07-09 銀色の『盾』
「まずパーチェ。お前の軍勢で帝国軍を蹴散らせ、そして俺のキマイラ軍団で中央への道を開く、後はリーベ、お前が指揮官を叩き潰せ!」
「りょうかーい」
「吾輩に任せろ!」
そして彼ら達が使役する魔物や魔獣の群れと、帝国軍がぶつかる。
「俺たちの勝利を、アリスティア様に捧げるのだ!」
ミルファの戦い、それは相手を倒す事ではなく傷ついた兵士を癒し続ける事である。
無論この帝国軍を一人で支える事なんて不可能だ、そもそも帝国軍にも治癒魔術の使える魔道士は居る、それら全てがこの戦いを支える土台となるのだ。
そしてミルファが志願し配置されたのは、最前線の最も過酷な戦いの場所である。
翼の魔法による機動力、圧倒的な治癒魔術の技量、それらを支える魔力量、そんなミルファが帝国軍の最前線を支える。
倒しても倒してもパーチェが『複製』し戦力を投入し続ける魔物軍団と、倒れても倒れても何度でも甦る帝国軍の戦いは、もはや泥沼の様相を呈してきた。
そんな戦いに最初にキレたのはパーチェだった。
「何だよあいつら、さっさとくたばれよ!」
しかし冷静に戻り戦局を見極める、その原因を。
「あいつのせいかよ! 殺せ! あの女を!」
パーチェが使役する魔物軍団がミルファを襲い始めた。
「
しかしその脅威から帝国軍が盾となる、それはいつかの戦いの時と同じ光景だった。
だが帝国軍は耐える、ミルファを守りきる、そしてその帝国軍をミルファが癒し続ける、だが⋯⋯
だんだんと被害が広がり始め回復が間に合わなくなってくる、帝国軍の中には自前のポーションで治療しミルファの負担を軽減しようとする者も居た。
「だめだ、このままじゃ守り切れない、回復し切れない、どうする!?」
ミルファは考える、今自分にある手札を⋯⋯
そして決断した。
「魔道士の皆さん、回復しばらくお願いします!」
そう言って翼を翻す天使が、帝国軍の頭を飛び越えて魔物の群れの中に突っ込んだ。
「せっ聖女様、何を!?」
帝国軍に動揺が走った、しかし次の瞬間魔物の群れの中で禍々しい光が輝くのだった。
ミルファが魔物の群れの中に降り立ち、その手の『
そして次の瞬間『
そしてそれは禍々しい光を放った。
「何だ、今の光は!?」
パーチェが光に包まれた方を見ると、そこに居た魔物の群れが石に変えられていた。
「石化魔術か!?」
そして石像の群れの中からミルファが飛び立ち、次の大群に向けてまたその石化の光を放つ。
それを何度か繰り返した結果、敵の手数が減ったため帝国軍の負担は軽くなり、ミルファが居なくても回復が追いつくようになってきた。
最初は戦場に残り続ける石像が邪魔だったが、そのうちに帝国軍はその石像を戦いに利用するようになり適応する。
「何だよ! 何なんだよあの女は!」
パーチェはミルファを先に始末するべく動いた。
空を飛ぶミルファにパーチェの攻撃魔術が飛んでくる、そしてそれは今のミルファにとって願ってもない事だった。
「『吸収』!」
そう叫びながら『
「なんだ、あの盾は!?」
パーチェは目を疑う、あの盾には石化と魔力吸収の効果があるらしい。
魔術は効かないと悟ったパーチェは空を飛ぶミルファに対して魔獣に石になった魔物を投げさせてみた、それをミルファは盾で受けていくがその受け止められた石像が不自然に勢いをなくして、そこからストンと真下に落ちる。
「魔術だけじゃなく衝撃まで吸収するのか、あの盾は!?」
ここまでの分析であの盾の脅威は十分に理解したがそれを持っているのはただの小娘だ、殺してあの盾を奪い取ればまた楽しめる、そうパーチェは考えた。
空を飛ぶミルファは下にいるパーチェに『
しかし注意が正面に向きすぎていたミルファは、背後から飛んできた石像を食らってしまった。
一瞬息が止まったミルファは地面へと叩き落とされた、それを見たパーチェは千載一遇のチャンスに走り出した。
まずパーチェはミルファの周りに『
地に倒れ動けないミルファ、しかしそこへ『
自分の足止めか、はたまた周りにいるかもしれない味方の帝国軍を狙っているのか、どっちか瞬間的にはミルファには判断できなかった、だから――
「『誘導』!」
そう叫びミルファはその『
「何!?」
思わずパーチェは突っ込もうとした足が止まる、あの盾にまだそんな能力があった事は驚きであり、そしてまた吸収されるのだと思ったのだ。
「『
そう叫んだミルファを見て次に起こる事をパーチェは予測した、しかし⋯⋯
いきなり目の前に、自分の撃った『
「は!?」
理解する暇もなくパーチェは炎に包まれた。
「うぎゃぁぁぁ!」
火だるまになったパーチェにミルファが近づく、その苦しみを終わらせるために。
無言でミルファが向けた『
それを見たパーチェは騙されていた事を認識した、あの盾はいちいち叫ばなくてもその力を発揮するのだと⋯⋯
そしてこのまま生きたまま石化してしまえば、自分は二度と復活できないとも、だから――
完全に石になる前にパーチェは握ったままの自分の剣で、自分の心臓を突き刺したのだった。
「なっ何を!?」
驚愕するミルファへと笑みを浮かべながら、パーチェは息絶えていく。
「アリスティア様、今貴方の元へ⋯⋯」
そのパーチェの死に顔は笑っていた。
「自害した⋯⋯その方が助かる望みがあるから⋯⋯」
それだけこの男がアリスティアを信じているのだと何となく理解した、それはミルファも同じだからだ、自分だって信じるアリシアの為なら同じことが出来ると⋯⋯
ミルファは思った、自分とアニマの使徒は同じなのかもしれないと。
しかしアリシアとアリスティアは違うのだとミルファは思う、自分が死んでもアリシアは喜ばない悲しむと、だから死んでは駄目なんだと決意する。
「私は死なない、最後まで生きてアリシア様の〝盾〟になる⋯⋯この想いが正しかったと、私は証明して見せます」
再びミルファは聖女へと戻る⋯⋯誰も死なせない為に。
その後ミルファによって支えられた帝国軍は統率を失った魔物の軍団を倒し続けるのだった。
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