07-05 進撃の狼煙
ここは帝国の首都ドラッケンの冒険者ギルド支部。
「はいご苦労様です、
そう言って受付嬢はテキパキと報奨金をその冒険者パーティーへと支払い、業務を遂行する。
「ギルマスと話がしたい、解体室まで呼んでくれ」
「え⋯⋯はっはい! しばらくお待ちください」
そう言って受付嬢の報告で、奥のギルドマスターはこの冒険者パーティーと面会する事になった。
「今回は残念な結果だったが被害は最小限に抑えた、よくやったなカイン」
今ギルドマスターと対峙するのは前に魔の森の試験にも来ていた、Sランク冒険者のカインだった。
「そんな事はいいギルマス、これを見てくれ」
そう言ってカインが指差したのは、今回討伐された
「⋯⋯こいつはデカいな、それをそのままここまで持って帰ってきたのか⋯⋯魔法の袋はやっぱり素晴らしいな、こっちにも回して欲しいくらいだ」
「そんな事はどうでもいい、ここを見てくれ」
そのカインが指差した所は
「せっかくの毛皮を勿体ない⋯⋯ん?」
「気づいたかギルマス、その跡だ」
その
「こっちも見てくれ」
そう言ってカインが新たに魔法の袋から取り出したのは
「こいつを仕留める数日前にもう一匹全く同じ⋯⋯この特徴のある毛並みそっくりな奴と戦い逃がした、この右腕を奪った後でな」
ギルドマスターはその右腕を
「たまたま同じ見た目の個体が二頭いたのでは?」
「こいつはデカい雄だ、だから近くにもう一体いたとは考えにくい、まだ小さな個体だったら兄弟かも知れなかったが、ここまで大きくなるともう一緒にはいないだろう」
「⋯⋯つまりカインお前はこう言いたいのか、この個体は一度お前たちに腕を切られた後再生して、また再び村を襲ったと?」
「バカバカしい話だってことはわかってるよ、だけどな⋯⋯最近会ったばかりなんだよ、そういうとんでもないことが出来るような魔女様にな」
実際にあの魔の森の試験中に、アリシアによって腕を繋いでもらった冒険者がいたのだった。
アリシアの場合は切られた腕を材料に創造魔法で腕を創っているのだが、そんなことまでは理解できなかった為単純に再生されたものだと、カインは誤解していた。
「銀の魔女の仕業だと!?」
「そんな事は思っちゃいねえよ! ただ何か嫌な予感がするんだ、だから報告している」
「わかった、貴重な情報感謝する」
この後ギルドマスターはすぐに報告書をまとめて上へと報告した、それだけSランク冒険者の意見は重いと尊重されているからだった。
その後少し時間はかかったがこの報告は宰相のアルバートの所まで届けられた、そしてあまりにも荒唐無稽だからこそ今この時は注目されるのであった。
ギルドを出たカインとそのパーティーメンバーは今回の報奨金で数多くの物資を購入し、それを魔法の袋へと仕舞っていく。
それはあの村へ届けるためだった。
今回の報奨金はあの村の財源から支払われている、もちろん一部は国からの補助金も含まれているがそれをそのまま受け取る気にはなれなかったからだ。
あの時一回目で仕留めていればこんな事にはならず、村人に被害が出ず済んだのではないか、そう思わずにはいられなかった。
「村まで行くのは俺だけでいい、お前たちはここに残って⋯⋯」
「そんな水臭いですよカインさん」
「私達も一緒です、それがパーティーでしょう?」
「ああ、そうだな⋯⋯」
そんなカインに近づく者がいた。
「久しぶりだなカイン」
「ザナック!?」
それはカインの親友でもありライバルでもある同期のSランク冒険者のザナックだった。
「この後一杯どうだ? ⋯⋯聞きたい事もあるしな」
「ああ、わかった」
この後ザナックはカインと情報交換を行いそして一夜明け決心する。
「カイン、俺たちも一緒に行く」
「何言ってんだザナック!? お前たちは昨日仕事から戻ってきたばかりだろう、準備なんて待ってる暇ねえぞ!」
