05-16 それぞれの成果

「よし二つ目完成⋯⋯と」

 あれから五日経ちアリシアはようやく二つ目の武具を完成させた。

 ベースとなる本体の作成自体はそれほど時間がかからないが、魔法付与の為の魔法文字ルーンを刻むのだけは一発勝負の為何度もやり直すはめになったからだ。

 三つくらいまでの同時付与ならアリシアはつつがなく行えるが、五つとなると困難になってくる。

 おまけに付与同士の干渉や同期など予想外の結果になる事もある。

 例えばフィリスの剣の『増幅』は他の付与と連動させる前提で組み込まれているが、ルミナスの杖の『増幅』は干渉させない様に細心の注意を払ってある、といった具合だ。

 この調整のおかげでフィリスの剣は本当にフィリスにしか使えない物に仕上がった。

「後はミルファの盾か⋯⋯よし、がんばろう」

 ここまでの高度な魔法文字ルーン付与は魔力消費が激しいため、実際には作業時間よりも休憩時間の方が長かったりする。

 しかし妥協は一切しない、今持てる力の全てで満足のいく後悔しない物をアリシアは創り続けた。


 フィリスとミルファはエルフィード城の訓練場に居た。

 そして今フィリスは母であるセレナリーゼと剣を合わせていた、その内容は終始フィリスが押されっぱなしである。

 その理由はお互い身体強化を使っていない事と、これまで戦ってきた相手の経験が違いすぎるためである。

 セレナリーゼは辺境伯家の騎士として育てられ、主に対人戦を想定した訓練を経て最近までは冒険者セレナとして小型の魔獣相手に腕を磨いてきた。

 一方フィリスは大型の魔獣や竜といった大物をねじ伏せる戦い方を続けてきた為、こういった駆け引きのある対人戦は意外と向いてなかったりする。

 そしてそんな二人の訓練をミルファは傍らで見ていた。

 今のミルファの訓練は見る事だからだ、自分が戦っているつもりで自分ならどうあの攻撃を捌くか考える。

「よしフィリスは休憩! 次ミルファ!」

「はい、お願いします!」

 そんな盾を構えたミルファに容赦なくその刃引きした剣を向ける。

 ――大したものだな⋯⋯

 セレナリーゼはある意味自分の娘のフィリス以上にミルファを評価する、それはミルファからは恐怖心といったものが感じられないからだ。

 しっかりと冷静にこちらの動きを見ている、時折受け損なってダメージを負ってもミルファは自分の魔術で治療回復してしまう、そしてそんな痛みや恐怖に耐える強い目的意識や使命感がある⋯⋯これは化けるかもしれないとセレナリーゼは思った。


 ルミナスはアリシアから教わった水を使った魔力制御の技術を習得しつつあった、思い通りに形を変える水の量はまだアリシアには及ばないが現時点でぎこちなさはかなり消えていた。

 そして時折無詠唱魔術を試し打ちしてみるとはっきりとわかる、以前よりずっとスムーズなのが。

 それにこの訓練の成果なのかわからないが、初級クラスの魔術ならいつの間にか二種類同時に発動できるようにもなっていた。

 確かな成長の手ごたえを感じたルミナスはその勢いのまま一つの魔術を完成させた。

「『滅刃の重水弾アクアマリン・スプラッシャー』!」

 小さくまとまった水玉が岩に命中したとたんに弾けて刃と化す⋯⋯岩は真っ二つになった。

「この水量でこの威力⋯⋯よし! 水の奥義完成! 後は風だけね」

 この世界で普及している攻撃魔術の最高位『最上級エクス』を超える全ての属性魔術を完成させること、それが今のルミナスの目標だった。


 そして八日目の朝、アリシアから全ての武具が完成したとの連絡が来たのだった。


 実際に四人全員が集まったのはその日の昼過ぎであった、そしてみんなの目の前でアリシアは収納魔法から三つの武具を出す、そしてそのテーブルの上に置かれたものを見て――

 三者三様の反応が返ってくる。

 まず真っ先に奇声を上げ飛びついたのはルミナスだった。

「何これ! ナニコレ! カッコいいじゃない!」

「綺麗な剣⋯⋯」

「⋯⋯よかった派手じゃなくて」

 ルミナスに比べればフィリスとミルファはある意味感動が薄かった、何故なら当初のデザイン画通りの物が出来上がっていたからだ。

 しかしルミナスの感動には理由があったのだ。

「アリシア、杖はデザイン凝れないんじゃなかったの?」

「うんそうなんだけどね、これに関しては嬉しい誤算だったよ、成長した精霊樹が実にいい感じにねじれて育っていたんだ、だから自然とああいうデザインに出来たんだよルミナスの気持ちに応えてくれたのかな?」

 今ルミナスが握りしめている杖はその先端が素材となった精霊樹の元の形を生かした龍の姿になっていた、そしてその龍が抱きしめているような感じに大きな宝玉が取り付けられている、他にもその龍のうなじの辺りから背筋に沿って小さめの宝玉が六つも埋め込まれている。

「うひょー、ありがとー、アリシアさまー!」

「⋯⋯どういたしまして」

 そのルミナスのあまりのテンションの高さにアリシアは軽く引いていた。

 次にフィリスは目の前の剣を鞘から抜いてみた。

「――――!」

「フィリス軽く魔力を込めてみて」

 フィリスはアリシアに言われるままに剣に魔力を込めた、するとそれまで黒曜石みたいに真っ黒だった剣身が蒼く輝きびっしりと刻まれた魔法文字ルーンが浮かび上がる。

 それがまるでフィリスの瞳の様な輝きだな⋯⋯と、アリシアは思った。

 そんな剣に見とれるフィリスにアリシアは注意する。

「フィリスその状態で鞘に入れちゃだめだよ、鞘が壊れる」

「ええ、わかったわ!」

 最後にミルファが手に取った盾は艶消しされた銀色の楕円形の形で飾りっ気のない見た目であった、しかしその中心やや上の位置に小さいが宝玉がはまっている。

 宝玉は埋め込まれている様な形で取り付けられているため、簡単に傷付く事はなさそうだ。

 軽量のミスリル製の為ミルファでも問題なく装備できた。

「みんな詳しく説明するからちょっといい?」

「わかったわ」

 そう言いながらフィリスはいったん剣を鞘に納めた。

「まずその武具は今のままでも使えるけど、正式な契約をする事で真価を発揮できるようになる」

「契約って?」

「いつもの様に血とそして『名前』をつける事で成立する」

 アリシアが血と言ったためフィリスとミルファが一瞬嫌そうな気持が顔に出た。

「ああ、ルミナスの杖はもう十分に馴染んでいるからそっちは名前だけでいいよ」

「あらそうなの? じゃああんた達もさっさとしなさいよ」

 そう軽く言うルミナスはすっかり感覚が麻痺しているんだなと、フィリスとミルファは哀れに思った。

「えっとその儀式は血と名前は同時にしなきゃいけないの?」

「うん、そうだよ」

「そっか⋯⋯ならこの剣の事を教えてアリシア、その方がなんか相応しい『名前』が浮かぶかもしれないし」

「それもそうだね」

 ルミナスとミルファも異論はなかった。

 そしてアリシアは説明を始めたこの武具の全貌を⋯⋯

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