05-15 奇跡への挑戦
話し合いが一段落してアリシアは収納魔法からオリハルコンのインゴットを取り出し、それに魔力を込めてフィリスのデザイン画通りの形へと変える。
「え? もう出来たの?」
「形だけだよ、重量のバランスとかあるからフィリスちょっと振ってもらえないかな?」
「ええ、わかったわ」
そう言ってフィリスは庭に出てその試作の剣を振って見た。
「どうフィリス?」
「うん、重さはこんなもんでいいよ! でももうちょっとだけ長くして、先端は軽めに出来るかな?」
「調整する、貸して」
フィリスから剣を受け取ったアリシアは注文通りに剣の調整をする。
その後何度か同じやり取りを繰り返してフィリスの理想になった。
「うん! これでいい!」
そして調整が済んだ試作の剣をアリシアはいったん収納魔法へと仕舞った。
「どのくらいで出来るのかな?」
「大体三日くらいかな、何度か創りなおすと思うし」
「三日か⋯⋯」
「それがどうかしたの? 全部で三個創るから、早くても七日くらいはかかると思うよ」
「アリシアが創ってくれる剣で私は強くなれるそれは間違いない、でもそれだけじゃだめだと思って」
「そうねフィリス、それを受け取る以上私達には責任と義務があるわ、それを正しく使いこなす器量が求められる」
「そうですね、私は盾の扱いなんて素人ですから」
どうやらアリシアの武具創りは三人の向上心に火をつけたらしい。
だからアリシアは嬉しかった、自分が理想を押し付けているのに仲間がそれを受け止めてくれた事が。
「よし! アリシアさまが創り終えるまで私達も特訓よ!」
「そうね、私は母様と剣の稽古でもしようかしら?」
フィリスは最近思い始めていた、自分の魔力頼みの雑な強さではなく母の様な剣の技量の高さを身に着けたいと。
「あのフィリス様私も一緒に訓練させてもらえませんか? 盾の使い方をきちんと学びたいので」
「ええ、構わないわミルファちゃん!」
剣や盾の扱いなどアリシアにはわからないのでそっちは任せる事にする、後はルミナスだった。
「ねえルミナス、あなた修行は独学なの?」
この疑問はアリシアが常々抱いていたものだった。
「最初はきちんと指導してくださる方はいましたわ、しかしここ何年かは独学ですね」
やっぱりそうかとアリシアは思った、アリシア自身がここまで早熟したのは師だけでなく脈々と続いてきた魔女の訓練法を叩きこまれた結晶だからだ。
しかしルミナスにはそれが無い、おそらく人類史上最高の魔道士であるルミナスが上達する方法など、周りには誰も指導出来る人はいなかったのだろう。
「ルミナス、魔女の訓練をやってみる気はある?」
「それはアリシアさまが私に魔法を教えてくださる、という事ですか?」
「ちょっと違う、魔法を教える気はないよ。 あくまでその下地となる魔力の操作や制御の訓練」
「それは魅力的な提案ですね」
「私が見たところルミナスの基礎的な部分は行き詰っているんじゃないかな、と」
これはアリシア自身にも言える事だった。
師を失ってからのアリシアは残された資料を基にさらなる成長を続けているがそれは多様性の拡張であり、基礎能力はそれほど変わってはいない。
その提案にルミナスは決意する。
「アリシアさまその申し出有難く受けさせて頂きます、しかし私は貴方の弟子になる気はない、それでもよろしいのですか?」
「うん、いいよ」
アリシアにとって競い合える相手はずっと欲しかったが、それは別に同じ道を歩む者でなくともいいと思う。
何故ならアリシアにとっての魔法は繋がりであり手段だからだ。
同じ魔法で競い合える同胞が居れば確かに素晴らしいが、相手が魔術だからこその対抗心もある。
きっとこの先の時代は魔法は廃れ、魔術が普及するだろう。
その流れをアリシアは変える事は出来ないし変える気もない、でも魔術とは違う魔法の在り方を探していきたい、そんな思いが芽生え始めていた。
「ねえアリシア、魔力の基礎訓練ってどんなの?」
「私も気になります」
「そうだね隠すほどでもないし、みんなにも見てもらおうか」
そう言ってアリシアは目の前の池の水を魔力で持ち上げる。
その持ち上がった水は人の頭位の大きさの真球を形作っていた。
それを
「薄い魔力の膜で水を完全に固定している⋯⋯」
「さらにこんな事もできる」
そう言ってアリシアは水を鳥に変えたりして見た。
そしてルミナスはそれを真似する、魔力の手で水を掬い持ち上げる。
しかしその水の周りの魔力の膜の厚さは均一とはいいがたい歪さで無駄に力が入っていて⋯⋯そうこうする内に弾けた。
「いずれ魔力の操作が手足を動かし呼吸するくらい自然に出来るようになると、無詠唱魔術の溜がなくなるよ」
「いいですね、やってみますわ!」
そう言ってルミナスは水浸しのまま、子供の様に無邪気に笑った。
となりでミルファも試してみているようだが全くできていなかった。
「私もやってみるか⋯⋯どれ」
そしてフィリスはいとも容易く成功する。
水の量はコップ一杯分ぐらい、移動場所も手と手の間位の狭い範囲だがきわめて安定していた。
「フィリスやった事あるの、これ?」
アリシアが疑問に思う位スムーズだった。
「いや、初めてだけど⋯⋯」
「⋯⋯そっか身体強化とかの技術は限りなく無属性の魔法や無詠唱魔術に近いんだ、だから繊細さや精密な魔力操作は得意なんだフィリスは」
「じゃあ私は魔力操作に関してだけなら魔女と同格なの?」
「うーんどうなんだろ? 仮に私がフィリスみたいな身体強化を使ったら間違いなく体を壊すし」
「そうなの?」
「魔力の量と体の鍛え方が違うからね、私とフィリスは⋯⋯そうだ!」
何かを思いついたアリシアはその場でジャンプする、しかし落下せずその空中の位置で止まった。
「浮遊魔法?」
「違うわフィリス! アリシアさまは足元の空気をさっきの水みたいに固定して、その上に載っているのよ!」
「ルミナスの言う通りだよ、そしてこれならフィリスも出来ると思う」
言われるままにフィリスはその場で何度か飛んでみたが上手くいかない、そこで手と手の間の空気を固定してそのまま手で体を空中へと押し上げる。
一瞬体が持ち上がったがすぐに空気の固定は解除され落ちた、しかし手ごたえは感じたのだった。
「何とかできそう、これ覚えたら空中でジャンプとか出来るかも!」
「たぶんフィリスはあまり離れた所は魔力で操作は出来ないと思う、けど足の裏なんかの体の表面に近いところならかなり器用に出来るようになるよ」
「うんわかった! やってみるわね!」
そう言ってフィリスは空中を駆け走り回る自分の姿をイメージする。
そして同じイメージを心に浮かべたルミナスは、
「あんたますます人間離れしていくわね」
「それはルミナスには言われたくないよ」
そう言いながらお互い笑っていた。
「あのアリシア様全く出来ません、何か取っ掛かりになるコツは無いのでしょうか?」
そんなミルファにアリシアは優しく答える。
「魔力を操作するのは頭じゃなくて心で動かすんだよ、ミルファなら出来るよ」
そしてミルファは言われるままに池の水へと魔力を送る、そして水面に軽い渦が出来た。
「駄目です、なんか上手くいきません」
「もしかしてミルファは魔力で覆うのではなく、同化させる方が向いているのかな?」
アリシアは収納魔法から粘土を取り出しミルファに渡した。
「こっちでやってみて」
言われるままにミルファはその粘土に魔力を通し同化させる、そしてぎこちないが思い通りに形を変えていく。
「あっこれなら出来ます」
試しにその粘土をフィリスとルミナスも試してみた結果、やはりフィリスは出来たがルミナスは上手くいかなかった。
「慣れるとどっちも出来るようになると思うけど、最初はやりやすい方で練習するといいよ」
「はい、ありがとうございます」
この時ルミナスはさっきのアリシアを思い出して思った。
「もしかして粘土じゃなくてオリハルコンでもこれが出来るようになったのがアリシアさまですか?」
「そうだけど?」
そのアリシアの答えにフィリス達は先は長そうだと感じながらも、これが奇跡へと続いている一歩目なのだと強く認識したのだった。
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