04-12 挑戦の果てに

「そうですね、どうやら貴方達には表層エリアは物足りないみたいですね」

 元々この試験の期間は表層エリアのみで行われる予定だったが、フィリス達の報告やアリシア自身が魔法人形マギ・ドールを通して断片的にてきた感想からも、今回集まった冒険者たちは表層エリアでしっかりやっていけると既に判断していた。

 なので中層での彼らの様子も見ておきたい、という思いもアリシアに芽生えていたのだが、しかし。

「中層はこれまで以上に魔物や魔獣が凶悪です、しかし一番の懸念は普段深層にいる魔獣とかが時たま出てきて遭遇する恐れがあるという事、表層エリアまではまず出てこないから安心でしたが中層からはそうはいきません、出会えばあなた達は死ぬかもしれません」

 あのフィリス達でさえ苦戦した深層の脅威に対して、彼らが無事に済むとはアリシアには思えなかった。

「かもしれん、しかし挑戦させてほしい」

「⋯⋯わかりました。 この三日目は中層への立ち入りを許可しましょう、ただし明らかにヤバいと思う相手が現れたら即離脱してくださいね」

 こうして彼らの中層への挑戦がきまった。


 各レイドはリーダーであるSランクが戻り、中層への挑戦が発表されるや否や湧き出す。

 その後各員装備の点検をしっかりして、万全の準備を整えてさらに森の奥へと向かう。

 やがてその首から下げた魔法具が黄色く輝き、中層へと至った事が伝わる。

「総員警戒!」

 しっかりと隊列を組み、ゆっくりと慎重に進む。

「来た! 二時方向!」

 索敵魔術を使っていた魔道士の声が轟く。

「数は六、いや八だ!」

 そして彼らの目の前に躍り出て来るのは銀色の影⋯⋯

銀狼シルバー・ウルフの群れだ!」

 それに対して弓士は矢で魔道士は低級の氷魔術で威嚇射撃を行い銀狼シルバー・ウルフの隊列を乱す。

 こうする事によって一瞬だが一度に相手をする数を減らし、その隙に剣士などの前衛が切り込んだ。

 これまで彼らは他の場所で何度となく銀狼シルバー・ウルフを討伐してきた、しかし⋯⋯

「固い! 切り裂けん!」

 剣の手ごたえは鈍く、致命傷には程遠い結果となる。

 仕留めきれず一転して窮地に立った仲間を救ったのが、レイドリーダーのSランク冒険者カインだった。

 即座に詰め寄りその手の帝国刀が閃く、高速の抜刀術が襲い来る銀狼シルバー・ウルフを一刀両断した。

 その後何とか大きな被害を出すことなく、この戦いは終わった。

「どうだった」

「よその銀狼シルバー・ウルフとは桁違いの強さで固かった」

 その言葉どおりこの戦いで一撃で倒せたのは、切断力に優れた帝国刀を使うカインのみである、他のメンバーは何度も攻撃しなければならなかった。

「⋯⋯厳しいなさすがに」

 一度の勝利で喜べるものでは無い、冒険者とは生きて帰らなければならないのだ、それなのにほんのちょっとの事で死の予感を抱くような事態は避けなければならない。

 再び彼らは万全の準備を整えなおして進み始めた。


 その頃ザナックが率いるレイドは暴れ熊ランペイジ・ベアと戦っていた。

 その嵐のような前足の攻撃をザナックはその手の大剣で防ぐ、そしてその隙を他の冒険者が突く。

 その暴れ熊ランペイジ・ベアの重く早い攻撃をザナックは捌くことがやっとだった、もし一人であったなら隙をついて逃げるしかなかったであろう、しかし今の彼には頼りになる仲間がいる、自分が無理をして攻撃する必要はない。

 その思いが冷静に最前線で暴れ熊ランペイジ・ベアの攻撃を引き付け続ける気力を支える。

 そして三十分ほどの死闘の末にこのレイドは、暴れ熊ランペイジ・ベアの討伐を成し遂げたのだった。


 それぞれのレイドはその持ち味を生かし中層の脅威と渡り合ってゆく、それを物陰から観察するのはフィリス達である。

 無論危なくなれば介入も辞さなかったが、その必要は無いようだった。

「さすがの一言ね」

「決定打に欠けるけど、安定しているわね」

「極力怪我を避けているようですね」

 ミルファの意見は的を射た物だった、元々彼女は大規模な魔物討伐隊に参加してその怪我人の治療が仕事だった。

 なので冒険者はすぐ怪我するという認識だったのだが、それは未熟な冒険者だったからだ、だが上級者ほど無理せず怪我を避け立ちまわるものだと、ミルファはこの時初めて知ったのだ。

 その時ルミナスの索敵魔術に反応があった。

「敵よ! 四時方向に八匹、九時方向に四匹!」

 今フィリス達が観察していた冒険者たちはまだ戦闘中だ、この魔物たちに背後を取られたら危険である。

「私が八匹の方、フィリスはあっちね」

「わかったミルファちゃんはここで待機、いいね」

「はい、わかりました」

 フィリスとルミナスは即座にそれぞれの目標へと走り出す。

 先に魔獣と戦闘になったのはルミナスだった。

「『土竜の千獄錐ガイア・ニードル』!」

 ルミナスの魔術によって地面が円錐の針となって銀狼シルバー・ウルフを速やかに串刺しに瞬殺した。

 一方フィリスが駆けつけた時、一人の女性剣士が四頭の銀狼シルバー・ウルフを迎え撃とうとしている所だった。

 まずい、一度に四頭に襲い掛かられたら⋯⋯そうフィリスは焦って参戦するつもりだったがしかし、その女性剣士は四頭の同時攻撃を、巧みなバックステップでかわす。

 その速度は速すぎず遅すぎず絶妙だった、きっとあの女性剣士には目の前の銀狼シルバー・ウルフがスローモーションに見えているのだろう。

 正確無比な彼女の剣が二頭同時に一撃でその頭を串刺しにする、しかし残りの二頭はどうするのか?

 彼女は素早く剣から串刺しにした銀狼シルバー・ウルフを引き抜いたがそれは一頭だけ、次の瞬間剣に刺さったままの残った一頭ごと強引に剣を振る、その結果剣からすっぽ抜けたもう一頭は吹っ飛ばされ、今まさに襲い掛かろうとした残り二頭の銀狼シルバー・ウルフに当たり一瞬足止めした。

 その後、瞬時に間合いを詰め三頭目を瞬殺、返す剣で残った最後の四頭目も正確に頭を串刺しに仕留めていた。

 時間にして十秒ほどの早業だった、結局フィリスは手を出すことなく終わったのだった。

 そしてその女性剣士は仕留めた銀狼シルバー・ウルフを魔法の袋に仕舞ってすぐに去っていった。

 それをフィリスは物陰からただ見ている事しか出来なかった、あの女性剣士は剣技において完全にフィリスよりも上の存在だったからだ。

 フィリスにだって銀狼シルバー・ウルフ四頭を瞬殺するくらいは出来る、しかしそれは優れた剣と生まれ持った大魔力による身体強化あっての事、純粋な身体能力や剣技であの女性剣士と同じことができるとは思えなかったのだ。

「世界は広いな⋯⋯」

 フィリスは自分の未熟さを痛感したのだった。


 その後、中層エリアで狩りを続ける者、早々に引き上げて表層へ戻っていく者、重傷を負いベースキャンプへ戻って来た者など、様々な三日目であった。

 日が暮れ始めた頃、何処からともなく森中にアリシアの声が響き渡る。

「冒険者の皆さんお疲れ様です、今夜は野営は結構なので今すぐ戻ってきてください」

 その言葉に従い冒険者たちは森を出た、そしてそこで見たモノは⋯⋯

 アリシアの魔法によって動きを封じられた明らかにヤバい生物⋯⋯そうそれは深層エリアの怪物だった。

「⋯⋯あの銀の魔女様それは一体?」

「深層エリアから連れてきました、どうです戦ってみます?」

 Aランク以下の冒険者は見ただけでわかってしまう、無理だと。

 しかしそれでも立ち向かう者が居た。

 今日まで各レイドを纏め引っ張て来た、Sランク冒険者たちである。

 そしてそれぞれのパーティーの垣根を越えて今ここに、八人のSランクだけのドリームチームが誕生した。

 そして戦いが始まる、その怪物はこの間フィリスとルミナスが大苦戦の末に倒した二足歩行の巨大な陸竜種である。

 まず一番屈強なSランクの盾使いが吹っ飛ばされた、これによって攻撃を受ける事は不可能だと判明する。

 Sランクチームに治癒士は居ないため即座にアリシアは倒れた盾使いをすぐ近くまで転移させ治療する。

「まだやります?」

「いや、やめておく」

 アリシアのその問いにその盾使いは悔しかったが、自分の能力ではどうにもならないと実感したのだ。

「『最上級エクス・風裂矢ウインド・アロー』!」

 前衛が稼いだ時間で大技を放ったSランクの魔道士、しかし致命打には程遠い。

 一人また一人倒れ、ついにSランクも残り二人になった。

 残された最後の二人ザナックとカインは互いに感じ取る、この戦いどちらか一人になった時点で終わりだと。

「いくぞカイン!」

「ああ、ザナック!」

 渾身のザナックの大剣の一振りが陸竜ランド・ドラゴンを一瞬足止めし、その隙を逃さずカインの帝国刀が陸竜ランド・ドラゴンの左足首を切断し地に落とす。

「ザナック! 止めだー!」

「うおぉーー!」

 ザナックの剣が急所に直撃して、ようやく長い戦いが終わったのだった。

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