第3話
※※※
それから数日が経過し、いよいよ明日は遊園地に行く日だというのに、未だに美穂からの連絡がない。
すぐに機嫌は直るだろとうと見越していたのだが、その予想はまんまと裏切られてしまった。それだけ、怒っているのだろう。
そういえば、以前にも一度同じようなことがあった。
(あれは確か……)
美穂からの連絡にも応えず、自宅に籠ってホラー映画を三日三晩観続けた時。あの時は、随分と心配させてしまった。
兎に角一にも二にもホラー映画。なんていうのは昔からで、どうやら余程の事がない限りこればかりは変われないのかもしれない。
あの時も、怒った美穂は一週間も連絡をくれなかった。
そんな出来事を思い出しながら、明日は謝罪の意味も込めてとことん美穂に尽くしてあげようと、そんな風に考える。
【この間は本当にごめん。明日は、9時に迎えに行くから】
それだけ送信すると、携帯をポケットへとしまう。
側から見たら、彼女とホラー映画とどっちが大事なんだ! なんて言われてしまいそうだが……。そもそも、彼女と趣味を比較するなんて事自体がナンセンスだ。
趣味は趣味。美穂の事は何よりも大切だし、勿論愛している。
「——あれ?」
不意に歩みを止めた俺は、小さな声をポツリと溢した。どうやら、美穂の事を考えていたら無意識に映画館の前へと来てしまったらしい。
【スナッフフィルム】はマイナーすぎる映画のせいか、ネットで上映スケジュールが公開されるなんてこともなければ、CMなんて洒落た宣伝すら一切行われない。そんな状況の中、新作の公開情報を得る方法といえば、この近辺で唯一【スナッフフィルム】を上映しているこの映画館へと直接足を運ぶ以外になかった。
そんな理由もあり、ここ最近では毎日のように映画館へと通って確認するのが日課となっていたのだが——。
それが、習慣となってしまったせいなのか。はたまた、ホラー映画への並々ならぬ執着心からだというのか。
確かに美穂の事を考えていたというのに、身体はこうして映画館へと向かってしまったようだ。その本能とも呼べる行動には、我ながら呆れてしまう。
(よもや、ここまでとは……)
そんなことを思いながら、チラリと視線を横に流す。
「……ん?」
驚きにも似た小さな声を漏らすと、目前の真新しいポスターに思わず目を凝らした。
ここ数日、連絡のない美穂の事を考えていた俺は、暫くこの映画館へは通っていなかった。それがなんというタイミングの良さか、丁度今日は、新作の公開日だったらしい。
俺は迷うことなくビルへと入って行くと、映画館へと続く扉を開いた。
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