第15話 公爵令嬢の微笑み
教室へ戻ると、レイチェルとカリンがすぐさま駆け寄ってきてくれた。
「おかえりなさい、エマ。授業の準備を勝手にしてしまったの、大丈夫だったかしら?あと、その…」
心配そうに言葉を濁す、レイチェル。
「大丈夫よ!準備もありがとう」
私の笑顔に、ひとまず安心してくれる二人。
「レイチェル様、カリン様、今日は急にエマ様をお借りしてごめんなさいね。暫くの間、エマ様には王城の方で聖女としてのお仕事をお願いすることがあって…殿下に説明をするように仰せつかっていたのよ」
ローズが、二人に説明しているようでありながら周りにも聞こえる位の声量で話す。
「そうでしたの」ホッとするレイチェル。
「エマ、聖女みたいね?」おどけてくれるカリン。
「一応、聖女ですから」
軽くカーテシーをしてみる。空気が一段軽くなった。
そこに、授業開始のベルが鳴る。
「ではエマ様、放課後にまた声をかけますわね。城まで当家の馬車でお連れしますわ」
「ありがとうございます、承知致しました。よろしくお願いいたします」
私たちがそれぞれ席に着いた頃、魔法理論のコルダ先生が入って来た。その道の権威の教授で、個性的な方だ。
女性で、でもずっと教職を続けられていて、憧れる。
授業も実践が多くて楽しい。
「はーい、みんな揃ってるかな?授業始めまーす」
異なる特性の併せ方、うまく使えるようになれば、いろいろと幅が広がりそう!
勉強も頑張ります!!
授業も終わり、放課後になった。約束通り、ローズがすぐさま迎えに来てくれた。例の四人もチラッとこちらを見ているが、授業前の話が聞こえていたのだろう、何も言って来ない。
「エマ様、参りましょうか」
「はい」
私は椅子から立ち上がる。
そしてローズは振り返って、
「トーマス、エトル、アレン、ビル。少しの間、生徒会をよろしくお願いしますわ」
と、とてもいい笑顔で圧をかけながら、四人に言った。
怖い。本気の公爵令嬢こわい。…でも素敵。
「承知しているよ、ローズマリー」
代表して、トーマスが答える。
「それは結構。では、ご機嫌よう」
ローズは優雅に歩き出す。後ろを私も付いていく。
「ローズマリー様、エマ、ご機嫌よう」
「お務めしっかりね」
レイチェルとカリンが声をかけてくれる。
「お二人とも、ご機嫌よう。また明日」
「ありがとう、二人とも。頑張ってくるね」
いい友人ができて、幸せだ。
校門前に停まっていた、公爵家の立派な馬車に乗る。
護衛の騎士様のエスコートもスマートだ。
「ふわあ、クッションふかふかー!さすが公爵家だよね!」
「ふふ、ありがとう。喜んで貰えて嬉しいわ」
あれ?
「ローズ、何か元気ない?」
「ううん、違うの。……いえ、違わないか……エマはいいお友達がいて、いいなあって」
眉を下げながら話すローズ。
「ローズ……」
「いえね?!エマとも友達になれたし、充分嬉しいんだけどね!!」
「うん」
「ごめん…でも、いいなあって」
「うん」分かるよ。
「嫌味じゃなく聞いてほしいんだけど……取り巻きになってしまいそうな友人は、作らないようにしていたというのもあるの」
「あ、それって…」
「うん、そう。ヒロインに何かしでかす子が出るリスクを減らすために」
「ローズ……」
ごめんと言うのも烏滸がましく思うし、上手く言葉が出ない。
「そんな顔しないで!ってごめん、なっちゃうよね。私が自分で自分を守るために決めたことなの。エマを責めたい訳じゃないの!…でも、三人を見てると、いいなあって」
「うん、私もあの二人と友人になれたことは幸せだと思ってる」
だから。
「これからローズも一緒しようよ!同じクラスなんだし!」
「えっ、でも私、公爵家だし……気を使わせるわ。ヒロインいじめを気にかけていたというのが一番だけど、この肩書きが枷になってる部分も大きいの」
「あの二人なら大丈夫!こういっちゃなんだけど、聖女だって中々のものよ?それをつついてくるんだから!」
ローズは少し考えた顔をする。
「言われてみれば、確かに。普通にエマを揶揄したりしてるわね」
「でしょ?さっそく明日…は週末で休みだから、休み明けのお昼からはいっしょしよーよ!生徒会は任せちゃいなよ!」
イタズラっぽく言う。
「……そうね、そうしちゃおうかな。たまにはいいよね?」
「いいよ、いいよ!私が許すよ!って、何様だ(笑)」
聖女様だ!
「ありがとう、エマ。すごく嬉しい!けど、ちょっと心配ー!緊張しちゃう」
「だーいじょぶだってぇ!楽しみだね!」
気も早く、来週の昼休みの話で盛り上がっている間に馬車はお城に到着した。
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