ザナックは笑いながら自分の背中の魔法の袋を叩く。
「準備なら出来てるぜ、それに前回の仕事は大したことなかったしな⋯⋯なあ、お前ら!」
どうやらザナックは既にパーティーメンバーとの打ち合わせ済みらしい。
「しかし、だからと言ってお前たちまで来る必要は⋯⋯」
その時カインはザナックの目を見た、そこには有無を言わせないと誓う男の信念が見て取れた。
「わかった心配性のザナック、お前の目が節穴だったと証明しないとな」
「もし慧眼だったら一杯奢れよ、カイン」
「ああ、約束だ」
そして二人は固く手を組み、この後いったんギルドに立ち寄って四日後の帰還の予定で例の村へ行く事を告げてから、帝都を出たのだった。
それから六日後、その二組のSランク冒険者パーティーは未だに帰っては来なかった。
ここしばらく天候も安定しており何かない限り戻ってこないのは不自然、しかし念のため予定より二日経過するまでは様子を見たが、ギルドマスターも何かおかしい事は感じ取っていた。
だからこの時点でこの事実は皇宮へと報告されたのだ。
そしてアニマの使徒を探し始めたものの未だ何の手掛かりも得られてはいない現状で、たとえ無駄になったとしても何か行動をしたかったアルバートはその村への調査団の派遣を決定したのだった。
そしてその派遣された調査団は目撃する、森から溢れそうになっている魔物や魔獣の群れを⋯⋯
『魔獣や魔物が大量発生したわ』
そう通魔鏡によってルミナスから、みんなへと連絡が入った。
「そっか⋯⋯」
アリシアはこの時アリスティアが復活しているのだという事を覚悟した。
『それでルミナスはどうするの?』
フィリスの質問にルミナスは、
『私は討伐軍と一緒に出るわ⋯⋯万が一のことがあってもこの鏡のある場所に転移で来れるのよね?』
「もしアリスティアがいたらすぐに呼んで」
『そうならない事を願っているわ、フィリスこっちは陽動の可能性もある、あんたはそこを離れない方がいいかもね』
『わかったルミナス、私はギリギリまでエルフィード城にいるわ⋯⋯でも危なくなったらいつでも呼んでね!』
『頼りにしてるわよ』
こうしてアリシアとミルファは魔の森で、フィリスはエルフィード城で待機したままルミナスは出陣する。
偵察の為の使い魔によって帝国軍がこちらへと進軍してくることを、アニマの使徒たちは確認していた。
「⋯⋯どうやら気付かれたようだな」
「以外に早かったな」
「別にいいんじゃないの、これだけたくさんいればさ」
この数日でアリスティアは大量の魔物や魔獣を造り続けて、それがダンジョンからあふれ出し近くの森を埋め尽くしつつあった。
後はこの圧倒的な軍勢で帝国の首都をすりつぶすだけだったのだが、アニマの使徒たちの予想より早く気づかれてしまった。
「まあいい、パーチェお前は魔物の群れの指揮を頼む、リーベお前は宮殿を目指せ」
「りょうかーい!」
「とうとう来たなこの帝国が終わる日が⋯⋯」
そんなアニマの使徒を見つめながらアリスティアは笑っていた。
「アリスティア様⋯⋯それでは行ってまいります」
そう言って跪きしばしの別れを告げた。
「頑張ってね、もしみんな死んじゃっても後で生き返らせてあげるから!」
既にアニマの使徒の予備の体は造ってある、そしてこの工房に居る限りアリスティアは安全で心配は何もなかった。
「行くぞみんな! 勝利をアリスティア様に捧げるのだ!」
そしてアニマの使徒の進撃が始まった。
一方、アリスティアの工房近くの小さな村は魔物や魔獣に囲まれていた。
「どうだ!? ついてきてよかっただろカイン!」
「まったくだよ流石だぜザナックお前はよ! だから死ぬんじゃねえぞ一杯奢るまではな!」
その小さな村は二つのSランクパーティーが決死の防衛をしていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます