時間も経っていないからだった。
こうして港では英雄たちの帰還を祝して、宴会が行われたのだった。
「それでその、アリシアさまへの報酬なのですが⋯⋯」
そう言いかけたルミナスをアリシアは静止する。
「この料理で十分だよ⋯⋯今回私は大したことしてないし」
そう言いながらアリシアは、初めて食べる蟹や海老などの海産物に舌鼓を打つ。
「そう言って頂いてありがとうございます⋯⋯彼らにとってたとえ船一隻でも失えば大きな損失ですから」
どうやらあのリヴァイアサンはこの港の復興に充てられる事になるのだろう。
アリシアはそれでいいと思いこの話はここまでになった。
「あの皇女殿下?」
「ん⋯⋯はに?」
蟹の足を口にくわえながら、ルミナスは振り向く。
ネージュにはこれがリヴァイアサンを倒し、民衆に称えられた英雄とは思えなかった。
「皆さまのお陰で海藻の群生地も発見できそしてその脅威も排除できました、それでここにその海藻を収穫する事業を立ち上げる事は可能なのでしょうか?」
口の中の蟹を飲み込んでルミナスは答える。
「さあよくわかんないわね、後はお母様と話して頂戴。 お母様は最近小じわが気になるようだからきっと協力してくれるわよ」
「ルミナス⋯⋯またそんなこと言って、また出禁になっても知らないわよ」
フィリスは命知らずなルミナスをたしなめる。
こうして一同は食事を楽しんだ後帝都へ帰還する、港の民衆に見送られながら。
「陛下! 海藻の群生地を発見しそしてその脅威となる害獣を討伐し、我ら一同帰還の報告とさせて頂きます!」
そう言って母であるアナスタシア皇帝に臣下の礼を持って報告するルミナスを、まるで今までとは別人のようだとネージュは感じた。
「⋯⋯流石は我が娘、よくぞ成し遂げた」
「ははー、ありがたきお言葉!」
一体自分は何を見せられているのだろうか? そう思うのは決してネージュだけではなかった。
そして詳細な報告が終わり、アナスタシアはネージュに話し始める。
「ネージュ殿そなたの事業に協力する、それを持って此度の礼としたい」
「ありがとうございます、しかしわたくしは何もしてはおりません、皆さまがいればこそです」
「ネージュ殿そなたが始めた事なのだこの一連の流れは、その結果我が帝国は致命的な損害を受けずに済んだ。 たとえ偶然だとしてもな、感謝する」
この時ネージュの胸に何か熱いものがこみ上げて来る、思ばこれまで自分が何かを始め認められた事があったのだろうかと。
「化粧液事業、期待しておるぞ!」
「お母さま、やっぱり気にしてらしたのね」
「ルミナス⋯⋯後で話がある」
そういうアナスタシアの表情は前にここであった時よりもツヤツヤと輝いていたのだった。
そしてルミナスに別れを告げた一同は、エルフィード城へと転移した。
そしてネージュはアレクに報告する。
「そうかゾアマンと帝国への協力を取り付けたのか」
「申し訳ありませんアレク殿下」
「何がだ?」
「ゾアマンはともかく、帝国との話を勝手に進めてしまった事についてです」
「ああそれか⋯⋯別に構わない、この事業は聖魔銀会の資金源ではあるがそれがエルフィード王国だけで運営されていると思われる方が後々問題になってくるだろうからな。 だから後は販売などに共和国も巻き込んでしまえばもうどこからも文句は来ないだろう」
「この事業、わたくしがこのまま進めて本当によろしいのでしょうか?」
「ゾアマンそして帝国の信頼を得たのは君だ、むしろ君以外がこの後引き継ぐ方が問題だ、もし手に負えないというのであれば人に頼れ、それだけの信頼できる人脈を君は持っているはずだ」
ネージュは知った、アレクに自分のして来た事を知られており、そして認められていたのだと。
「はいわかりましたわ、この事業必ずやわたくしの手で成功させて見せます」
「ああ、頼んだよネージュ」
こうしてネージュの化粧液事業は後に『プリマヴェーラ』と名付けられ、始まってゆくのであった。
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