第2話
(家に帰っても暇なだけだし、観てみるか……)
それは、ほんの気紛れだった。
人混みが苦手な俺は、いくら興味を惹かれたとはいえ、本来ならば映画館になど足を踏み入れることはしかっただろう。レンタルが開始されるのを待ってから、酒を片手に自宅でゆっくりと鑑賞すればいいのだ。
だが、目の前に建つ
きっと、観客など滅多に来ないのだろう。そう思う程に、目前にあるビルは荒廃して見えたのだ。
初めに予想していた通りのPOV方式で撮影されたこの映画は、俺の想像を遥かに超えた臨場感で、極上のエンタメと刺激を与えてくれた。期待以上の出来にすっかりとハマってしまった俺は、これがシリーズものの三作品目だったと知ると、その足でレンタルショップへと急いだ。
だが、何件まわってみても見つからない【スナッフフィルム】。
後日、ネットで調べてみると、どうやら映画館での上映のみでレンタルはされていないらしかった。それどころか、かなりマイナーな作品らしく、上映されている映画館も限られているらしい。
この作品に出会えたこと自体が、奇跡だったのだ。
だが、いくらマイナーとはいっても、コアなファンとはどこにでも一定数存在するわけで。主に、ネットを中心にちょっとした話題にもなっていた。
【実際の殺人映像】との触れ込みで、毎回上映されるこの映画。それは、ファン達の間ではこれは紛れもなく本物の殺人映像なのだと。誰が言い始めたのか、誰が信じるのか……。
そんな噂が、まことしやかに囁かれていた。
それからというもの、新作が上映される度に足繁く映画館に通うようになったのだが、次の週末は丁度その新作が上映される日に当たる。正直なところ、好きでもない遊園地に行くよりも【スナッフフィルム】が観たい。
目の前にいる美穂の様子を伺うと、その小さく愛らしい唇がゆっくりと動くのを見守った。
「ホラーとか、好きじゃないし!」
「そんなこと言わないでさ、たまには付き合ってくれよ……。お願いっ! この通り!」
諦めきれない俺は、尚も食い下がって懇願する。それには勿論ちゃんとした理由があって、それは、この【スナッフフィルム】の上映期間が毎回三日間の限定でしか上映されないからなのだ。
いくらマイナーな作品だからとはいえ、短すぎるのもどうかと思う。
(なんだって、こんなに短いんだ……)
生憎と次の週末は休日出勤で仕事に駆り出される為、貴重な休みは一日しかない。美穂の提案する遊園地に行くことになってしまうと、【スナッフフィルム】の新作を見逃してしまうことになるのだ。
「いつも付き合ってあげてるでしょ!? 今だって、観てるじゃないっ!」
「いやぁ……。あのさ、映画館には一緒に行ったことないよね? だから行こうよ……ね?」
「……もう、知らないっ!!」
ついに顔を背けてしまった美穂。どうやら、本気で怒らせてしまったようだ。
「ご、ごめんて……。あっ! じゃあ……、来週! 遊園地は来週行こう!?」
できれば遊園地になど行きたくはないが、こうなってしまったら仕方がない。美穂の機嫌をとる為に、俺は懸命に話しかける。
それでも、今週末に遊園地に行こうとはどうしても言い出せないあたり、自分で思う以上に相当あの【スナッフフィルム】にハマッてしまっているらしい。
その後、美穂の機嫌が直ったかといえば、どうにも怪しいものだったが……。きっと、明日になれば機嫌も良くなっているだろうと、都合よく考える。
なにせ、石のように動かないこの俺が、遊園地に行くと自ら約束をしたのだ。
美穂を家まで送り届けて再び自宅へと戻ってくると、来週の遊園地のことを考えて大きく溜息を吐く。
「……まぁ、これもスナッフフィルムの為だ。仕方ないか……」
一人、ポツリと呟くと、疲れた身体を休める為にそのままベッドへと倒れ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます