09-11 成長への道のり
翌日、
この作業をネージュは一人で行おうとしたのだが、リオンを始め皆が協力を申し出た。
それでいいのかとメルエラに問い合わせた結果別に構わないとの事、ネージュという人物が信頼できるかを見極める為に行う事なので別に無理難題を押し付ける気もない、彼女の為に率先して協力をする者が現れる事も判断材料の一つだと。
こうしてアリシア達も協力して穴を掘る事になった。
アリシアが全て魔法で穴を作るのは簡単なのだがそれではネージュの試練にはならない為、ほんのちょっと掘りやすくする程度の手助けに止める事にした。
ネージュはその地面をエルフから借りたスコップで掘る。
「ミスリル製のスコップなんて、何だが物凄く背徳的ですわね⋯⋯」
「え? そう?」
リオンにとっては当たり前の事なので疑問ですらないようだ。
「それにしてもどうしてエルフの方にとって、ミスリルだけ使ってもよい金属なのでしょう?」
「あー、それはねミスリルって一番精霊の力⋯⋯魔力が通りやすい金属だから、私達エルフは精霊の抜け殻と呼んでいるの」
「そうだったのですか」
「たぶん先祖のエルフは何だかんだ言っても金属を使いたかったんじゃないかな? ないとやっぱり不便だし」
そんな事を言うリオンは今までミスリル以外の金属に触れる機会がなかっただけで、今では森の外ではごく普通に別の金属に触れる機会があるが、それで忌避感が起きる訳でもない。
主にこういった風習の理由は昔の人族が、エルフの森に攻め込んだりしたことが原因である。
人よりも平均寿命が遥かに長いエルフ族にとって考えを改める事は、時間がかかるものなのだ。
そういった文化を知り尊重する、それが信頼への一歩なのだろうとネージュは考えながら穴を掘り続けた。
「だからねナロンが⋯⋯えっと、今一緒に暮らしているドワーフ族の子なんだけど、私の為にわざわざミスリルで食器まで作ってくれて――」
そんなとりとめのない話をしながら作業を進めるのだった。
そんな風に落とし穴が完成し、
「そんな! リオン様が危険では!?」
「ううん、私がやりたいの任せて」
その作戦はリオンが言い出した事だった。
まずリオンが単独で
そしてその後ネージュが身動き取れない
例えネージュはしくじっても助けてもらえる、しかし単独で
「前に同じような事をして失敗したから、今度は上手くやりたいの」
リオンは魔の森での失態を、ここゾアマンで乗り越えようとしているのだった。
そして作戦は決行された。
リオンは
そしてリオンは走る、ネージュと共に用意した落とし穴地帯へと。
そしてやり遂げた、見事
その瞬間を見逃さずネージュは氷属性魔術を叩き込む。
落とし穴の中にはあらかじめ水を入れてあったため凍り付く、それによって
そしてネージュが十数発魔術を打ち込んで、ようやく
「やった⋯⋯やりましたわーー!」
「やったね!」
ネージュとリオンが手を取りあって喜ぶ所を、アリシア達はただ見守っていたのだった。
「我が同胞たちよ、あらためて紹介しようネージュ・ノワール、我らの新たなる友である」
「おめでとうネージュ様」
宴会の席でネージュにリオンが近づく。
「⋯⋯あの、わたくしの事はネージュと呼んでいただけませんか?」
「え⋯⋯でもネージュ様は貴族の方だし」
「確かにそうですがそれを言ったら貴方もサンドラ様の姪⋯⋯望めば侯爵家となっていてもおかしくはありませんわ」
一応エルフィード王国においてゾアマンの森は吸収合併した領地ではあるが、その領主である族長に自治権を認めている。
単に二百年前の当時の族長であったサンドラとメルエラの親が、人間の与える爵位などに興味がなかっただけだった。
「だからこれからもよろしくお願いしますわ、リオン」
「こちらこそよろしく、ネージュ」
そう言って握手を交わす二人を見てメルエラは、時代の移り変わりを感じるのだった。
こうしてゾアマンのエルフ族との友好関係を構築する事に成功したネージュは、多くのエルフに見送られ森を出る。
「もう行くのか?」
見送りに来たメルエラはそうリオンにぼやく。
「うん⋯⋯辿り着きたい場所があるから歩き続けないと。 だから行ってきます、お母様!」
こうしてリオンの二度目の旅立ちは、きちんと別れを告げられるものになった。
「次は海藻ですわね」
「じゃあアトラに聞いてみようよ」
「なら次は魔の森でいいの?」
「はい、よろしくお願いしますわ銀の魔女様」
こうしてアリシア達はエルフ達に別れを告げた後、魔の森のギルドへと転移した。
「ここが魔の森の冒険者ギルド⋯⋯本当にあっという間ですわね」
ネージュがそんな感想をしているうちに、リオンはセレナに帰還を報告する。
「おう戻ったか、それにしても三日か⋯⋯以外に時間がかかったな」
そんな何気ないセレナの一言にミルファが違和感を覚える。
「え? あの昨日の朝リオンさんと一緒にここを出ましたよね?」
「何を言っている? それは三日前だぞ?」
ミルファとセレナ二人の意見が一日食い違う。
「それはゾアマンの森ではエルフの秘術で移動していたからだね」
「どういう事アリシア?」
「あの移動中、私達はあまり時間が経っていないけど、外側では普通に時間が経過している」
「わたくし達の体感では、二日滞在していたつもりでしたのに」
「⋯⋯もしかしてエルフが長命なのって、その移動をよくするからなんじゃ?」
そのフィリスの疑問をリオンは否定する。
「フィリス様、あの移動方法を使えるエルフ族は十人くらいしか居ないけど、そんなに他のエルフと寿命が違うという事はないよ」
「でも、ちょっとは違うんだ」
「んーだいたい二・三十年くらいかな? 長生きしても」
「十分寿命が延びてますね⋯⋯」
「エルフの感覚だと大差じゃないんだね」
やはり悪影響が出る事が証明されたのだった。
「あまりエルフの森へは行かない方がよいのでしょうか?」
「それは大丈夫だよ、あくまであの移動の精霊術の影響なだけだから、あれのお世話にならなければ時間はズレない⋯⋯次からは直接転移で里まで行けるし」
そんな風にやや問題はあったが、無事にエルフの里訪問は終了したのだった。
「それでどうだったのだ? ゾアマンとの交渉は上手くいったのですか?」
「はい、上手く交渉できまいたわ」
「それは重畳でなによりです」
「これで後は海藻の入手ができれば⋯⋯ところで、ここに人魚の方が居られるとか」
「うんいるよ、アトラの所まで案内するね」
そう言ってリオンはネージュの手を引いて川へと向かった。
「⋯⋯随分仲良くなったのだな、あの二人は」
「そうみたいだね⋯⋯ほんとにどうしよう」
アレクを巡るライバルのはずの二人が出会い、ここまで仲良くなってしまった事はこの場に残されたアリシア達にとって大きな誤算だった。
「まあケンカして欲しいわけじゃないけど⋯⋯どっちかが兄様と結婚したら、その後どうなるのかな?」
「フィリス、こういう時には気にするな、なるようになれだ」
「どうしてこうなっちゃったんだろう⋯⋯」
「アリシア様が余計な事を始めたからですよね」
ミルファの一言は冷静で辛辣であった。
「まあ気にするな銀の魔女よ、王など誰と結婚しようが大抵敵対派閥が生まれるし、それでも案外上手くいくもんだ」
「母様⋯⋯」
結局人の運命などわからないし下手に干渉するべきものではなかったのだと、アリシアはやっと学んだのだった。
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