第2.19話 共同作業
人が後ろにいるというのは、なんともやりづらい。いきなり襲い掛かって来るとか、気づけばいなくなっていたとかは無いだろうが、キーボードを打つ速度が遅くなっているのが分かる。
今日作るのはスタート画面だ。今は、アプリケーションを開くと、飛行機と敵が描画される。これを変更しないといけない。スタート画面とゲーム画面を分けて、それぞれ移動できるようにする。
飛行機や敵のアップデート関数をメインループに書いていたが、それを、一つの関数にまとめてしまう。これを、GameSceneUpdateと名付けた。もう一つ、飛行機の最初の位置や、敵の出現頻度など、最初に設定するものをまとめた関数を作る。これをGameSceneInitと名付ける。Sceneは場面、Initは初期化という意味だ。
他にも、飛行機や敵の画像の読み込みの処理だけを、別の関数に分けた。正しく名前を指定してなかったり、画像そのものが無かったときに、正しく画像が読み込まれなかったということを、分かりやすくするためだ。
ゲームシーンアップデート関数をメインループに書いて、実行してみる。
元通り動くことを確認したら、スタート画面を作り始める。いや、その前に。
「メデューサと背景のほうはどうだ?」
このゲームは俺一人で作っているわけではない。スタート画面をどれくらい凝るかは、秋晴さんと決めることだ。
パソコンの画面を俺の方に向けてくれたので、椅子を転がして近づく。
画面に映っているのは、ジャングルの中にそびえ立つ遺跡の絵だ。ひびが入ったり、砕けたり、ツルが巻き付いたりと、長い年月が経っているのがわかる。
「あと霧も描いてみた」
秋晴さんが少しマウスを触ると、ジャングルを霧が蔽った。パソコンで絵を描くときは、いくつかのパーツに分けて描くらしい。
秋晴さんがクリックする度に、霧が出て消えてを繰り返す。ちょっとした演出だ。これをゲームに組み込まない手はない。
すげぇと、後ろから芝竹君の声が聞こえて、そういえば今日は見学者がいたなと思い出した。
「こっちがメデゥーサ」
ジャングルと遺跡の絵が消えて、代わりにメデューサの絵が画面に移される。髪として数匹の蛇が頭を蔽い、それぞれ口を開けたり、寝ていたりといろいろな表情をしている。足は横座りの姿勢。右手で左の方を指していて、ゲームにすると、飛行機の方を指している形になる。
「もう出来てたのか」
メデューサも背景も、俺から見ると完成しているように見えた。
「それぞれの絵はいいんだけど、重ねたら」
秋晴さんがマウスを操作して、メデューサの絵を背景の上に表示させる。実際にシューティングゲームで動いた時のシュミレーションだろう。世界観が合っているのか、メデューサが背景に溶け込んでいる。俺から見ると特に問題は無いように見える。
「ほら、背景と馴染み過ぎて、メデューサが敵と分かりずらい気がする」
なるほど、溶け込んでいることが必ずしもいいとは限らないのか。
「とりあえず、画像を共有フォルダに送ってくれ、一旦それをゲームに入れてみる。後、ジャングルと霧の絵は分けてほしい、プログラムで出すか出さないかを設定できるようにしたい」
わかったと言いながら、秋晴さんは共有フォルダを開いた。
こうやって見ると、これだけで十分な気もしてくる。自分達だけで楽しむなら、スタート画面なんて無くてもいいのではないだろうか。
「スタート画面はどうする?」
「スタート画面?」
良くない葛藤を引き離すために、無理やり話を切り出した。面倒だと思ってしまうと、やらなくていい理由を探してしまう。
とはいえ、秋晴さんからすれば突然の相談だ。急いで言い直す。
「あぁ、次作るとしたらスタート画面だと思ってな。ゲーム全体のUIも含めて、そろそろ話し合いがしたかったんだ」
ここで、先にスタート画面を作る準備を始めたのはミスだったなと気づく。自分の中で、スタート画面を作るつもりでいた。今作っているゲームは絵も必要であり、プログラムの都合だけで考えていいものではない。
「そういえばそういうものも、あったね」
秋晴さんが少し、冗談っぽく言った。もしかすると、ゲーム以外に関しては、そこまで力を入れるつもりはなかったのかもしれない。これはラッキーである。
「描けって言うなら描くけど、」
「いや、大丈夫だ。こっちで適当にやってみる」
最低限なら、ライブラリで用意された文字だけで事足りるだろう。
秋晴さんの言質が取れたことで、安心して手を抜くことが出来る。今日は良い日だ。
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