【短編】ハーレム正妻戦争に敗北したクール系先輩ヒロイン(34)と気狂いな俺

夏目くちびる

第1話

 好き過ぎてヤバい。多分、俺は狂ったんだと思う。



「……ねぇ、何をボーッとしてるの?」

「あぁ、ついうっかりしてました」

「もう、ダメなんだよ?仕事中に、上の空なんて」



 現在、俺は係長のサエコさんと二人で営業に出ている。更に言うと、デカい顧客へ商材を売り込みむ為、喫茶店で最終調整をしている。



 二人きりでごさる。



「ずっとぼんやりしてるけど、体の具合でも悪いの?」

「いえ、すいません。ちょっと、夜更ししてしまって」

「まったく、大切な商談があるって分かってるんだから。深酒はやめなさいって、いつも言ってるのに」

「……確かに俺が悪いですが、小言はババア臭いですよ」

 


 すると、サエコさんはションボリして唇を尖らせ。



「バ、ババアじゃないよ」



 はい、かわいい。好きです。



 サエコさんは、三十路過ぎらしい、ちょっとダラシのない体をスーツで隠した、長い黒髪のやや美人だ。



 前に見せてもらった若い頃の写真は、かなり痩せていて結構クールな見た目だった。切れ長な目と、写真にも出さない感情のせいか、やたら尖っているように見えた。



 女の子に、特にモテたらしい。弓道部に所属していて、ファンクラブまであって。しかし、彼女が本気で恋をしている男子がいて、けれど残念ながらそいつに選ばれなかったようだ。



 相手は、とんでもないモテ男だったらしい。



 そのせいで恋愛に臆病になって、今となってはちょいポチャで感情の起伏が小さいおばさん。顔が痩せているのが、その頃の面影を垣間見る事が出来る唯一の証明。



 言ってみれば、アニメや漫画で選ばれなかったハーレム作品のヒロインの未来の姿。主人公の正妻になれなかった、その成れ果てだと言えるだろう。



 切ねぇなぁ。



「まぁ、任せてくださいよ。いつも通り、クローザーはきっちりこなします」

「ほんと、豪胆無比というか。大胆不敵というか」

「そんな偉いモンじゃありません。ただ、歳や金を持ってるから偉いって考えが、さっぱり分からんだけです」

「……なら、合ってるじゃない」



 そして、俺たちは先方の会社へ向かった。



 ……商売は、うまく行った。今年度の決算を終えた後、大量のストックを買ってもらう事が決まったのだった。



「よかったですね、上手くいって」

「私は、途中でヒヤヒヤしたわよ。切り込み過ぎだって」

「交渉は、クロスファイトですよ。互いに腹の中を探っていては、一生平行線です」



 一瞬だけ、サエコさんは黙った。



「そ、その割には、まるで先を知ってるみたいに答えを持ってたけど」

「ここへ来る前に、全て終わらせてましたから」



 というワケで、俺たちは居酒屋にいる。



 本日は、直行直帰で金曜日。そのため、成功を祝ってサエコさんが俺に酒を奢ってくれる事になったのだ。



 入店して、既に一時間。俺のピッチに合わせたからか、彼女の顔はかなり赤い。



「でも、どうしてそんなに毎日お酒ばかり飲んでるの?聞けば、会社を出たら一人でずっと飲んでるらしいじゃない」

「酔っ払うのが、好きなんですよ」

「その割には、今日は全然酔ってないみたい」

「今は、ですよ。後でいい感じに狂ってきて、そのうち眠くなります」

「そうやって眠りたいの?」

「はい。酔うと、いい夢を見られるんです」



 すると、サエコさんはグビッとレモンサワーを飲んだ。未だに、未練があるのかもしれない。



 少し、妬けるな。



「……キミって、そういう風に思いを馳せる事もするんだ。ずっと、リベラリストの正義論者なんだと思ってた」

「俺って、そんなに中立的に見えますか?」

「うん、見える。だから、頼りにしてるんだもの」



 嬉しいけど、俺ってば結構ロマンチストですぜ。



「でも、なんでそんなに私に優しくするの?別に、何かしてあげた記憶はないけど」

「優しくって、それこそ記憶にありませんが」

「嘘ばっかり」

「そんな事。部下が上司に手を貸すことに、何か理由が必要ですか?」

「必要よ。ここは学校じゃなくて会社なんだから、普通は打算があるハズじゃない」

「そうですかね?」

「私、知ってるよ。キミが、自ら進んで私の直属になったって」

「ありゃ」



 課長の奴、バラしたのか。



 サエコさんは、その無表情と声の冷たさから周囲に恐れられている節がある。



 だから、あまり触れられず、イジられず。更に、触れられないことがブラックボックスを深め、こうして孤独な美人を作り上げてしまったということだ。



 俺は、そんな彼女に就きたいと願った。結果、俺たち二人は半ば第五営業部の独立部隊となり、こうして好き勝手に商売をしているというワケ。



 それが許されるのは、やはり残してきた実績の賜物。営業は、金さえ稼げればどんな働き方でも許されるのた。



「私の昇進だって、キミがいなければきっと叶わなかったもの。この一年間、手柄を全部、私の成果にしちゃって。本当に意味が分からない」

「そこまで知ってて、分かりませんか」

「うん。だって、私はただのおばさんだもん。いつも、キミが言ってる事でしょ?」



 酒が入って、卑屈モードに突入したらしい。サエコさんの無表情が崩れて、寂しく笑った。



 たまらない。



 これの顔が見たくて、弱音が聞きたくて。いつも、あなたの悪口言ってるんですけどね。



「私ねぇ、会社に入った頃は誰かと結婚して、子供を作って専業主婦になるのかなぁ?なんて思ってたの」

「よくある話ですね」

「でも、同期の女の中で私だけが残って、係長にまでなっちゃった。完全に売れ残りだし、彼氏が出来たのも大学生の時の一回だけ。全然、思い描いてた未来と違っちゃってるの」

「それも、よくある話ですよ」

「……高校生の頃の私が見たら、泣いちゃうかなぁ。お局って、影で何言われてるのかなぁ」



 そして、彼女は潤んだ瞳でまた笑って、一口酒を飲んだ。



「バカだよねぇ、私」



 悲しい。いや、かわいい。



「まぁ、昔の話は分かりませんが、色んな奴がサエコさんの噂してるのは事実ですね」

「うぅ、やっぱり」



 恐いらしいですよ。なんて言ったら、もっと泣いてくれるだろうか。



「でも、自分をバカだと思いながら頑張る理由ってなんですか?サエコさんなら、適当な相手を見つけてすぐにドロップ出来ると思いますけど」



 今日だって、別に苦手な交渉は俺に任せりゃいいのに。勝手に一人で頑張って、先方の生産管理職にセクハラ紛いの質問をされていた。



 思い出すだけで、腸が煮えくり返る。町で会ったら、あのハゲは殺すけど。



「私ねぇ、係長って役職に負けちゃってるのかも。キミを顎で使うのも出来ないから、せめて一緒に仕事してるって思いたかったんだけど。何だか、邪魔しちゃったかな」

「まぁ、邪魔でしたね。美人らしく、黙ってニコニコしててくれればもっと楽に終わったでしょう」

「……酷いよ、そんな言い方ってないよ」



 そして、サエコさんはまたレモンサワーを飲んで、小さく鼻を啜った。



 あ〜。



 マジでなんなの、このかわいいおばさんは。俺より遅く死んでくれねぇかな。



「若い頃、もう少しだけ勇気を出してみれば、今が違ったのかなぁ」



 これから先の未来に起こる不幸を、全て俺に担わせてくれねぇかな。マジで。



 ……なんて、考えながらウズウズしていると、サエコさんは俺を見て泣いた。



 こっちの気も知らねぇで、グスグスメソメソして。



「情けないなぁ。私、キミの上司なのに。全部、頼りきりで。小言言って、おばさんで。嫌になっちゃう」



 普通、行き遅れた三十路過ぎのババアってのは、凝り固まった思想と妬み嫉みに塗れて、自分を高めるんじゃなくて他者を貶めることに集中する、醜い生き物なんじゃないんですかね。



 それなのに、どうしてこうも頑張り屋で同情を誘う表情を見せるかね。



「大変そうですね」



 せっかく楽しく飲んでるのに、勝手に自己嫌悪に陥って雰囲気ブチ壊して。



「はぁ、もう」



 隣の席の客も、心配そうだし。そんな事にも気が付かねぇで、涙も拭かねぇで泣いてるし。せっかく、今日の結果だって自分のモノになるってのに。



 もっと上の上司に、大威張りで自慢出来る実績が出来たってのに。



「メンヘラなんですか?」

「その言葉、あんまり意味を知らない」

「そうですか」



 肩書と金額に押し潰されて、シクシクシクシク。なのに、慰めて欲しいだなんて言わなくて。むしろ、俺を見て弱々しく笑って。



「幸せになりたかったなぁ」



 そんな事を言われたら、体の芯から壊してみたくなっちゃうじゃないですか。



「……なんか、ごめんね?おばさん、夜は寂しくて脆いの」

「はぁ」



 しかし、俺は社会人だ。欲望は、小突く程度に抑える。チクチク攻撃して、後で思い出した時に恥ずかしがる姿を見る程度に抑える。



 それが、今日まで貫いてきた、俺のサエコさんを楽しむスタンスだった。



 ……そのハズ、だった。



「今でもね、時々会うの」

「誰と?」

「あの人と」



 あの人。間違いなく、高校時代に恋をしていた男の事だと分かった。



「……会って、何を?」

「あれ、キミってそんな顔もするんだ」



 俺を見て、サエコさんは呟いた。



「そんな顔?」

「うん、かわいい」



 一転攻勢。俺の立場が弱くなった上に、疑問が二つになってしまった。こういうときは、遡って解決していくに限る。



「俺の顔、かわいいですか」

「うん。何だか、初めてそう見えた。ちょっと、頼りない」

「褒められてる気がしないですね」

「でも、かっこいいほど遠く見えるよ」



 それは、ある意味で俺が最もサエコさんに惹かれている理由だった。



 彼女が綺麗なだけの人なら、こんなに好きにはならなかったハズだ。



「キミって凄くモテるでしょ」

「どうですかね」

「分かるよ。だって、昔の私はきっとキミと同じだったもの」



 氷が、カランと鳴った。



「献身的で、カッコよく尽くして。彼が望むことは何でも聞いてあげたかったし、それで喜んでもらえればいいって思ってた。きっと、みんなも同じだったと思う」



 みんな、とは。選ばれなかった、他の女子ヒロインたちだろうか。



「でもね、彼に選ばれたのは、一番内気で自分に自信のない子だった。自信がなくて、頑張り屋さんで、照れ屋さんで。女の私から見ても、ちょっとした仕草がかわいいって思える子だった」

