05-14 理想と構想
アリシアとルミナスは既にフィリスが考えて持って来ていた剣のデザイン画を見ていた。
「これがフィリスの剣か⋯⋯」
「くう、やっぱりカッコいいじゃない!」
そして向こうではフィリスとミルファはミルファの新しい盾のデザインを話し合っていた。
「そのフィリス様、あまりゴテゴテした恥ずかしいのはちょっと⋯⋯目立たないシンプルな物がいいです」
「なるほど、となると⋯⋯ねえアリシア、盾の素材はオリハルコンなの?」
使う素材によってはその素材の元々の色があるためデザインに影響をあたえてしまう、なのでとりあえずフィリスは確認してみた。
「うーん、フィリスの剣はオリハルコンだけどミルファの盾はミスリルと魔石を組み合わせた物にする予定だけど」
「そっか、オリハルコンはちょっとミルファちゃんには重いかもね」
「確かにミスリルの方が軽いしそれ以外にも魔力の通り方なんかの癖も違うし、今想定している盾の構想ではオリハルコンほど丈夫じゃなくてもいい気がする」
「え!? 盾なのにですか?」
ミルファは困惑する、命を預ける盾が丈夫さを重視されないとは一体?
「今まで使ってもらってた盾には『吸収』が付与されていたけど今度は『反射』も付与する、そうすれば理論上どんな攻撃も防げる」
「エグイ組み合わせですね⋯⋯確かにそれなら盾自体の防御力はほとんど関係ない、取りまわし易さや魔力の通しやすさから考えてミスリルは妥当ですね」
と、ルミナスは感想を述べた。
「それにミスリル以上の固さっていったらアダマンタイトやオリハルコンぐらいだし、どっちも重たいからね」
ミスリルの特徴はとても軽くて魔力の通りが最高に良いこと。
オリハルコンの特徴はミスリルに比べるとさらに丈夫だが重い、そして魔力の通りは少し悪くなる。
そしてアダマンタイトの特徴はとにかく丈夫だがとにかく重くてとにかく魔力が通らない。
なので竜とやりあう様な最高クラスの装備の素材にはこの三種類の金属が大抵選ばれるが、用途によって使い分けられている。
「そっか、じゃあミスリルの色の銀色を生かして鏡のようなすっきりしたシンプルな感じかな?」
「ええ、そういうのがいいです!」
そしてミルファの盾は楕円形の鏡のようなイメージでデザインされていく事になった。
こういった話が進んでいる横でやや不満なのはルミナスだった。
「いいわねあなた達は、見た目にこだわれて⋯⋯」
これから作るルミナスの杖には自然に育った木をそのまま使う為、デザインをいじれる余裕が殆どないのだった。
「とりあえずルミナスの杖はこんな感じになるかな?」
そう言ってアリシアが収納魔法から取り出したのは一本の杖だった。
「アリシアそれは?」
アリシアはその杖を大切にしながら懐かしむように語る。
「この杖は私がまだ五歳くらいの時に、これから作るルミナスのと同じ製法で師が作ってくれた物」
いわゆる普通の魔女の杖というイメージそのままの姿だった、先端のねじくれた感じと取り付けられた宝玉が輝くそれはルミナスの琴線に触れる物だったのだ。
「いいじゃないですか! そういうの!」
とりあえずルミナスの機嫌は直った、しかしフィリスには疑問が生まれる。
「ねえアリシア、あなたどうしてその杖を使わないの?」
そんなフィリスをルミナスは呆れたように見る。
「そうよねあんた、魔術はからっきしだったんだから杖なんて無縁だったのよね⋯⋯」
「それはそうなんだけど⋯⋯」
そこでアリシアは杖の役割について説明する。
「フィリス杖には大きく分けて二つの役割がある、まず一つ目は自分の能力を超えた魔法や魔術を使えるように補佐してくれる効果、そして二つ目は既に使える魔法や魔術を普通より楽に使ったり増幅したりする効果」
「なるほど、訓練用の素振り専用の剣と実戦用の剣みたいな感じかしら?」
「その認識でいいと思う、ルミナスに作る杖は主に二番目の効果がメインになると思うけどいい?」
「ええ、それでお願いしますわ」
「じゃあさっきのフィリス様の質問の答えはその杖はアリシア様にとっては訓練用の杖で、もうその範囲は卒業されているという事なのですか?」
「その通りだよミルファ、この杖は最初の頃の私を大きく導いてくれたもう役割を終えた杖、でも師が私に最初に贈ってくれた物だから今でも大切にしている」
