第2.18話 共同作業

 秋晴さんからは、スタンプだけが送られてきた。OKと書かれた看板を、ウサギが掲げている。

 秋晴さんからの返信を芝竹君に伝えたのは、昼飯の時である。俺の机の上に、二人分の弁当箱が乗っている。狭い。

 お互い、食べながらは喋らない。もし芝竹君が、ご飯を飛ばしながら喋るような奴なら、見学には俺がNoを出していただろう。

 先に芝竹君が食べ終え、間もなく俺も食べ終える。

「今日は部活が休みでさぁ、やることなかったから助かるわ」

なるほど、見学の理由は、暇だから、ということか。確かに、暇というのは厄介だ。

「新城君は、プログラマーだっけ?どういうことしてんの?」

プログラマーを名乗れるほど、出来るわけではないので、そうだとは言わない。かと言って、自分がどれだけ出来るかなんて、まったくその道に関わりの無い人からすれば、関係ないわけで、否定もしない。

「プログラミングだな、最近は当たり判定を作った。多分今日は、スタート画面を作ることになると思う」

UIに背景にボスキャラ、まだゲーム画面で作れていないものはたくさんあるが、それらを作るのは、絵が出来てからだ。おそらく秋晴さんは、ボスキャラであるメデューサと、背景であるジャングルの中の遺跡を、同時に描いているのだろう。それらが描けるまで待つのは、時間が勿体ない。先にスタート画面やクリア時の画面を作ってしまったほうが効率がいい。飛行機と敵の当たり判定も、先にゲームオーバー画面をどういうものにするか、考えてからにしよう。

「つまり部員以外で、スタート画面を最初に見るのが俺になるってわけだな」

芝竹君がニヤニヤし始めた。まるで隆也みたいだ。

「まぁ、そうなるな」

二人目がいるかどうかさえわからないものの一番に、そこまでの価値があるのだろうか。

 芝竹君が普段どんなゲームをしているのかを聞いていると、昼休みが終わった。

 授業を終え、放課後に入る。

 いつもは一人で取りに行く鍵を、今日は二人で取りに行くことになった。雨が降っているせいか、人通りが多い。

 生きている中で、雨が降るというのは、そこまで非日常なわけではない。それでも、いつもと違うように感じるのは、一人ではないせいだろうか。それを、いいとか悪いとか、そういうことを思うわけではない。ただ、妙にむずむずする。

「すまん、トイレ行っていいか?」

職員室の隣にあるトイレに差し掛かり、尿意があることに気づく。そういえば、今日は少し冷えた。

 名前のわからない先生から鍵を貰った後、すぐに第二コンピュータ室に行く。秋晴さんが待っているのも、見慣れた光景だ。

「もしかして、あれがさっき言ってた他の部員か?」

芝竹君の歩くペースが遅くなる。

「あれじゃない、秋晴さんだ」

「美容とか、そっち系の部活の方がしっくりくるな」

 対面して、お互いに首だけでお辞儀する。

 鍵を開けて、先に芝竹君を入れる。

「ここがゲーム制作部かぁ」

広さは、普段授業を行う教室の半分ほどしか無い。ドアから入ると、右側に、デスクトップパソコンが置かれた教卓と、ホワイトボードがある。長机が2つ、ホワイトボードと垂直に、壁に面して置いてある。片方の長机には、ノートパソコンが3つ置かれている。

「部室というよりは間借りだな、ゲーム制作部は今年で廃部だ」

人数もすぐには集まりそうにない。少なくとも今年一杯は、同好会という形になるだろう。まぁ、俺はそれで全然構わないのだが。 

 部屋を見渡している芝竹君より先に、俺と秋晴さんは、カバンをパソコンが置かれていない方の長机に置いた。

「何もないな」

芝竹君の素直な感想だろう。確かに、他の部活と比べれば、何もないかもしれない。

「ホワイトボードに何か書かねぇの?企画とか」

ここの部屋はゲーム制作部専用じゃないからなと、言いかけた時に気づいた。オセロの定石や、詰将棋が書かれていた。岡林先生が書いていたものだ。まだ消されていないということは、他の人がホワイトボードを使っていないということである。もしかするとこれは、ホワイトボードを活用せよという、岡林先生から俺達へのメッセージではないだろうか。いや、それはないか。

 俺と秋晴さんは定位置に座り、芝竹君は俺の後ろに立った。椅子は一つ余っているので、座ることを勧めたが、このほうがいいというのだ。

 パソコンを起動して、プロジェクトを開く。少しくらいは、格好つけるか。

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