第43話 今日もぐるぐる

朝になりました。


……全っ、然、寝られなかった……。


昨日はかなり疲れたはずなのに。何だかこう、いろいろと考え事を……。



そもそもさ、まともに話したのがあの王城での晩餐で。あれだけで、本当に私をすっ…気、気に入る?


やっぱり聖女だからなのかな。そう言えば、婚約者に、とは言われているけれど、好きだと言われた訳じゃないし。でも、あんなに気遣ってくれて。くっ、口説いてるって。でもでも、本当はどう思っているんだろう?ラインハルト殿下は……って、


「ちがーう!違ってないけど、ちがーう!」


がばっと、布団をめくって起き上がる。


「もう、なにやってんの、私……」



ため息を吐きながら、ベッドから降りる。


「支度、しなくちゃ」


自分に言い聞かせて、顔を洗って、制服に着替える。そして自分に軽く回復魔法をかける。うん、少しは楽だ。


「今日は朝ごはん、いいかな」


いつもは朝食第一主義だけど、さすがに食欲が湧かない。軽くお茶だけ飲んで行こうっと。




寮のエントランスに近づくと、何だかいつもよりザワザワしている。何かあったのかしら?


……そして、何だか妙に見られているような?


???と思いながら、靴に履き替える。ちなみに、グリーク王国も日本みたいに外と中で靴を履き替える。これも嬉しい。


「エマ嬢、おはよう」


私がエントランスを出ると、横からラインハルト殿下が挨拶をしてきた。いや、なぜここに?


「おっ、おはようございます?な、なんで?」


驚きすぎて、敬語を忘れる。


「うん、今日も安定の疑問符ついてるね」


ははは、と、楽しそうな殿下。いや、ははは、では無くてですね。


「何で、って。口説いているからね。お迎えに来た」


きゃー!!と、絶叫に近い悲鳴が聞こえる。


私も叫びたい所だけど、パクパクするだけで声が出ない。


「はは。また真っ赤だ。……少しは脈アリかな?」


「……っつっ、知りません!」


「残念」


「~~~!」


残念と言いながら、何故か嬉しそうな殿下。私はもう、自分にかけた回復魔法が切れそうだ。



結局、殿下に押し切られる形で一緒に登校した。


もう、昨日の朝なんてメじゃないくらいの騒ぎですよ……。


そりゃそうですよね……王太子とその婚約者でさえも、毎朝一緒ではないのに。もう、すごく恥ずかしい。恥ずかしいのだけれど、どこかで喜んでいる自分にも気づいたりして。心の中が大パニックだ。


「…嬢、エマ嬢、大丈夫?」


「っ、はい!」


しまった、考え事をし過ぎて生返事になってしまっていた。


「ぼんやりしてるの珍しいよね?体調が良くないんじゃないの?そう言えば、顔色が良くないような」


「い、いえ!大丈夫です。昨日、ちょっと遅くまで調べ物をしてしまって」


「…そうなの?頑張るのもいいけど、ほどほどにね?」


「はい、ありがとうございます。気をつけます」


ほんとにしっかりしないと。



ラインハルト殿下は私を教室の前まで送り、今日はすぐに自分の教室へと去って行った。



「おはようございます、エマ様」


「セレナ様!おはようございます。昨日はありがとうございました」


私たちの挨拶に、クラスが少しざわざわする。


「ふふ、こちらこそ。…今朝も熱烈ですわね?」


後半をこそっと耳打ちされる。


「か、からかわないで下さい!」


私も小声で返す。恥ずかしいよー。


「ごめんなさいね。可愛らしくて、つい」


セレナ様との笑顔でのやり取りに、驚きと安堵のような空気が流れる。


「…皆様とも、昨日のうちにお話しましたの。皆様とても興味をお持ちになって。エマ様のご都合がよろしい時に、またお茶会を開いてもいいかしら?」


「まあ、是非!」


「ありがとうございます。では後程、予定をお聞かせ願えますか?」


「はい。よろしくお願いいたします」


やったー!セレナ様、仕事が早い!楽しみだあ。


えっと、先週末から治療院行けてないから、今日は行くとして。その後は皆さんの都合に合わせようっと。


一気に気分が上がる。



「おはようございます、ローズ様」


「おはようございます、エマ様」


先に席に座っているローズに挨拶をしながら、私も着席する。


人がいる所では、私達もちゃんと様付けしますよー。


「良かったわね、エマ」


「うん、ありがとう」


こそこそっと、耳打ちする。



ホームルーム開始のチャイムが鳴る。今日も学園のスタートだ。



本日の時間割は、一限目は外国語の授業。そして、二限目が。


「そうだ、剣術、魔法訓練がある日だった…」


更衣室で体操着のような動き易い服に着替えながら、思わずぼやく。朝食抜いて失敗したなあ。まあ、無理をしなければ大丈夫だろうけど。


「…エマ様?大丈夫ですか?」


ぼやきを聞いて、ローズが声をかけてくれる。


「ええ、大丈夫です。ありがとうございます、ローズ様」


「ほんとに大丈夫?顔色が良くない気もするけれど」


レイチェルとカリンも心配してくれる。


「ほんとに平気よ!」


セレナ様のお陰で、テンション上がってますし!もともと体力には自信がありますので!


「そう?無理はなさらないでね」


「はい、ローズ様」


笑顔で答える。


「では皆様、参りましょうか」


「ええ」


カリンの言葉で、四人で訓練場に向かう。



私は気楽に考えていたが、結局この後、やはり睡眠と朝食は大事だと思い知る事になるのだった。

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