05-10 箱庭の大冒険
アリシアの誕生日から三日経った。
「こちらエルフィード王国です、どうぞ」
「此方はウィンザード帝国である」
「えっと、こちらはローシャです」
「問題ないみたいだね」
今アリシア達は魔の森の魔女の庵で、各国に配る通信魔法具の鏡のテストの最中であった。
鏡自体はアリシアの誕生日の前日には完成していたのだが、見た目が地味すぎとフィリスとルミナスに指摘され、フィリスがデザインした台を作り直してそれに鏡の部分を載せ替えてようやく今日完成したのだった。
そしてこの鏡は一対一でも全員と同時にも話す事が出来る。
「ありがとうみんな、これでやっと肩の荷が下りたよ」
帝国での世界会議以降、冒険者ギルド問題や収穫祭そしてこの鏡の作成とする事がずっと続いていたため、アリシアはやっと自分のやりたい事が出来る時間を手に入れたのだった。
とりあえず完成した鏡は魔法の袋に仕舞って、それぞれの国へはフィリス達みんなに運んでもらう事になっていた。
「さて、収穫祭以降初めてこうして全員が集まったわけだけど、みんなこの後時間に余裕はある?」
「ええ、夕方くらいまでなら大丈夫よ」
「こちらも同じく」
「私も予定はありません」
アリシアは全員の都合を確認して話を切り出した。
「よかった、これなんだけど皆にやってもらいたいなと思って」
そう言ってアリシアは収納魔法からここ皆の家のリビングのテーブルの上にそれを置く。
「これは箱庭?」
そう、それはフィリスが言ったとおりの物だった。
「これは魔法の箱庭⋯⋯この中に入って遊ぶことができる」
「この中に⋯⋯」
「⋯⋯入れる?」
「小人になるんですか私達?」
皆の疑問ももっともだ、この箱庭は結構大きいがそれでもテーブルの上に置ける程度の大きさでしかない、ミルファが言う通り中に入るには小人になるぐらいしかないだろう。
「違うよ、みんなはこの人形になってこの中で遊ぶの」
そう言ってアリシアが出したのは、手のひらの上に乗る大きさの皆を模した小さな人形だった。
「なにこれ! 私達の人形!?」
「あら、いい出来じゃない!」
「アリシア様、いつの間に⋯⋯」
とりあえずこの人形の評価は上々だった。
「ところでアリシア、この人形になってってどういう事?」
「みんなにはこの宝玉を握って念じてもらえば、意識が人形に移される」
半信半疑ながらもその宝玉をアリシアから受け取ったフィリスは軽く念じてみる、すると――
人形になった自分を見つめる巨大なみんなにビックリする。
「私、本当に人形になったの?」
フィリスはこの人形の体が自分の思い通りに動くことを確認し、そして自分を見つめるように動かない自分の本体を見た」
「ねえアリシア、そっちの私どうなっているの?」
「意識が無いだけだよ、フィリスが戻るって念じればすぐ戻れるよ」
そう言われるままフィリスは試してみた、言われた通りすぐ元の自分に戻ってこれそのあと何度か出たり入ったりを繰り返す。
「⋯⋯不思議な気分ね」
「私達もやってみましょう、ミルファ!」
「はい」
そしてルミナスとミルファの人形が動き出す、それを見たフィリスがゆっくりとルミナス人形へと指を近づける。
「ちょ!やめてよフィリス」
自分の指をがっしり掴むルミナス人形を確認してフィリスは案外しっかりしているなと思う。
「みんな一回戻って来て」
そう言うアリシアの指示にルミナスとミルファは本体に戻る。
「どうみんな異常は無い?」
「特に何も」
「異常はないわ」
「私もです」
「ならよかった」
そしてアリシアは説明を始めた。
「まずこの魔法の箱庭は今は村みたいになってるけど、実は実体があるわけじゃない幻なの」
「これが幻?」
「そう、だからこんな事ができる」
アリシアは箱庭の中の風景を変えていく、草原そして山から海へと。
「この幻は私達には触れないけど、人形になれば触れるようになる」
「なるほど読めましたわ、これは人形になって様々な場所を体感できる魔法具という事ですね!」
「さすがルミナス話が早い、みんなにはこれを使ってあるものを体験して欲しい」
「あるものって?」
「シナリオを用意してみた、これに沿って迷宮を探索してみて欲しい」
とりあえずアリシアの提案に対してみんなは好意的だった。
「次にこの人形について説明する、これは私が見た感じのみんなの能力を再現して創ってある、基本的にみんなが出来る事はこの人形になっても出来るはず」
「だんだんどう反応したらいいのか分かんなくなるよ」
「なるほど⋯⋯ところでアリシアさまこれって自分以外の人形には入れるんですか?」
相変わらず鋭いルミナスのその理解力にアリシアは感心する。
「結論から言うと出来るよ、例えばフィリスがルミナスの人形に入って魔術を使ったりもできる」
「え! 私が魔術を!?」
「まあ厳密にはこの人形と連動している箱庭が再現してくれるだけなんだけどね」
「そっか⋯⋯でもこの中なら魔術が使える気分が味わえるのか」
「とはいえ今回はみんな自分の人形でやって欲しい、最初はそうしないと違和感がすごすぎておかしくなっちゃうから、全く違う自分を体験するのはまたいずれという事で」
これらの魔法具の仕様の説明は大体終わり次はシナリオについての話になる。
「詳しくは実際に体感しながら感じて欲しいけど大まかなあらすじは、あなたたち〝冒険者スリースター〟のメンバーは偶然立ち寄った村を脅かす新月の塔の魔女を倒すというのが目的になる」
「なかなか面白そうな話じゃない」
「そうですね」
「ねえアリシア、そのパーティ名でいいの?」
「別に構わないけど、みんなが気に入ってくれるなら私も嬉しいかな」
「ところでアリシアさまは参加しないのですか?」
「今回私はやる事があるのでみんなとは一緒に参加はしない」
この時何となくアリシアの企みがルミナスには読めたがあえて何も言わなかった。
その後色々と注意事項などの質問を答えながら準備は終わった。
「じゃあみんな始めて」
アリシアの言葉にフィリス、ルミナス、ミルファは宝玉を握り締めてその意識を人形へと移した。
人形になった三人は箱庭の中に作られた村の入り口にいる。
そんな三人に門番をしていた村人の人形が話しかける。
「あなた達は旅の冒険者様ですか? もしそうならどうか村長に会って話を聞いては貰えないでしょうか?」
「どうする?」
「当然会って話を聞くに決まってるでしょ」
フィリスとルミナスは短い相談で方針を決定する。
そして三人はその村人の案内で村長の所へと案内された。
「私が村長です、この度は話を聞いていただきありがとうございます。 実はこの村に近くに現れた新月の魔女が塔を作りそこで魔物を作り始めたのです、そしてその魔物はこの周囲にも被害を出し始めました、どうか新月の魔女を倒してはいただけないでしょうか?」
このやり取り設定にピンときたフィリスは大仰な態度で村長に告げる。
「今日ここに私が来たのも大いなる導きでしょう、安心しなさいこのフィリスと仲間たちが貴方達を救って御覧に入れましょう」
こうして三人は村を出て新月の塔を目指す。
「ねえフィリスさっきのは何なのよ?」
「ルミナス、この話の元になってるのはナーロン物語『城下町の白百合姫 旅情編~新月の塔の謎』の設定なのよ」
「ああそういえば、アリシア様の書庫にその話がありましたね」
ミルファは魔の森へ来たばかりの頃はする事があまりなく、アリシアの勧めでその手の娯楽本をひたすら読んでいた事があった、最近は畑いじりやローシャのオリバーへの使いそして大聖堂での様々な手伝いなどする事が増えていき本を読む時間は減りつつあったが、その読んだ本の中にそんなのがあった事は覚えていた。
「おお、ミルファちゃんも読んでたんだ!」
「⋯⋯ええ、たまたまですが」
「あんたたちも、もの好きね⋯⋯」
ルミナスにとってはナーロン物語という創作物よりも、自分の祖先であるクロエ・ウィンザードの伝記の方がハチャメチャで面白くためになると考えていた。
一方フィリスもクロエ・ウィンザードの伝記も読んではいたが同じ王族としては参考にはしたくないと思っている、その場しのぎの行き当たりばったりばかりで読んでて色々キツイのだった。
とはいえこの話題で言い争う事は既にフィリスもルミナスも十分経験済みである、もはや不毛な争いだとお互い十分に悟っているのだった。
「とりあえずあの話の通りならその塔はそう離れた所じゃないわ」
そしてフィリスの読み通り、大して時間もかけずにその新月の塔は現れたのだった。
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