第七章 始まりの魔女は永遠に
07-01 アリスティアの旅立ち
アクエリア共和国西の都ローシャ、今日そこではこの大陸最後の魔女と思われていた森の魔女の冥福を悼む、送魂祭が執り行われた。
そしてそこで人々は偉大な魔女との別れを済ませ、そしてその後継者を知る。
人々は新しい時代の到来を予感し、後継者である銀の魔女とその仲間の登場に期待と夢を馳せていくのであった。
しかしそんな賑わうローシャの街から人知れず去っていく者たちが居た。
彼らこそが今世界を騒がせようとしている秘密結社〝アニマの使徒〟と、その崇拝の象徴たる
ローシャを旅立った彼らは帝国領を目指す、そこには現在ダンジョンとして残るアリスティアの工房跡が数多く残されているからだ。
そこに巣くう魔物や魔獣そして訪れる冒険者などにまだ発見されていない秘密の通路があり、その奥には現在も稼働している工房が現存している。
だから彼らはまずそこに身を寄せるのは必然であった。
「アリスティア様お疲れではありませんか?」
アニマの使徒のリーダー、フリーダムがアリスティアへ訊ねる。
「ぜんぜん平気よ! だってリーベが運んでくれてるんだもん!」
今アリスティアはリーベの肩の上に座っていた。
「じゃあリーベは疲れて無いの?」
そうパーチェはリーベへと訊ねる。
「アリスティア様を担いで疲れなどあるはずが無い、まあ軟弱なお前たちには無理な話だがな!」
そう言って明るく笑う。
「まったくリーベの奴調子にのっちゃってさ」
「まあ確かに事実だ、いくらアリスティア様が軽くてもこの山道を背負って歩き続けるのは俺たちには困難だからな⋯⋯リーベ頼んだぞ」
「はっはっはっ! 吾輩にお任せあれ!」
そして彼らの旅の足取りは軽かった、しかし⋯⋯
突然行く手を阻むモノが現れた。
森に棲む魔獣
その
しかし手負いの瀕死とはいえ相手は凶悪な
リーベはそっとアリスティアを地面に下ろし
それよりも先に
「アリスティア様!」
「待て! 落ち着け!」
そのままアリスティアは
「痛かったでしょう辛かったでしょう、大丈夫今私が治してあげるから」
そして
そんな
「うふふ! くすぐったい」
どんな大怪我でも癒すアリスティアの御業、そして凶悪な魔獣であってさえアリスティアの前では心を開くのだ。
そんな光景を目の当たりにしたアニマの使徒たちは改めて確信する。
アリスティアこそが最も素晴らしく偉大な魔女であることを。
「あら、あなた私を乗せてくれるの?」
気がつくとアリスティアは
「さあ、出発よー!」
「あ、アリスティア様!?」
突然役目を奪われたリーベは涙目だった。
「やーい取られてんの」
「何だとー!」
「リーベはずっと私を乗せて歩いて来たんだから少し休憩ね!」
「アリスティア様のご命令だぞ」
「くっ⋯⋯命令なら仕方がない⋯⋯しかし⋯⋯」
そんな彼らの旅はどこまでも順調である、やがて日が落ち彼らは野営を始めるのだった。
日が暮れ送魂祭が終わった後、各国の首脳陣たちはローシャの大聖堂の大会議室へ集まる。
彼らたち王はすぐに帰国しなくてはならない、しかしその前に話しておかねばならない事があった。
それは今回ウィンザード帝国の皇子ミハエルを誘拐した、アニマの使徒と名乗る者達についてだ。
「ミハエルよ語れ! お前が見聞きした奴らの実態を」
そう母であり皇帝でもあるアナスタシアに促され、ミハエルは話し始める。
「僕を誘拐した奴らは〝アニマの使徒〟と名乗る三人の男たちだ、その目的はあの破滅の魔女アリスティアを復活させる事だって言っていた」
「破滅の魔女だと!」
突然出てきた忌まわしい名にその場は騒然となる。
「静かに! ミハエル続きを」
「はい母上、それ以外にこの世界へ復讐するとも言っていました、破滅の魔女を倒した恨みを晴らすと」
一同は沈黙する、そんな沈黙を破ったのはアリシアだった。
「あの、破滅の魔女って死んだんじゃないんですか? それなのに復活ってどういう事? 復讐だけならわかるけど?」
アリシアは魔女だ、だから何かしら対策していたとすれば死んでも復活できることはあり得ると知っている、しかし二百年も前に姿を消した魔女が今更復活はあり得ないとも思っている。
そんなアリシアの問いにアナスタシアは重い口を開く。
「アリシア殿、世間一般に出回っている〝破滅の魔女伝説〟は全てではない、意図的に隠してきた真実がある⋯⋯奴は死んでおらん封印したに過ぎぬのだ」
沈黙が訪れる、しかしアナスタシアは再び話し始める。
「奴は限りなく不死に近い魔女だった、何度森の魔女様が倒してもどこからともなく復活する、その秘密は奴は魔法の御業で自身の体の予備を造り続けたのだ、そして倒されると魂が予備の体に宿り復活する」
「あいつらは言っていた、何処か別の体から魂を呼び寄せる計画を立てているって、そうやって破滅の魔女を復活させる気なんだ!」
そうミハエルが大きく叫ぶ。
「二百年封印されている本体から手元の予備の体に魂を移動させる⋯⋯確かにそれなら復活出来るかもしれない」
図らずもアリシアの発言によって彼らの計画の信憑性は上がった。
「そんな事防がなきゃ!」
「でもフィリスどうやって邪魔するのよ、あいつらその気になったらいつでもどっかから破滅の魔女の魂呼び出せるのよ」
ルミナスといえどいい対策は思いつかない、しかしアリシアがそれを引き継ぐ。
「⋯⋯対策ならある、その破滅の魔女の本体を見つけ出して、その反魂の魔法を弾ける結界で覆えば」
「それで防げるのアリシア!」
「でもその為には、その破滅の魔女本体の場所を知らないと」
そう言ってアリシアはアナスタシアを見る。
「それが正確には記録に残っておらん、ただ、『この世界より追放した』と記述があるのみじゃ」
「⋯⋯空間系の魔法でも使えば出来る⋯⋯いや、師はそういったのは使えなかったはず」
アリシアは思い出す、森の魔女は収納魔法すら苦手で大した量は入らないと言っていた事を、だから破滅の魔女を異次元に送るような事は出来なかったであろうと。
「とにかく本体は探したところで見つかる保証もない、しかしその反魂の魔法とやらが完成すればそんな事とは関係なく復活する可能性がある」
そうアレクは結論付ける。
「なら決まりだな、そのアニマの使徒とやらを先に見つけ出す、それしかない」
ここローシャを荒らされたオリバーは、怒りに震えながらそう言った。
「同感じゃ、我々に喧嘩を売った以上必ず報いを受けてもらう、ラバンよ其方にも力を借りるぞ」
「そうだな、この世界に危機が迫っているのだからな」
そしてアニマの使徒は全世界に指名手配されるのだった。
翌朝アリスティア達は旅を再開する。
しばらく進み森を出るとアリスティアを乗せた
どうやら彼との旅はここまでのようだった。
「元気でねー」
アリスティアは手を振りながらその魔獣との別れを惜しんだのだった。
これより数日前、ある冒険者のパーティーが
そしてその生存確認と周辺警護の為、そのまま依頼主である近くの小さな村へ滞在していた。
しかし数日後、その村を傷一つ無い
その
そしてこんな事はどこにでもある不幸な出来事として、その村では処理されたのだった。
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