09-12 海が呼んでいる
それからアリシア達はリオンの案内の元、アトラの所へと移動する。
その時アトラは川で洗濯中だった。
「あらリオン、久しぶりじゃない」
「うん、アトラただいま」
そんなアトラにアリシアは話しかける。
「ねえアトラ、ちょっと見て欲しいんだけど」
そしてアリシアは収納魔法から例の海藻を出してアトラに見せた。
「これなんだけど、どの辺りの海に生えてるかわかる?」
「んーと、どれどれ?」
アトラはその海藻を手に取り眺め一齧りした。
「あー、これならわりとどこでも生えてるわ⋯⋯でも確か北の海に群生地があったはずだけど」
それを聞きネージュは考え込む。
「北⋯⋯つまり帝国の領海ですわね」
「とりあえずルミナスに聞いてみる?」
そう言ってフィリスは通魔鏡を起動した。
その間にリオンはアトラに問いかける。
「ねえアトラ、北の海に人魚って居る? 居るのなら一緒に来て交渉を手伝って欲しいんだけど」
「それは無駄ね、北の海には人魚族はあまりいないからアトラが行っても意味ないわよ」
「やはり冷たい海は人魚の方でも過酷なのですか?」
そんなミルファの疑問にアトラは答える。
「そんな訳ないじゃない、過酷だと思っているのはあんた達、陸の人達だけよ」
「どういう意味ですか?」
「私達人魚族は海中のどんな環境にも適応できる選ばれし種族よ、でも我慢が出来ない場所もある、それは歌を聞いてくれる人が居ない所よ!」
「⋯⋯なるほど」
そんな話をしているうちにフィリスとルミナスの話も終わったようだ。
「ルミナスは今すぐ来ていいって」
「なら行こうか」
「今すぐですか?」
ネージュはあまりの展開に戸惑う。
そしてリオンも難色を示す。
「うーん明日は森へ行く日だからな⋯⋯」
結局ここにリオンを残してアリシア、フィリス、ミルファ、ネージュの四人だけで帝国へ向かう事になった。
「リオンありがとう」
「うん、ネージュも頑張って」
こうしてアリシア達は帝国へと転移した。
「ようこそ帝国へ」
そう言って一同をルミナスが出迎える。
「お母さまには話をつけているわ、すぐに会ってくれるそうよ」
「それは誠にありがとうございます、ルミナス皇女殿下」
ネージュは深く頭を下げながらこうまでトントン拍子に話が進み、移動も瞬く間である事が凄まじい事だなと、今更実感する。
王国と帝国とゾアマン、それぞれのトップとこうしてすぐに会えるアリシアの力が凄いのだと再確認したのだった。
「ようこそネージュ・ノワール公爵令嬢、私がウィンザード帝国皇帝アナスタシア・ウィンザードである」
「ネージュ・ノワールです、こうしてお目通り頂き誠にありがとうございます」
アナスタシアはあくまでネージュを交渉の代表と認め、アリシアやフィリスはただの付き添いであるという風に話を進める。
「聞いた話によると帝国の海にある海藻が欲しいそうだな」
「はい、その通りでございます」
そしてアナスタシアはサンプルに持って来た海藻を見る。
「なるほど⋯⋯して、この海藻がどのような薬になるのだ?」
この時ネージュは隠すべきではないと判断し、素直に答える。
「美容液でございます」
効果は抜群だった。
アリシアが見本に一つ出して見せると、明らかにアナスタシアの目の色が変わったからだ。
「ルミナスから聞いてなかったんですか?」
そんなフィリスの問いに明らかにルミナスは狼狽し始める。
「聞いてはおらんな⋯⋯」
そしてアナスタシアは娘を睨んだ。
「イヤ⋯⋯お母様に言ったら年寄り扱いしているみたいで怒られそうだったし」
「⋯⋯これは貰っても構わんか? アリシア殿」
「どうぞ」
今アリシアは、下手に逆らわない方がいいと判断した。
「つまりこれを作る為に帝国の海の調査をしたいという事だな」
「出来れば⋯⋯」
ネージュもアナスタシアに圧倒されているようだ。
「ルミナスよ!」
「はい! お母様!」
ルミナスはピシッと背筋を伸ばし応える。
「彼らについて行き北の海の資源調査を命じる、見つけて来るまで帰れると思うな」
「ちょ! お母様!」
「では行ってまいれ」
どうやらこれで話は終わりのようだった。
こうしてルミナスの犠牲によって北の海の調査を許可されたのだった。
「ちょっとあんた達、どうしてくれんのよーー!」
「申し訳ありません、ルミナス皇女殿下」
そう言ってネージュはルミナスに謝罪する。
「もし本当に帰れなくなったら、いつまでも魔の森に住んでいいから」
「そういう問題じゃない! ⋯⋯でもその時はお願いします」
「で⋯⋯今すぐ行くの海へ?」
「当たり前でしょ! 私の出禁がかかっているんだから!」
こうして一同は北を目指す、海を目指して。
アリシアが行った事のない場所のため移動には魔法の絨毯を使用した、五人も乗るとやや手狭に感じる。
そしてネージュがそれに感動を覚えるには、かなりの時間が必要になるのであった。
「さてと、まずは本当に海藻があるのか調べないとね」
そう言ってアリシアは絨毯に乗ったまま全員で海に潜った。
しかし海で濡れる様な事はなく、絨毯の周りを空気の膜で覆って海水の侵入を防いでいる。
「⋯⋯」
ネージュは驚き疲れて、もう何も言えなくなっていた。
その後、アリシアの広域魔法探査によって海藻の群生地は発見された。
そしてその位置で浮上し位置を確認する。
「ルミナス、この辺りに港とかある?」
「あるわよ、少し南に行って頂戴」
ルミナスの導きで移動を開始する、すると大きな港が見えた。
「ここは帝国首都から一番近い港よ!」
その場所の様子を見渡すミルファが最初にそれに気がついた。
「あれ? あの船凄くボロボロ⋯⋯どうしたんでしょう?」
「⋯⋯確かにおかしいわね、行ってみましょう」
そして一同はその船へと近づいた。
近くで見るとその船は確かにボロボロで、マストもへし折れていた。
「嵐でもあったのでしょうか?」
「いや最近は天候が崩れた事はなかったはず⋯⋯誰か! 誰かいないの!?」
そのルミナスの大声で船長が呼び出されたのだった。
「これは一体どうしたの!?」
「ルミナス皇女殿下!? 何故ここへ?」
「そんな事はどうでもいいのよ! これはどういうことなの?」
そのルミナスの剣幕に戸惑いつつも船長は語った。
「リヴァイアサンです⋯⋯奴が現れました」
「リヴァイアサンですって!?」
それを聞きルミナスは改めて船を見上げる。
「⋯⋯他に被害はなかったの?」
「その時居たもう一隻は沈みましたが、乗組員は無事です」
「そう⋯⋯よくやったわ、後は私に任せなさい」
その時フィリスは無言でルミナスの肩を持ち頷く。
「力を貸してみんな!」
振り返ったルミナスは短くそう頼んだ。
リヴァイアサン、それはこの大陸より少し離れた大きな島周辺に生息する、大型の海竜である。
それはめったにこちらの海には現れないのだが、二・三年に一度くらいで現れる事がある。
「それにしても私達が丁度来た時に出て来るなんてツイてたわ、やはり私達は持っている!」
そうルミナスは自分たちの幸運を確信する。
「そのうち〝死神探偵〟とか呼ばれなきゃいいけど⋯⋯」
「あれ結構面白いですよね」
「ミルファちゃんも読んでるの?」
「ええ、お話自体はちょっとどうかと思いますが、事件と謎解きは面白いです」
なお〝死神探偵〟とは『死んじゃう前に事件は解決! 神探偵コリン』という物語の主人公の少女が行く先々で事件に巻き込まれることによって、ファンの人達から自分の所へは来て欲しくないと言われた為ひろまった俗称である。
なおアリシアの感想は「事件はちんぷんかんぷんだが旅や観光などの空気感がお気に入り」である。
「あんたたち話はそこまで! 行きましょう!」
「え!? 準備もなしでですか?」
「ネージュ様、私たちなら大丈夫です。 ネージュ様はここに残っていてください」
フィリスはそう言って港にネージュを残して、アリシア達は海を目指すのだった。
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