第3話「愛し愛され」(陽夜編)

今日は俺の誕生日。

誕生日は必ず奈由が祝ってくれる。

料理上手の奈由はすごいご馳走を作る。

それが、どんなレストランの料理よりも美味いのだ。

今日はその美味い料理を食べれる日。

「陽夜、おはよう。」

未夢が起きてきた。

「おはよう。未夢。今日は仕事行った後に家に戻る。奈由が色々用意してくれているんだ。」

「誕生日か…。俺だって誕生日の用意くらい出来たのに…」

「そういう問題じゃないの。じゃあ行ってきます。」

俺はいつものように出勤しキーボードを打っていた。そんな時、未夢から電話が来た。

「もしもし!唐突だけど、会いたい!出勤して2時間しか経ってないけど、今日陽夜誕生日だし…。いい?」

「うーん。今日は課長からもあんまり長居しなくていいって。誕生日だからって。だからもうすぐ帰る。でも、未夢の家にいられるのは2時間くらい。」

「OK!待ってるね!」

未夢はそう言って電話を切った。

「課長。俺もう帰ります。」

「おう。関田。お疲れ様。いい1年にするんだぞ。奥さんも大事にしろよ。じゃあ。」

「ありがとうございます。失礼します。」


「奥さんも大事にしろよ」か…。

本当にその通りだ。俺は奈由を愛している。愛しているから、もう先の未来は見えている。でもその世界が怖くて目を塞いでしまっている。だから嘘をついている。嘘をついて愛を閉じ込めている。

こんなポエムみたいな事言っても何が起きるってわけでもなくて、最低な自分は変えられなくて。

俺は一生罪悪感を背負って生きるんだ。

「ただいまー」

30分後。未夢の家に着いた。

「おかえり!陽夜!誕生日は奥さんの家で食べるって事わかってるから、ショートケーキ買ってきたの!食べて!」

「ありがとう。手洗ったら食べるね。」

「うん!」

手を洗っている間に俺は思った。

「でもなんで奈由のSNSに男物のしかも俺の靴じゃない靴が写ってたんだ?」と。

浮気か?不倫か?と疑う自分に腹が立つ。

疑う事しかできない自分に。

「よし!手洗い終わった?」

「うん。」

「じゃあ席ついて!」

「わかった」

「せーの!ハッピーバースデートゥーユー!ハッピーバースデートゥーユー!ハッピーバースデーディア!陽夜ぁ!ハッピーバースデートゥーユー!おめでとう!ロウソク、1本しかないけど、フーってして!」

「フーッ」

「おめでとう!!じゃあ、いただきます!」

ケーキはとても美味しかった。美味しいけどなんか物足りなかった。

1時間半後。奈由から連絡が来た。

「早く帰ってきてー!」と。

「「今終わった。思ったより早く終わったから帰るよ。あと30分くらいかな。待っててね!」こんな感じか?でもなんか違和感…」

「どうした?陽夜?」

「あ、いや。なんでも。」

奈由から返信が来た。

「待ってるよ!」と。

未夢の家から家までおよそ15分。あと未夢の家には15分しか。いや。15分もいられる。

「あと15分くらいしたら帰れるから。」

「うん。」

15分後。俺たちは特に何もしなかった。

テレビを一緒に見るだけだった。

「じゃあまたね。未夢。」

「またね。陽夜。じゃあ最後にキスして!」

「いやだよ。これから奈由に会うのに。」

「じゃあ俺から!」

「え、ちょっ!」

ショートケーキの甘い匂いが着いた唇が俺の唇に触れた。そのキスは、30秒間ほど続いた。

「じゃあ行ってきます。」

「うん。行ってらっしゃい。」

20分後。

「ただいまー」

数日いなかったが匂いがガラリと変わっていた。いつものオレンジのような匂いが無くなっていた。

「おかえり」

奈由はそういい、何秒間か棒のように突っ立っていた。

「どうした?大丈夫?」

俺の浮気がバレたのだろうか。そんな事しか考えられないのは、俺が最低だからだろう。

「うん。大丈夫。ご飯こんなに作ったから

早く食べよ!」

奈由のこの笑顔は偽りだ。俺と出会った時とは違う笑顔だったから。

「美味しい!俺の為に作ってくれてありがとう!」

この気持ちは本当だ。でもこれを言っている時の笑顔は偽りだ。

ご飯の後、俺たちは20秒間のキスを交わした。奈由の唇に愛を感じなかった。ただ触れてるだけ。そんな感じだった。


俺は浮気をしている。

だけど奈由を失うのを恐れている。

俺は浮気をしている。

この愛のない偽りもどうせいつかは飽きられ捨てられる。

人生は選択肢だらけ。その通りだと思う。

偽りは、愛は、何よりも苦しい。だから

俺はこの結婚生活を早く終わらせたかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る