そう言いながらアリシアはその杖を大切に再び収納魔法へと戻した。
「フィリス、ミルファの盾のデザインはもう終わった?」
「ええ、大体決まったわ」
「そう、ならこれから創るみんなの武器の基本性能に関して説明したいと思う、いいかな?」
全員神妙な表情でアリシアの次の言葉を待つ。
「まずフィリスの剣は大きく変える気はない、その理由は今の私がどれだけ前より良い物が創れるかという挑戦もあるけどフィリスには今のままの戦い方を変えて欲しくないと思っているから、でも素材をミスリルからオリハルコンへ変更する事で段違いの耐久性が出るから今までつけていた付与をそのままスケールアップしたものにできる、どう?」
その説明を聞きフィリスは、
「いいじゃない、それで!」
フィリスは自身の特性を生かして様々な魔法具を同時に使う様な邪道な戦い方もしようと思えばできるが、しかしやはり剣に関してだけは真っすぐな王道を貫きたいそんな理想があった。
一方アリシアの理想もそんな王道を行くフィリスの姿なのだ、自分のエゴを押し付けているのはわかっているがそれを選んでくれたフィリスの期待に応えるいや超えた剣を創ると、あらためて決意する。
「なので付ける付与は今まで使っていたアレク様の剣の『切断』『防護』『再生』に加えて『回復』と『増幅』になるかな?」
「全部で五つも付与を⋯⋯間違いなく国宝級ね」
そんな感想がルミナスから零れる。
「まだ創ってもいない物だけど今から贈る物はあくまでもみんなの身を守る、目的を叶えるための手段そう割り切って欲しい、場合によってはいくらでも使い潰しても構わないから」
「ええわかったわ、アリシア」
「次はルミナスの杖だけど今日までのルミナスを見ていて残念だと思える所を補えるような物にしたい、と思っている」
「つまりアリシアさまから見た私の弱点、という事ですね?」
「弱点というには酷なものだけど⋯⋯まず術の発動が遅い、同時に別種類の術が使えない術の威力が一定で強引な力押しに弱い、そんなところ」
「くう⋯⋯」
正論をぶつけられてルミナスは悔しかったがアリシアに言われては何も言い返せない。
「アリシアから見るとルミナスはそんな風な評価になるのか⋯⋯ものすごい贅沢な欠点ね」
「逆にこのあたりの欠点を克服されると私はルミナスに負ける可能性が出てくる」
「ええっ!」
そのアリシアの告白にルミナスは驚愕する。
「だらだらと長引くような戦いなら負けないけど、一分以内の短期決戦とかになるとね」
「そんな可能性のある武器を私に贈るのですか?」
「⋯⋯傲慢な言い方だけど、私には競いあえる同胞が居ないからね」
「⋯⋯わかりましたわ、けど決して私は貴方の踏み台で終わりはしない、私は私のやり方で貴方を超えるわ!」
「楽しみにしている」
この時のアリシアとルミナスは本当に楽しそうだったと、フィリスとミルファは思ったのだった。
「だからルミナスの杖には『装填』『解放』『復唱』『増幅』『再生』あたりにしようと思うんだけど」
そのアリシアの申し出にルミナスは心の底から震える。
「何ですかその魔道士の夢が詰まった欲張りセットはーー!」
どうやら喜んでもらえたようであった。
「最後にミルファの盾なんだけど⋯⋯『吸収』『反射』『再生』は当然として一つは何か攻撃できる手段と、もう後一つは何がいいかな?」
「え? アリシア様、盾なのに攻撃能力を付けるんですか?」
ミルファはそのアリシアの提案に疑問をしめす、しかし⋯⋯
「受け取っておきなさいミルファ」
「そうねミルファちゃん、場合によっては守る力より倒す力の方がより被害を減らせる事もあるわ」
「ミルファが優しい子だってのはわかっている、だから過剰なものはつけないけど攻撃出来ないのとしないのは、やっぱり違うと思う」
「⋯⋯わかりましたなら、相手を殺さずに済むようなものをお願いします」
そう言えるミルファを本当の意味で守れる物を創るとアリシア改めて誓う。
そしてその後四人で話し合った結果、盾の性能をより活かせるようにする為に『誘導』を付与する事で決まったのだった。
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