06-13 『世界』を護る究極の破壊魔法
魔女は多少の例外はあるが基本的には自分の魔法に〝名前〟を付けない。
何故なら魔術と違って細部まで調節や融通が利く魔法は一見同じように見えても、それを使う魔女にとっては毎回違うものだからだ。
だからいちいち名前なんて付けていられないのだ。
だがもし魔法に名前を付ける事があるとすればそれは何度も使い同じことを繰り返す前提の魔法か、もしくは⋯⋯それ以外に使い道など決してないような圧倒的に突き抜けたものに限られる。
今からアリシアが使う魔法、その名は――
あれからおよそ十分が経った、巨大
もしもさっきのアリシアの魔法で削っていくなら、あの
しかしいくら何でもそれは被害が許容範囲を超えすぎている、またそれで確実に倒せる保証も無かった。
そんな中ルミナスが考えた作戦は最小限の被害で収まるものであったのだ。
だからその作戦を信じ、全てをアリシアに託すべくフィリス達は行動を開始した。
今
二人の役割はこの
フィリスが持つ『
「でりゃーー!」
少し離れた位置からフィリスは剣を振りかざす、そしてタイミングを見計らい剣に込められた魔力を飛ばした。
アリシアが想定していなかった使用方法だったがフィリスはそんな事を感じさせない、むしろ自然にそれを行っていた。
フィリスに注意を向けた
「『反射』!」
迫りくる攻撃をミルファが持つ『
「よし釣れた! 逃げるわよミルファちゃん!」
「はい!」
二人は
この後も何度も再生させない程度の攻撃と後退を繰り返し、ルミナスが決めた地点まで引っ張っていくのだった。
その光景は遠く離れたローシャの街の防衛線でも観測できていた。
現在アレクは住民の避難誘導を行っているためここにはいない。
だからそれを見守っていたのは防衛線を指揮するオリバーと合流を果たしたアナスタシアである。
「奴の動きが⋯⋯向きが変わった!? 何をする気じゃ?」
そしてアナスタシア以上にこの国の地理に詳しいオリバーにはわかってしまう、その先に何があるのか。
「まさかあの子たちは、奴を湖に落とす気か!?」
観光地として名高いここローシャの名物は当然海である、しかしもう一つ人気のある観光名所にして人々の生活を支える基盤である、世界一美しい湖〝ルース湖〟があったのだ。
確かにこのまま街を蹂躙されるよりはマシだが、はたしてあんなものを湖に落としてその後どうなるのか?
オリバーは崩れ落ちる⋯⋯即死と緩やかな死、どちらかしかこの街には未来が無いのだと悟って⋯⋯
フィリスとミルファは全力疾走で逃げ続けていたルース湖へ向かって、そしてそこで待つルミナスを信じて。
美しい湖まで辿り着いたフィリスはミルファを背負い水面を駆けていく、そして
「後は任せたわよ、ルミナスーー!」
その時ルミナスは心穏やかにその手の『
「出来たばっかりなのに壊れるかもしれない⋯⋯でもアンタを信じてる」
ぶっつけ本番でやるしかない、その手に強く杖を握り締めるルミナスに迷いはなかった。
そしてフィリス達が空へと駆け上がり
「とくと見よ、大魔導士ルミナスの大魔術を!」
『
「『
全部で七発の同時発射された魔術が湖の表面を瞬時に凍結させた。
そして
どうやらグリップが上手く伝わらない為動けなくなったようだった。
ルミナスは膝から崩れ落ちて息を切らす、しかしその目は強い力を宿したままだ。
「やった⋯⋯やったわよ! 私はやった! 後はあんたの番よアリシアーー!」
そのルミナスの雄叫びは湖の底で待ち受けていたアリシアへと届いた。
――伝わったよ、ルミナス⋯⋯後は私の役目だ。
『
これより放つのは
師が亡くなった後遺品の整理で見つけた、おそらく師以外の
一度だけ試そうとしてあまりの恐ろしさに中断し、永久封印を決意した魔法。
しかし、その封印をアリシアは解く⋯⋯全てを護る為に。
とてつもなく巨大な魔法陣が描き出される、そしてアリシアの心が
【我世界を護りし者なり】
【世界を滅ぼす災厄を打ち砕く者なり】
【この究極の破壊にて】
【世界を護る】
――そして、その魔法の名を心で呼んだ。
――【
その時全ての人々が見た。
天を貫く光の柱を⋯⋯
間近で見守っていたフィリス達の目の前で、あの巨大
「やったの⋯⋯?」
そのフィリスの疑問に誰も答えない。
「フィリス様あそこに!」
その時ミルファが指差す先には、むき出しになった湖の底に横たわるアリシアの姿だった。
すぐさまフィリスとミルファは駆けつける。
そして遅れて体を引きずりながらルミナスがやってきたときには、フィリスが取り乱してアリシアの体をゆすっていたのだった。
「起きて! ねえ起きてよアリシア!」
傍らでミルファは自身の魔力をアリシアへと送ってはいるが効果がない。
今、アリシアは死にかけていた。
今のルミナスには一緒になって送れるような魔力は残されてはいなかった。
「くそ! エリクサーさえ残っていれば⋯⋯」
そのルミナスの言葉にフィリスは思い出す、かつての戦いの時貰ったままの⋯⋯そして使わずじまいだったあの時のエリクサーの存在を。
通魔鏡から取り出したエリクサーをアリシアに飲ませようとしたが、アリシアにはそれを飲む力も意識も無かった。
フィリスは意を決してエリクサーを口に含みアリシアへと口移しで押し込んだ、そして⋯⋯
しばらくしてアリシアは目覚めたのだった。
「ありがとうみんな⋯⋯死にかけたよ、もう二度とやらない⋯⋯あんな魔法は」
起き上がったアリシアは自力で残ったエリクサーを飲み干して、今はかろうじて立てる程度に回復していたが、きつそうなのは見て取れた。
「そうね、もうやらない方がいいわね」
「天空より墜ちてくる星を打ち砕く魔法⋯⋯とても敵わないわね」
「でもどうします、今の⋯⋯どう説明すれば?」
アリシアにはとても隠蔽できるとは思えなかった、この事を知られた以上人々が自分へと向ける目はきつくなるに違いないと⋯⋯しかしあまり後悔もしていない、この先はどうかわからないが今はやり遂げたという気持ちの方が勝っていた。
⋯⋯だからまた自分は森の中の一人の時に戻るだけなんだと、アリシアは自分に言い聞かせる。
「とりあえず父様たちには本当のことを言うしかないけど、民衆には巨大
「あの時の
「そうですね」
しかしアリシアに聞こえて来るみんなの相談は、アリシアを守ろうとするものだったのだ。
――やってよかった。
失うかもしれないもの以上の、大切なものが自分には出来ていた。
正直アリシアにとって、世界なんてどうでもよかった。
でも今、自分はあたたかなものに包まれてここにいるのだと、実感したのだった。
――守りたいな、この世界を⋯⋯
そんな芽生えた思いを胸に秘めアリシアは戻る、みんなと共にローシャの街へと⋯⋯
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます