第16話 久しぶりの王城

学園から王城までは馬車で20分くらいの距離なので、あっという間に着く。


馬車は貴賓門をくぐり抜け、豪華なエントランス前につけられた。


「王城隣の治療院には毎日の様に行くけど…中に入るのは久しぶり。ちょっと緊張しちゃう」


「中に入るのは、聖女として陛下にご挨拶以来になるの?」


「うん、そうだね」


私たちが入り口でコソコソ話していると、奥の方からジークが二人の護衛騎士と共に出迎えに来てくれた。


「ようこそ、聖女様、ローズ。お茶の準備はできているよ、案内する」


「殿下、本日はお誘いありがとうございます」


ローズがカーテシーをする。私も続く。


「二人とも、気楽にしてくれて構わないよ。さあ、行こう」


「「はい」」



大国と言われる国だけに、お城は中も外も豪華絢爛だ。でも品がある。前世で海外旅行もあまり行ったことがないので、ついキョロキョロしてしまいそうになる。TVで観たような、ヨーロッパの世界遺産の様なお城。置かれている調度品も、凝ったものばかりだ。


「ここだ、どうぞ」


ジークがそう言うと、やはり美しく装飾をされている大きなドアを、騎士が開けてくれる。


「ありがとうございます」


「失礼します…」


部屋の中に入る。


うわー!綺麗!秀麗!美麗!美々しい!そして広い!うちの実家より広いんじゃないか…まあ、当たり前か…。



「エマ嬢、こちらへどうぞ」


「あっ、はい」しまった、また呆けてしまった。


仕方ないわよねー!こちとら前世からずっと庶民なもんで…。



お部屋にいた侍女の方たちが、手早くお茶をセッティングしてくれる。さすが王宮侍女の方々。早くて丁寧。


「セッティングが済んだら、皆は出てもらって構わないよ。後は自分たちでやるから」


「承知致しました」


侍女さんが部屋を出ていく。騎士の二人も部屋を出て、ドア前待機。



「さて、と。エマ、この部屋に防音結界を張ってもらえるか?」


「はい」


部屋を包み込むイメージで。


「できました」


「さすがだな!では早速、昼休みの続きを話そう。スイーツも遠慮なく食べてくれ」


「わあい、いただきます!おいしそう!ローズ、どれがオススメ?」


「うーん、王宮のはどれも捨てがたいんだけど…このソフトクッキーかな!」


「どれどれ…ふわっ、美味しい!」


「でしょ?良かったー!今度ね、エマと王都のカフェにもほんとに行きたいの!」


「行きたい、行きたい!」


「……行くのは構わないし、ローズ、友達になって嬉しいのも分かるけど…話していいかな?」


「「あっ、ごめんなさい」」


二人で目線を合わせて笑う。


それを見て、ジークもどこか嬉しそうだ。



「うん…、で、さっそく。これなんだけど」


ジークが七色のキャンディーを出して、テーブルに置く。


「ジーク、これが、例の?」


「そう、虹色のキャンディー。普通に王都の人気の菓子店で手に入る。いろいろ調べさせても、何の変哲もないキャンディーなんだ」


「…見せてもらっても?」


「もちろんだ」


私が手にしてみても、特に変化は起こらない。


普通の、綺麗な飴ちゃんだ。


「…ちょっと、この包みごと借りていい?」


キャンディーは、もともと10センチくらいの小さな袋に入っていた。それごと両手で包み込む。


「…元気が出ます様に」


手から光が溢れて、やがて静まる。


「エマ、それは?」


「うん、光魔法。私、治療院のお手伝いもしてるでしょう?そこで薬に光魔法を付与すると、効果があがるのに気づいて」


「ああ、父からも聞いた。でも、誰にでもできるものでもないようだな?」


「そうみたい。たまたま、私が薬作りを手伝ったものが効きがいいと院長が気付かれて…学園の校舎は、表面を魔法で覆ってるでしょ?それを中に入れる感覚?説明は難しいのだけれど。最初は無意識だったし」


「それをこのキャンディーにもやってみたのね?」


私は頷く。


「よし、食べてみよう」


「えっ、ジークが?」


「まずいのか?」


「いや、変なことにはならないとは思うけど…」


「なら、いい。何かあったら治してくれ」


まあ、そうだけど…。


ジークはコロンと躊躇いなく飴ちゃんを口に入れる。


「なるほど、疲れが取れるな。何でもできるようなと言うと語弊があるが、やる気も出るようだ」


「私もいい?」


ローズも口に入れる。ちょっと、王太子と王太子妃……。


信頼してくれてるのは嬉しいけど。


「ほんと!元気になる!」


「小さい飴だし、効果はせいぜい半日くらいだと思うの」


ファイトー!いっぱーつ!!みたいな。あら、古い?


「「なるほど」」


それで、ですが。



「それで……この飴に、『私を好きになって♥️』みたいな魅了魔法が付けられたら、ゲームみたいになりかねないかなあと……」


思ったりする訳です。



ちょっと怖いです。

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