5.愚者は無謀にも龍に挑み、智者は龍の心を揺さぶる事

 キロンがファム村を去って、一年が経った。その間に、カーロンの周りでは様々な事が起こった。彼が村を去った三ヵ月後に、父親が急に倒れてそのまま息を引き取った。他に跡継ぎもいない為、彼が新たな村長として立たねばならなくなった。とはいえ、彼は村長としての細かい仕事など嫌いだった。そこで、村でも特に大きな自由農民のキーロフに代理を依頼し、自身は相変わらず武術の鍛錬に励んでいた。彼自身は、そのまま村長の座を譲っても良いとさえ思っていた。

 その日、彼は村の若者数人を相手に調練を行っていた。平和な村とはいえ、一年前の様に怪物との戦いが起こる可能性はあるし、山賊やゴロツキ傭兵の様な連中が襲ってこないとも限らない。それに、あのヴァンター山の山狩りからすぐに、あの山を山賊達が占拠したと聞いていた。そうなれば、この村に略奪に来る可能性も考えねばならなかった。

「奴ら、この前領主の軍勢も追い返したそうじゃないか。人数も数百を超えたというし、食料も足りなくなるだろう。いつ来るか分からんぞ」

「しかし、村長。いくら俺達が多少鍛えたところで、とてもじゃねえがあいつら全員と戦うなんて無理だぜ。この村で戦えるのなんか、女、老人までかき集めても五十人もいねえんだぜ」

 農民の一人が言った。しかし、カーロンはすぐに説明する。

「別に、全員と戦う必要もない。数百の連中がいると言っても、そいつらが全員降りてくる訳じゃない。それに連中は所詮、食い物や金目の物が欲しいから戦っている連中だ。信念なぞ持っちゃいないから、面倒だと思えばすぐに撤収するさ。だから、この村を襲うと面倒だぞと印象付けるだけで良いんだ」

 そう聞いて、農民達は皆感心した様に頷いた。あの山狩り以来、カーロンは村中の尊敬を集める身となっていた。特に若い農民達からは、村の守護神の様に扱われている。

 そしてもう一つ、彼が尊敬を集めている理由があった。空から黒い影が飛び降りてきて、カーロンの横に降り立つ。赤黒い鱗に覆われた、火の様に赤い目を持つ若い飛竜だった。若いと言っても、カーロンと見下ろす位の体高はある。飛竜は甘える様に、カーロンの腰に顔を押し当てた。カーロンも軽く、飛竜の顎を撫でてやる。あの山狩りの時、彼が持ち返った卵が一週間程後に孵化し、生まれたのがこの飛竜だった。村にある干し肉や家畜の肉を与えていては足りないので、最近は半ば放し飼いで、野兎などを食べさせていた。カーロンの屋敷の中で産まれ、最初に彼の顔を見た事で彼を親だと認識したのか、カーロンには懐いているし村の農民達に危害を加える事も無い。それを見た農民達は、腕が立つだけでなく竜まで手懐けてしまう一代の英雄、とカーロンを称えていた。

「もし、山賊共が来やがったとしても、カーロン様に勝てるもんか」

「そうよ、そうよ。カーロン様がいる限り、この村は安泰よ」

 若者が口々にそう言う。そう言われて、カーロンも悪い気はしなかった。

 その頃、ヴァンター山の山賊の首領、ヴァーミリアンは頭を悩ませていた。あれから一年近くの時が経ち、彼らは生き残る為に、そして復讐の為に付近の町に住む貴族や騎士達を襲い、財と食糧を得ていた。元々特別な訓練を受けていた訳では無かったが、彼らは上手く戦い、またこの山は見通しが悪く、彼らの様な賊が身を潜めて奇襲を行うには最適の環境でもあった。彼らは信念として村の食糧庫は襲わなかったから、むしろ一部の貧民達からは尊敬を集めてさえいた。彼らの声望と強さを慕って、次第に流民達や食い詰めた農民達が集い、気が付けばその人数は五〇〇人を超えている。事態を重く見た領主は手勢を送り込んだが、手酷い打撃を被って撃退された。山賊達は山の木々に隠れ、遠くから矢を射かけては逃げるといった戦術で、突っ込んできた領主の軍勢を散々に苦しめた。そして夜、夜陰に乗じて一気に奇襲を仕掛け、三〇人程を殺した。それで、戦利品として武具などを手に入れ、彼らの意気は更に上がった。しかし、人数が増える程、頭をもたげてくる問題がある。食糧だ。ある程度は山菜や山の獣を狩って得る事ができるものの、五〇〇人を超えるとなるとそれでは到底賄えない。貴族や金持ちを襲ってある程度は得る事もできたが、それにも限界が近づいていた。この田舎では、貴族と言っても大半の者はそれ程裕福という訳でもない。だから少しでも、民から搾り取ろうとしていたのだ。山賊になり、見方が変わった事でそれが分かった。

「ラミア、今、食糧はどの位ある」

「うーん……持って、後一月かな。収穫の時期まで持つかどうかも」

 ラミアは渋い顔でそう応える。元々酒場の手伝いをしていたから、二人よりは物資や財務の管理は得意だった。

「貴族を襲う……にしても、ここら辺の貴族は大体襲ってしまいましたし」

「畑の方はどうなんだ、ティーガー」

「想定通りには収穫できそうだが。ただいかんせん山の中だ、そもそもの耕地が少な過ぎらあ」

 ティーガーは山賊達を指揮して、山の中に畑を作っていた。しかし山を開墾して畑を作るのは簡単ではなく、またそれ程広い土地が確保できる訳でもない。

「マズいな。ここに流れてきた連中の中には、ただの食い詰めもいる。食糧不足となれば、暴走しかねん」

「なあ、兄貴。ちと遠いがよ、ローレルを攻めちゃダメか? あそこは大都市で豊かだし、食糧なら山程あるだろうぜ。素早く襲って、食糧をふんだくって逃げるだけなら、何とかなるんじゃねえのか」

「バカを言うな。あの地を治めているコーネリアス辺境伯は英雄と名高いし、国境付近だから兵士も鍛えられている。そうそう隙をつけるとは思えん。それに、あそこに行くにはどうやってもファム村を通らねばならん。今までずっと、あそことは事を荒立てるなと言っているだろう」

 そう聞いて、ティーガーはフンと鼻を鳴らす。

「それが気に入らねえ。兄貴はいつもそれだ。何が怖いんだ、あんな村」

「そもそもこの山に出たレッドキャップを討伐したのは連中だぞ。若い村長のカーロンとかいう奴、とんでもない実力者だと言うしな。他の村とは訳が違う、関わるべきじゃない」

「それじゃ、飢え死にを待つだけだ。俺は行くぜ。村長の息子なら、お坊ちゃまじゃねえか。そんな奴怖かねえや」

 そう言うが早いが、彼は飛び出して行ってしまった。ヴァーミリアンは止めようとしたが、彼は振り返る事無く槍を担いで部下と共に走り出していく。

「だ、大丈夫かな、ティーガー」

「確かに奴の怪力は大したものだが、所詮は我流。カーロンという奴、何人もの先生に武芸を教わってきたというからな」

 二人の心配をよそに、ティーガーは意気揚々と進軍する。彼に付き従うのは一〇〇人程の山賊達だ。これだけいれば、力で押し通せばまず勝てるし、そもそもその威勢を恐れて戦いにならない可能性も高い。ティーガーはそう思っていた。

 彼らの進軍は、見張り塔にいる村人によって発見され、ただちに鐘が打ち鳴らされた。カーロンによって鍛えられた者達が三〇人程、手に武器を持って集まる。とはいえその武器の多くは農業に使う鎌や鋤鍬、シャベルなどであった。カーロンも赤い服に身を包み、手には瑠璃色に塗られた短弓、ワシ羽の矢をニ十本程入れた矢筒と六フィート程の鋼の棒を背負い、ジッと目を凝らす。やがて彼らの視線の先に、盗賊の一団の姿が映った。カーロンは弓を引き絞ると、ひょうと矢を放つ。放たれた矢は勢いよく飛んでいき、ティーガーの担いでいる槍の穂先に命中した。

「止まれ! 山賊ども、何を思って我らの村を襲いに来た! 今引き返せば許してやるが、もし向かってくると言うならば、次は喉を射るぞ!」

 その弓術の冴えを見て、山賊達は噂通りの男だと震えあがる。ティーガーも思わず冷や汗をかいた。しかし部下も見ているし、大見得を切った手前おめおめ戻る事などできない。ティーガーはずいと進み出ると、大声で怒鳴った。

「俺達はこの村を襲う気はない! ただローレルに行く為に、ここを通りたいだけだ。黙って通してくれれば、村の連中に危害を加えはしねぇ!」

「フン、そうはいかんな。お前達を縛り上げて役所に連行すれば、褒美が貰える事になっている。何より、盗賊を黙って見過ごす様な真似、我慢ならん」

 ティーガーも強気なら、カーロンも強気だった。真っ向からぶつかれば、勝てはしても犠牲を出すだろう、それは上手くない、と思ったティーガーは、一つ提案をした。

「俺とてめぇで、決闘と行こうや。俺が勝ったら、黙って通せ。俺が負けたら、煮るなり焼くなり好きにしやがれ」

「良いだろう。怪我人が一人で済む」

 そう言うと、キロンは静かに歩み出た。農民達、山賊達が固唾を飲んで見守る中、二人は相対する。

「行くぞ」

「いざ」

 じり、と二人の距離が縮まり、そして一気に飛び掛かった。カーロンの棒とティーガーの槍が激しくぶつかり、二人は力比べの体勢に入る。

「山賊にしては、良い打ち込みじゃないか」

「ほざけ、ガキが! 力比べで、俺に勝てると思うな!」

 ティーガーが全身全霊の力を込めて押し込む。カーロンはその力の強さに少なからず驚いた。ならば、と左手を引き、棒を傾ける。力一杯押し込んでいたティーガーは、完全に前につんのめる姿勢になった。その隙を突き、下から棒の左側を押し上げる。棒がティーガーの腹を抉り、彼は白目をむいてどうと倒れ伏した。農民達は歓声をあげ、山賊達は驚きで声も出ない。

「賊ども! 約束通り、帰って貰うぞ!」

 カーロンが叫び、棒を彼らに突き付けた。その迫力に気圧されて、山賊達は一斉に逃げ帰っていく。農民達は口々にカーロンを褒め称えながら、倒れたティーガーを縛り上げた。彼の首には相応の賞金がかかっている。明日にでも町へ引っ立てていこう、という事になった。

 一方で、逃げ戻ってきた手下達から事の顛末を聞いたヴァーミリアンは嘆息し、呻く様に言った。

「やはり、そうなったか。しかし、それ程の使い手とはな」

「どうする? 山の兵隊皆持っていけば、数で押し切れるとも思うけど」

「いや、どうだかな……それ程の男なら、もう俺達では歯が立つまい。そこまでの奴が相手だと、手下共も怯えてすぐに逃げ出す可能性もある。ここにいる連中は正規の兵隊じゃない、命が惜しくてここに流れてきた者が大半だ。死ぬ気で戦うなんてしねえさ」

「じゃ、どうするの」

「……俺に、考えがある。失敗すれば、俺もお前もお縄を頂戴する事になるがな」

 そう言って、ヴァーミリアンはラミアに何か耳打ちした。

「どうする、やってくれるか」

「そうね。良いわ、どうせ私だって、あそこで死んでた命だし。ティーガーを助ける為なら、賭けていい」

 二人はそう言い合うと、山賊達を山に残して下山した。村では山賊達の報復があるかもしれないと警戒していた。見張りが二人の男女がこちらに来る、と叫び、カーロンは不思議そうな顔をしながら二人の方へと向かう。ヴァーミリアンとラミアはカーロンの顔を見ると、その場に跪き、首を垂れた。

「何者だ、お前達」

「私はヴァンター山の山賊を束ねております、ヴァーミリアンと申す者。これは副頭首のラミアです」

 そう聞いて、カーロンは驚愕して訊き返した。

「山賊の親玉か? それがなんで、二人だけでここに来た」

「貴方に、我ら二人を捕えて頂きたいのです」

「何!?」

 カーロンは思わず叫んだ。他の農民達も、皆驚いて騒めいている。

「どういう意味だ。自ら捕えてくれとは。お前達、町に突き出されれば確実に縛り首だぞ」

「それ故です。貴方に無謀にも挑み敗れ、捕らわれたティーガーは、かつて私の農奴でした。農奴とはいえ幼い頃より兄弟同然に育った身の上、肉親に劣らぬ情愛で繋がっております」

 ヴァーミリアンがそう言うと、今度はラミアが口を開く。

「かつて私が堕胎の罪を犯した時、彼は命を賭して私を救ってくれました。私にとっては命の恩人、どうして彼一人が地獄に落ちるのをのうのうと眺めていられましょう」

「それで、こうしてお願いに参ったのです。どうか、我ら二人も共に捕えて頂き、三人共に地獄へ参りとうございます。貴方のお噂もかねてから耳にしておりました。ファム村に、若い英雄がいると。その貴方の手にかかるならば一つの名誉。何卒、お願い申し上げます」

 そう言って、二人は深々と頭を下げる。カーロンは黙ってそれを見つめていた。

 ふと、一年前の記憶が蘇った。あの時、自分一人は助かろうとしたレッドキャップの姿を。あさましい、頭たる者の振舞いではないと、心の底から憎悪が湧いた。それは結局、あのゴブリンに限った話ではない。税を取り立てる事しか頭になく、奪うばかりで何一つ与えてはくれない連中が、重なって見えたのだ。もし今、この国が他国に攻められて戦争ともなれば、あの連中が自分達を守ってくれるのか。そうは思えなかった。そうなれば、今度は俺達があのゴブリン達と同じ様に、ただただ殺されるだけではないのか。そういう思いが渦巻いて、だからこそあれ程の怒りが湧いたのだ。

 それに比べ、この二人の態度はどうだ。縛り首になるのを承知で、それでも友と共に死のうと降りてきた。そんな潔さの数万分の一でも、彼らにあるか。

 黙っているカーロンの横に、農民達が集まってきた。ザックが、縄を持って二人を縛ろうとした、その時だった。

「待て。……あの山賊をここに、連れてこい」

 カーロンが静かに言った。農民達が驚いて、口々に質問を浴びせたが、カーロンはそれに応えず一喝した。

「良いから連れてくるんだ!」

 彼にそう言われて、逆らえる者はこの場にいなかった。ティーガーは顔に水を掛けられて意識を取り戻すと、そのまま引っ立てられて連れて来られる。ヴァーミリアン達の顔を見て、ティーガーは酷く狼狽した。

「あ、兄貴、ラミア!? 何で」

「お前一人、死なせられるか。死ぬんなら三人一緒にだ」

 ヴァーミリアンの言葉を聞いて、ティーガーは俯くと大粒の涙を零した。

「すまねえ。大口叩いて、この様だ。俺がバカだったせいで、兄貴達まで」

「私はどうせ、あの時殺される筈だったんだ。あんたと死ねるなら、良いよ」

 ラミアが優しい口調でそう言った。カーロンが剣を抜き、ティーガーの後ろに立つ。そして、その手の縛めを解いた。ザックが驚いて、大声を上げる。

「な、何をするんです、村長!」

「……俺は、こいつらを突き出す気にはなれない」

 彼は静かに、そう言った。他の農民達は呆気にとられ、何も言わない。

「これ程の義侠に溢れた人間が、どれ程いるのか。こんな気持ちのいい人間を、あんな連中に売り渡して、それで多少の金を得て、それで何になる。俺には無理だ」

「し、しかし!」

「彼らは、一度でも貧しい人間を襲った事があったか。噂で聞けば、狙うのはいつも富める連中だ。今回だって、ただ通るだけだと言っていた。俺はそれを信じられなかった、だから戦った。だが、今なら信じられる」

 そう言って、カーロンは剣を大地に突き立てた。そして、片膝をついて深々と礼をした。

「貴方達は、本物の義士だ。俺は今はっきりとそれを分かった。どうか、お帰り下さい」

「ありがとうございます」

 そう言って、ヴァーミリアン達三人も深々と頭を下げた。そして、三人は連れ立って帰っていった。その帰り道、ラミアはヴァーミリアンに言った。

「上手く、行ったね。カーロンっての、確かに若くて、まっすぐな男だった」

「流石、兄貴だぜ。あの若いのの性格を読んで、手を打ったって訳だ」

 二人はそう言ってヴァーミリアンを褒めた。確かにヴァーミリアンは、最初ラミアにその様に説明した。カーロンは若い。その若さからくる純粋さを狙い、敢えて潔い態度を取る事で感銘を与えれば、逆にティーガーを助けてくれるかもしれないと。しかし、それは取って付けた様な理由ではあった。

「俺は、確信は無かったんだ。確かに純粋な男なら、それで助かるかもしれんとは思った。だが、名声名誉を欲しがる男なら、ただ単純に持っていく首が二つ増えるだけの事だ。奴がどういう人間かを判断する材料は足りなかった。後者の可能性だって、十分あった」

「じゃ、もしあいつが二人とも引っ立てる、って言ったら、どうするつもりだったんだよ、兄貴」

「その時は、仲良く引っ立てられて首を吊られるさ。俺は割と本気だったぜ」

「私も、そうだったな。二人と一緒に死ねるなら、それはそれで良いと思った。嘘は無いよ」

 ラミアも、そう言って笑った。こうしてヴァーミリアン達は、再びヴァンター山に戻っていった。

 今回の騒動は、村の外には「カーロンがヴァンター山の山賊を見事追い返した」という風に伝わった。そうして彼の名前は更に有名になったが、カーロン自身はそれをどうでも良いと思っていた。それよりも、あの気持ちの良い連中と親しく付き合いたいと思う様になっていた。あの騒動から一週間が経った頃、彼は狩りと称して出かけ、一人ヴァンター山に入った。見張りの山賊は彼の姿を見て仰天し、慌ててヴァーミリアン達に報告する。三人は揃って山を降りてくると、カーロンに深々と頭を下げた。

「これは、これは。一体今日はどういったご用件で」

「いや、用事という程の事は無いんだ。ただ、会いたくなった。それではダメだろうか」

「まさか、とんでもない事です。どうぞ、こちらへ」

 四人は連れ立って、山の中腹に作られた三人の住居に入る。そこで酒を飲み、肉を喰らった。カーロンはヴァーミリアン達の来歴を聞いて思わず涙を流し悲憤慷慨した。

「そうか、ラミアさんの堕胎の罪というのは、そういう事だったか。全く、酷い話だ。処刑が異様に速かったのも、領主が自分の息子の醜聞を広めたくなくてさっさと殺してしまいたかったんだろう」

 逆に、カーロンが自分の過去の話をすると、ヴァーミリアン達は驚き感心するばかりだった。キロンとの出会い、修行、山狩り、そこで拾った卵。ティーガーなどはすっかり彼に心酔してしまった。

「王都守護軍の教頭なんて言ったら、そら強えんだろうなぁ。そんな人に鍛えられた人だ、俺が敵わねえ訳だ」

「だが、お前の力には俺も驚いたぞ。だから、それを利用したんだが」

「しかし、そんな立派な御師匠様も、つまらねえ奴の為に都を追われちまったのか。やっぱりどうかしてるんだぜ、今の世はよ」

「いつか、貴方の龍を見てみたいものです。噂には聞いていましたが、ここで見つけた卵が孵った物だったとは」

「うん。また機会があったら連れて来よう。もう少し大きくなったら、背中に乗れるかもしれないと思っている。顔は少々厳ついが、産まれた時からの付き合いだからな、よく俺に馴れてくれているし、意外に可愛いものだ」

 やがて、日が傾いて来た。カーロンは名残惜しさを感じながら、山を降りる。久しく無かった、楽しい時間だった。この日から、カーロンはしばしばこの山に足を運ぶようになった。

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