31.愛おしい存在
先ほどまで背を向けて寝ていたチェルシーは、フレッドに向かい合う形で横になると、そっと夜着の上から半分勃ち上がったものを撫でたのだ。
一瞬、偶然に手が当たったのかと思った。しかし形を確かめるように撫でられ、フレッドは息をのむ。それから確信して……、大いに混乱した。
「いつも私だけ沢山していただいていますから……。だからフレッド様にも、して差し上げたいと思っていたんです。普段は私が、あの、フレッド様がして下さるから……それどころじゃなくなっちゃうので」
たどたどしく話しながらもチェルシーは心を決めたのか、手つきは次第に戸惑いを消し去り、確実に目的を持って動き始めた。恥ずかしいのか目線は逸らされていて、フレッドはぼんやりとキャンドルの明かりで影を作る、彼女の長い睫毛がいつもより早く瞬くのを見つめていた。
「だから今日は私がフレッド様を気持ちよくして差し上げます」
チェルシーがフレッドを見上げた。暑かったのか、恥ずかしさからかは分からないが桃色の頬に、決意を固くした瞳。可愛い。じゃなくて。
「気持ちよく……?チェルシーが……?」
衝撃が大きすぎて頭が真っ白になったフレッドだったが、チェルシーの言葉をゆっくり反芻すれば次第に理解していく。そして気を遣わせてしまった申し訳なさが爆発する。が、それを覆い尽くしてしまうほどの歓喜はあって。
「はい!じっくりと触らせていただくのは初めてで、至らないところがあるかもしれませんが、頑張りますね!」
「触っ……!で、でも……。申し訳ないし、こんなところ……。君にこれ以上させるわけには……」
「まぁ!フレッド様は私のも、そう思って……?」
「まさか!チェルシーの身体はどこもかしこも美しいし甘くて美味しくて、私を虜にさせるというのに!できることならば一日中触れていて、味わいたいほどだ。愛おしい君に触れるだけで、さらには気持ちよくさせているという事実だけで幸せなのだ……から……」
チェルシーのことになると饒舌になるフレッドであるが、後半で漸く彼女の言わんとすることに気付いて歯切れが悪くなった。
「私も大好きなフレッド様を気持ちよくして差し上げたいし、幸せになりたいです」
にっこりと、フレッドが一番好きなチェルシーの笑顔を間近に受けて、否といえる男ではない。その笑顔に一種の圧があるかどうかはさて置き。
未だ彼女の手はフレッドのそこにあって、さわさわと止まることなく動いている。そんなことをさせるわけにはいかないと思いつつも、高まる期待はチェルシーの手の下で如実に表れていた。
「……ね?」
最愛からの誘いに抗える術は持ち合わせていないフレッドは、とうとう白旗をあげた。
それでも「そんなことして辛くないのか」とか「ゆっくり寝ているべきだ」などと往生際の悪いフレッドを無視して、チェルシーは彼の唇を塞いだ。
間近で彼の瞳を見つめれば期待をしていると確信できたから、珍しく強硬手段に出たことは間違いではなかったと、内心ホッとしていた。嫌われてしまったら本末転倒だ。
それは重ねた唇にも表れていて、チェルシーが少し舌を差し出せば、あっさりと招き入れてくれたのだ。
いつものように絡められる舌に、チェルシーの下腹部は甘く疼くけれど、いつもと違って鈍く痛むおかげで冷静でいられた。毎回フレッドには翻弄されてばかりだから、今日こそはと、密かに決意をしたチェルシーだった。
日常生活に於いて、フレッドはチェルシーに翻弄されてばかりだということを彼女は知らない。
* * *
「わぁ!すごい~!」
「あ、あのあまり近くで見つめないでほしい……」
「もう!フレッド様、それ私も今まで何回も言ってましたよ?」
ぷうっと頬を膨らます妻のそんな表情もとても愛らしい。が、しかし、今の状況では堪能することは逆に危険だ。
枕やクッションに背中を預け、少し上半身を起こしたフレッドの脚の間には、チェルシーがちょこんと座っている。前開きの夜着の間から屹立したものを間近で眺められて、恥ずかしくて仕方がない。が、確かにチェルシーのいう通り、フレッドも同じことをしているわけで……。
「チェルシーのは神々しくて美しく、いつまでも眺めていられるから、それと一緒にしてはいけな……っ!」
そっと指で先端を撫でられて、フレッドは言葉を詰まらせた。それから形をなぞるように、根元の方へと滑らせ、また先端へと戻ってくる指先。
「あったかい……。思った以上に弾力があるんですね?」
「…………くっ」
これは何かの罰なのか?いや、寧ろご褒美ではあるのだが……正直つらい。
柔らかいタッチが、背筋にゾクゾクとした快感と、こそばゆさを同時に与えてきてフレッドは奥歯を噛んで耐えた。もっと強めに握り込んで、できることなら上下に素早く扱いて欲しい。
一方チェルシーはというと、閨の最中みたいに耐えるようなフレッドの表情をうっとりと眺めていた。
彼が好きだから、愛おしいから気持ちよくしてあげたいし、そんな表情や反応を自分が引き出していると思うと高揚してくる。フレッドが飽きもせず、いつもチェルシーの全身をくまなく愛してくれる理由が分かった気がした。
綺麗な顔の彼の一部とは思えない生々しいモノに視線を戻したチェルシーは、可愛らしさとはかけ離れたこれが、やけに愛らしく思えた。なんて不思議な部位なのだろう。
「可愛い……」
そうポツリと呟くと、応えるかのようにピクリと手の中で動くので、小動物を連想してしまい、よしよしと先端を優しく掌で撫でる。フレッドの身体がグッと強張るのを気にすることなく、唇を寄せて毛づくろいをするかのように舌を這わせた。
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