「へぇ」

「あの時は、なんで彼女なんだろうって、正直ずっと思ってた。でも、今なら分かる」



 沈黙でその答えを求めると、サエコさんは溶け切った氷の薄いレモンサワーを飲んで。



「あの子だけが、等身大で恋をしていたのよ」



 まるで、十数年越しの想いから、たった今吹っ切れたかのように笑った。



「……羨ましいですね、その男が」

「モテるから?」

「いや、あなたに好かれているからです」

「好きだった、だよ」



 無意識だった。俺は、サエコさんが未だにそいつを好きでいると勘違いしていたらしい。



「それで、会って何をしてるんですか?」

「二人じゃないよ、当時のみんなで。ご飯食べて、それだけ」

「俺はてっきり、乱交でもするんじゃないかと思いましたよ」

「そういうことは、言って欲しくなかったな」

「フラレてなきゃ、そうしたでしょうね」



 そう。



 今、俺はフラレたのだ。優しく、遠回しに。



「でもね、サエコさん。あなた、一つ勘違いしてます」

「なに?」

「俺は、あなたたち程度の気持ちであなたに惚れていません。相手から何かを欲しがる愛なんて、まだまだ不純です」



 すると、サエコさんは顔を赤くしてグラスに口を付けた。中には、もう何も入っていない。



「す、すごいセリフだね」

「本気で感謝や奉仕をすると、それ自体が気持ちいいってこともあるんです」

「それに比べたら、私なんて欲塗れだったよ」

「まだまだですね」

「いつ、それを知ったの?」

「あなたに惚れた時です」



 彼女が黙ったから、俺は酒を二杯注文した。



 今日は、酔えない日みたいだ。



「……照れちゃう」

「勝手にどうぞ」



 届いたハイボールを煽り、ラジオの曲を聞いた。全然知らない、ポップソングだった。



「でも」



 突然、サエコさんが口を開く。



「はい」

「もしも、私が手に入ったとして、その時はどうしたいの?何を求めるの?」



 彼女は、完全に酔っ払っている。まさか、そんな事言われるとは。



 少し、腹が立った。



「考えたこと、無かったですね」

「じゃあさ、考えてみてよ。せっかくだし」

「結構、ドSなこと言いますね」

「たまにはね」



 しかし、きっかけとは常に些細なことだ。



 この程度の一言が、いつしか風化していた女への欲望に再び火を付けるだなんて、俺自身思いもしなかった。



 一度も想像しなかった、彼女と歩く未来。それを考えると、途端に様々な欲望が浮かんできた。



 浮かんできてしまった。



 ……あぁ。



 だから、イヤだったのに。



「そうですね。まずは、死ぬほど甘えて、自分がいないとダメだと思わせたいです」

「あら、かわいい」

「どう考えても俺が悪いことで、年齢差を理由にして、イマドキを理解できないあなたの視野の狭さや現実を押し付けて、自己嫌悪に陥らせたいです」

「メチャクチャよ」

「今まで、自分なりに培ってきたであろう料理や家事を全部俺が担って、なんで自分がいるのか分からなくしてあげたいです」

「ふふ、サイアク」

「それから、生きてる間に1000回は中出ししたいです」

「……は、はぇ?」



 サエコさんが、目を見開いた。



「あと、母親に電話させながらセックスしたいです。ついでに、その男にも」

「ちょ、ちょ?」

「クソ生意気なこと言ったり、年上風吹かせたら、全部キスで黙らせたいです」

「まっ――」



 やべ、止まんねぇ。



「もう、全てがイヤになるくらいメチャクチャにしたいです。他の男と話すだけで申し訳なくなるくらい、俺があなたをどれだけ好きなのかを分からせたいです。とんでもない変態にして、サエコさんも俺じゃなきゃダメなんだと思わせたいです。互いが、互いの気持ちがどうでもよくなるくらいに好きでいられたら、それってこの上ない相思相愛だと思いませんか?縛って、縛られて、また縛って。ようやく満足出来たなら、子供を作って三人で暮らすんです。それまでは、ずっと俺だけのモノです。大人の恋愛だからなんて、そんな言い訳はさせません。スマートさなんて欠片もなく、みっともなく縋りあって、一番醜い部分を舐めあって。どこにいようとイチャついて、見せ付けて。眠も食も性も、全てがトチ狂った最低最悪の恋愛生活を送るんです。熱で気持ちが焼け付き焦げ落ちても、それを拾って交換して収めあって、また愛し合うんです。そんな関係に、俺が死ぬまでの間ずっと付き合わせたかったんです」



