ウミガメのスープ『ゆっくり話す人』

華構昏樹

ウミガメのスープ『ゆっくり話す人』

陽向、菜月、真理子、ルーシー、楓がいる。円形のテーブルに腰かけている。陽向が喋りだす。


陽向「あなたは酷く崩れた建物に入っていきます。一歩足を踏み入れると中は真っ暗で、足元さえ見えません。あなたは手探りで障害物をよけながら奥に進みます。ここが行き止まりのようです。


何やら人の気配を感じたあなたは呼びかけます。「なんだ君か」と友人の声がします。あなたはなぜこんな所に居るのか問いますが、返事は要領を得ません。やけに間延びした声で、しかも数テンポ遅れて返事が返ってきます。あなたは手探りで友人の手を握り、外に出ようと言いますが、振り払われます。


埒が明かないので、あなたはいったん外に出ます。しばらくして友人が心配なあなたは、再度酷く崩れた建物に入ります。手探りで行き止まりまで行き呼びかけると、間延びして遅れた返事が返ってきます。あなたは外に出るように促しますが、友人は聞き入れません。


しばらく押し問答をしていましたが、突然返事が返ってこなくなりました。あたりは真っ暗で何も見えません。さて、何が起こったでしょうか。」


菜月「これはウミガメのスープのゲームやんな?」


陽向「そう。みんなが私に質問をして、私は、はいか、いいえか、どちらでもない、で答える。真相がわかったら、それを発表する。今回は質問の回数に制限はなし。そのかわり、正確に状況を答えないと合格はあげられないですね。」


真理子「もしかして怖い話?」


陽向「それは質問ですか?」


真理子「うん。」


陽向「どちらでもない、です。人による。」


楓「その、霊的なものは関わっているんですの?超常現象とか。」


陽向「いいえ。現実で起こりえることです。」


ルーシー「地球上での話でしょ。」


陽向「はい。この世界の話です。」


菜月「時代は現代か?」


陽向「はい。現代で起こりえることです。」


ルーシー「この二人の他にまわりに人間は一人も居ない?」


陽向「いいえ。他にも人は居ます。」


楓「夜の話なんですの?」


陽向「どちらでもありません。昼でも夜でも、どちらでもあり得ます。」


真理子「「あなた」は視覚に問題がある?」


陽向「いいえ。「あなた」に健康上の問題はありません。」


菜月「「あなた」は冒険をしたくて崩れた建物に入った。」


陽向「いいえ。」


楓「「あなた」は崩れた建物に入る必要があった?」


陽向「うーん、状況によりますが、いいえ、あるいは、どちらでもない、です。難しい質問です。ただ決して、はい、ではないです。」


真理子「わかんないや。」


ルーシー「こんな状況、現実にあり得る?」


菜月「あ。」


ルーシー「どうしたの?」


菜月「他にも崩れた建物は有りますか?」


陽向「はい。」


菜月「そういうことか。」


真理子「どういうこと?」


菜月「先ほど地震がありましたか?」


陽向「はい。」


ルーシー「あー。」


真理子「そう来たか。」


楓「嫌な予感がしますわ。「あなた」は人を探していた?」


陽向「どちらでもありません。見つかるかもしれないとは思っていました。」


真理子「その、聞きたくないんだけど。」


菜月「これはゲームやから。」


真理子「友人は怪我をしていた?」


陽向「はい。」


ルーシー「でも、じゃあ、なんで外に出ようとしなかったんだろう?友人は「あなた」に助けを求めましたか?」


陽向「いいえ。そのような素振りは一切ありませんでした。」


楓「おかしいですわね。崩れた建物は友人の家だった?」


陽向「はい。」


楓「友人にとって、家にとても大事なものがあった?」


陽向「いいえ。」


菜月「「あなた」と友人は実は仲が悪かった?」


陽向「いいえ。親友と言ってよいでしょう。」


ルーシー「家の中より外の方が危険だった?」


陽向「いいえ。」


真理子「これはゲームなんだよね。」


菜月「せやで。」


真理子「最後に返事が聴こえなくなった時、友人は死んだ。」


陽向「はい。」


間。


菜月「友人は何かに挟まれて動けなかった。」


陽向「いいえ。」


菜月「え?いいえ?」


陽向「いいえ、です。挟まれてはいません。」


ルーシー「そもそも友人は一切助けを求めていない。地震で崩れた家に居て、怪我をしていて、人が来ても助けを求めない。なんだろう。」


楓「友人は正気を失っていたんですの?」


陽向「いいえ。」


楓「いいえ、ですか。友人は自分の怪我に気づいていたんですの?」


陽向「はい。」


楓「うーん。」


間。


真理子「なんで、間延びした返事をしていたんだろう。緊急事態なのに。」


ルーシー「友人は痛みを感じていた。」


陽向「はい。」


ルーシー「間延びした返事や要領を得ない返答は痛みのせいである。」


陽向「はい。」


ルーシー「友人の怪我は、大怪我、と呼べるものである。」


陽向「はい。」


菜月「友人は、自力でその場を離れることができた。」


陽向「いいえ。」


菜月「なんでや、挟まれてはないんやろ。「あなた」は友人を外に連れ出すことができた。」


陽向「いいえ。」


間。


真理子「友人は他人の力を借りても、その場を離れることができなかった。」


陽向「はい。」


真理子「友人はそのことを分かっていた。」


陽向「はい。」


真理子「友人は全ての状況を把握していた。」


陽向「はい。」


間。


楓「友人は「あなた」が来て嬉しかった。」


陽向「はい。」


楓「友人は全ての状況を把握して、それを「あなた」に伝えようとした。」


陽向「いいえ。伝えようとはしなかったです。」


楓「友人は、自分が大怪我をして、この場から動けないことを知りながら、「あなた」には何も伝えなかった。」


陽向「はい。」


楓「友人は最後に「あなた」と普通に喋りたかった。」


陽向「はい。」


間。


ルーシー「友人は自分が確実に死ぬことを理解していた。」


陽向「はい。」


ルーシー「友人は、自分の怪我の詳細を理解していた。」


陽向「はい。」


ルーシー「友人の死因は失血死である。」


陽向「はい。」


間。


菜月「友人の家には梁があった。」


陽向「はい。」


菜月「地震の際、家は崩れて、梁が落ちてきた。」


陽向「はい。」


菜月「「あなた」は友人の手を握ることができた。」


陽向「はい。」


菜月「「あなた」は友人を引っ張った。」


陽向「はい。」


菜月「引っ張ったとき、友人をその場から、すこしでも引き寄せることができた。」


陽向「いいえ。」


菜月「友人は、その位置で完全に固定されていた。」


陽向「はい。」


菜月「じゃあ。」


暗転。


菜月「梁は友人を。」

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ウミガメのスープ『ゆっくり話す人』 華構昏樹 @KAKOU_KURAKI

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