番外編

閑話 二人の聖女?(ローズ視点)

「ローズ。シナリオ通り、あの町で聖女が発見されたよ」


「……そう。私、ちゃんとやれるかしら……?」


「大丈夫。俺がついてる。絶対にローズから離れない」


「……でも」


「ローズ、信じて?前世もこれからも愛してるのは君だけだ。何にだって誓う。絶対に幸せにする」


「ジーク……」


「可愛いローズ。必ず守るから」




◇◇◇◇◇



「ねぇ、ジークってさ、前世詐称とかしてないわよね?」


「何よそれ?」


笑いながら、質問に質問返しをする。



神殿で、月の聖女としての修行にも慣れた頃。


今日からは一緒にお披露目魔法を練習する、太陽の聖女がおかしなことを言い出した。部屋にわざわざ防音魔法をかけて。



今日からは、王城の広間を借りている。王立病院も隣なので、徐々に実際に二人で患者さんを診る練習もする予定。



「何って、最初から思っていたんだけど。あんなにサラッと紳士になれる日本男児を見たことがなくてね」


「ああ、そういう……分からなくもないけど、この世界歴も長いじゃない」


「そうだけどさあ」


「元々、生まれが王子だしね」


「え~、まあ、それもあるか。二人は最初から王子と公爵令嬢だもんね」



何やら一人でブツブツ言っている。



「でも、あれかな。私のプレイする乙ゲーをずっと横で見ていたから、慣れと言うか、予習?もできたのかも」


「なるほど。で、ローズは?」


「ん?」


「恥ずかしさとかさ……」


下を向いてモジモジするエマ。可愛いけど。


「無いわね」


即答する。


「無いの?!」



「元・真性ヲタを舐めないで頂戴」


どや顔で答える。王太子妃は重責だけど、憧れの世界にいられる充実感とジークといられる幸福感が勝つ。……甘い言葉も、率直に嬉しい。


「ソウデシタネ……」



「何よ、片言になって。……ハルトと何かあったの?」


「!!!」


一気に茹で蛸になる、エマ。


「ふふっ、当たり?エマは本当にハルトが好きよね。最初から、ハルトには反応していたものね。他の男性ひとには全く無反応だったのに」


「そ、そうでしたか……?」


「そうよ!やっぱり無自覚だったのね」


「うっ」



この鈍感な将来の義妹に、警戒していた時代が懐かしい。



「で、どうしたのよ?」


「な、何かあった訳じゃなくて……ひ、日々が甘過ぎて、その」


真っ赤になって挙動不審になっている。


ああ、ああ、これじゃ、余計にハルトのスイッチが入るわ。


「……ふふっ、何よ、ただのノロケ?」


「ち、違うの~!」


「違わないわよ」


仕方ないなあ。可愛い義妹のために、相談でもノロケでも何でも聞きますよ。



あの時からもう四年か。


今や、こんなに温かくて、楽しい時間が過ごせて。とても幸せ。



「しょうがないなあ。お義姉ちゃんが、何でも聞きますよ?」




◇◇◇



「てな事があってね」


「はは。エマらしいな」


その日の練習?後、晩餐前のちょっとしたティータイムで、ジークと話す。最近は毎週末、お披露目式に向けて、エマも私も王城にお泊まりなのだ。


練習後はハルトの熱い要望で、それぞれの婚約者同士での休憩を兼ねたティータイムを取っている。



「ねぇ、四年前の今日だったわよね?エマが聖女って分かったの」


「そうだな、言われてみれば。……懐かしいな」


ジークが目を細めて言う。この表情も大好き。


そう、『エマとレインボー騎士』の中でも私の最押しキャラだった、ジークフリート。



「……どうした?ローズ」


少しの表情の変化に、すぐ気付かれる。昔から、そうだ。


「ううん……あ、あの、ジーク、無理とかしてない?」


「何だ、急に」


「……ちょっと、ね」


今更だけど、ちょっとだけ。考えてしまった。



「……俺が無理してジークフリートを演じてないかって?」


「……っつっ、」


優しい笑顔で聞かれる。


この人にはいつも見透かされてしまう。



「バカだなぁ、ローズは」


優しく抱きしめられ、頬にキスをされる。


「ジーク、だって。い……今更なんだけど」


「うん、今更だし、そんなこともないから」


今度は反対の頬にキスをされる。


「ジーク……」


「ちゃんと俺は俺だよ。むしろ、憚らずにローズを口説ける立場に生まれて、感謝しているからね。でも時々、ズルしてゲームのジークの口説き方を参考にしちゃってるかも?」


そこは見逃して、とウインクするジーク。


この辺りが、エマに前世詐称を疑われるのだろうな、とは思う。解る。



でも、私たちからしたら、通常運転。



「……6歳でプロポーズしてから、一ミリも気持ちは変わってないから」


「……私もよ」



そう。全てを思い出した11年前から。




初顔合わせで、二人で涙を流した後。


自然と手を取り合った私たちを、周りの大人たちは二人にしてくれた。



「ローズマリー嬢。君も…思い出したのか?」


「……はい。ジークフリート殿下」


「……そうか……」


「「………………」」


「……正直、まだ混乱している。でも自然と手を伸ばした。……それが僕の気持ちだと思う。もちろん、昔のこともある。けれど今の君を一目見て、とても魅力的な可愛い子だと思ったのも、僕だよ」


「……ジークフリート殿下……」


「ローズマリー、どうかこの手を取ってくれないか。今生のこの立場は、苦労をかけると思う。けれど今度こそ、君と生涯を共にしたい。……ずっと、ずっと祈っていた。君に会いたいと。また、僕の婚約者になってくれますか?」


急に大人の記憶を思い出した6歳の殿下が、一生懸命伝えてくれる。


私は……嬉しくて嬉しくて。



「……はい。はい、ジークフリート殿下。私も、ずっとお会いしたかったです」


涙が溢れ出てくる。殿下が涙を拭って、きゅ、と抱きしめてくる。



「ローズマリー。私の唯一。今度こそ幸せになろう」


「ジークフリート殿下。私の光。ずっとあなたの傍に」





「……懐かしいわね」


「そうだな。でも俺は、あの時のローズの可愛いさを今でも鮮明に覚えているよ」


「も、もう!!恥ずかしい……けど、ありがとう。わ、私も、ジークがカッコ良かったの、ちゃんと覚えているわ」


蕩けそうな笑顔のジーク。もう、何でもしてあげたくなってしまう。



「……うん。これからも俺だけを見ていてね?愛してるよ、ローズ」



詐称でも何でも構わないわ。言葉に出来ないほど大好き。



「もちろんよ。私も、愛してる」



エマに見られていたら、大騒ぎね。でもきっと、彼女もすぐに慣れるでしょう。……ハルトが相手だもの。


思わず、クスッとする。



「ローズ?」


「いえ、エマに見られたら大変だったろうなって」


「違いない」


二人で笑う。



これからの立場的に、ますます苦労は増えるだろう。高い壁も、立ちはだかるだろう。……でも根底に、この強い気持ちがある。エマを筆頭に、心強い味方もたくさんできた。



「……ジーク。これからも二人で頑張りましょうね」


「ああ」




女神様。私たちに素敵な機会を与えて下さって、ありがとうございました。すっかり私の一部になった、月の聖女様も穏やかにいられるのが伝わって来ます。



エマを見つけて下さって、感謝します。



……私は自分で選んで、ジークと一生寄り添います!!




また、貴女の元に戻る日まで。


そしてその時は、幸せな気持ちと共に。




─────────────────────


ラインハルト視点と、セレナ視点の連載も始めました。覗いてみて貰えたら嬉しいです。



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