 そして、濃い目のハイボールを一気に飲み干した。もう、酔っ払う事は諦めている。



「俺がサエコさんに求めるとしたら、その程度でしょうか」



 ……これらを伝えたことが、只事じゃ済まないのは分かってる。



 何故なら、俺は後天的な気狂いだから。決して、生まれ付きサイコパスじゃないから。



 あくまで、理知的だ。その上で、彼女を狂愛しているのだ。



「ぁぅ」



 まぁ、いいか。せっかく、フッてくれたんだし。欲しがった時点で、この恋は終わりだ。



 今更、後悔なんてしない。



「……でも、どうして黙ってるんですか?」



 聞いても、サエコさんは口を半開きにして目をグルグルと回していた。



 まぁ、自分で言うのも何だけど、あの言葉たちを正面から受ければ、大抵の女はそんな感じになると思った。



 俺、冷静だ。ビックリしてる。



「あ、あぅあぅ」

「なんですか?」

「あぅ」

「面食らうの分かりますが、等身大なんて人それぞれです。その時の恋の正解だったからといって、全に当て嵌めるのは間違ってますよ」

「ぅ……」



 とりあえず、あぅあぅ言うのを止めなさいよ。



「まぁ、いいです。月曜、俺から異動願いを出しますよ。実は、第二営業部から打診を受けてたので、この関係もスムーズに終わるでしょう」



 サエコさんは、酒で記憶を無くさない。だから、ここでさよならを言っても大丈夫なハズだ。



「楽しかったですよ」

「ま、待ってよ!」



 笑いかけると、まだ正気に戻っていない様子のまま俺の手を握った。



 じんわり、生暖かい。



「なんですか?」

「そんな告白しておいて、勝手に終わらせるなんてあんまりじゃない!」

「こんな告白だから、あなたの手を煩わせないように終わらせたんじゃないですか」

「今くらい、私より頭悪くなってってば!」

「言ってる意味が、よく分かりませんね」



 あんなことを、惚れてもない男に言われれば、普通は気味悪がって離れていくと思ったけど。



 ……どうやら、違ったらしい。



「ダメ、絶対にダメ。キミみたいな男が他の女に惚れたら、あなたの気持ちを全然理解出来ない子がキミに惚れたら、愛され過ぎて絶対に壊れちゃう」

「はぁ」

「だから、私が考えを纏めるまで、この部署にいなさい。これは、上司命令です」

「命令だなんて、時代錯誤ですね」

「命令ですっ!」



 あぁ、かわいいなぁ。



「私自身、普通じゃない恋をしてたって分かってる。だから、あなたの言ってる意味が少しは理解出来るの」

「でも、俺よりマシな人生送ってるでしょう?愛に見返りを求めるんですから」

「見返りを求める分、キミとは違う経験をしてるとも言えるわよ!」

「なら、どうしたいんですか?サエコさんは」



 核心を突くと、やはり黙ってしまう。本音を話せば、こうしてどっち付かずの文句を吐くのは分かっていた。



 だから、俺は女に見返りを求めることを止めたのに。



 情けないね、俺って。



「……キミを、理解してみたい」

「は?」

「そのレベルの愛が、どれだけのモノなのかを分かりたい。私が、他の子を見ていた男に注いでいた愛と、どれだけ差があるのかを知ってみたい」

「壊れますよ、サエコさん程度じゃ」

「壊れたなら、それがキミの本望でしょう?」



 そういうふうに言われると、返す言葉がないワケですが。



「等身大は、人それぞれだと言いましたよ」

「それを分かろうとする受け手の判断も、人それぞれだよ」

「……後悔しますよ?」

「もしかしたら、死ぬほど幸せかもしれない」

「まぁ、そこまで言うなら。とりあえず、第五にいます」



 こうして、俺はサエコさんとの関係を一つ進めたのだった。



 ただし、この日一緒に帰って、彼女を抱いたからと言って、俺は彼女を自分のモノに出来たとは思っていない。



 思っていないが、会社での絡み方から、俺が彼女のモノにされてしまった可能性を否めないのは、やはり俺が歳下だからなのかもしれないと思った。



 恋愛は、望み通りにいかないモノである。

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