第2.20話 共同作業

 先ほどは、飛行機や敵などのアップデート関数をまとめた、ゲームシーンアップデート関数を作った。

 次は、スタート画面のアップデート関数だ。今まで見てきたゲームの中で、比較的簡単に作れそうなスタート画面を思い出す。そして、今作ってるシューティングゲームに置き換えてイメージしてみる。

 背景は、とりあえず黒一色でいいだろう。選択肢は白色の文字で、はじまるとおわるの二つ。選択している方の文字を、大きくしよう。操作は単純に、矢印キーで選択して、エンターキーで決定だ。

 頭の中でまとめて、それを実装する。

 まずは、今どれを選択しているかを入れる変数を作る。はじめるが0で、おわるが1だ。矢印キーで値を増減することで、選択できるようになる。また、超えたりマイナスにならないように気を付けることも必要だ。今回は、0未満になると1を入れて、1を超えてしまうと0を入れるようにした。

 そして、エンターキーを押したときに、変数の中に入っている値を元に、ゲームを始めるのか、終了するのかを判定する。

 あとは、どれを選択しているのかを画面に描画するだけだ。はじめるとおわるの二つの単語を描画すればいいのだが、選択している方を大きくするという処理を考えないといけない。

 ほんの少し椅子を後ろに引き、目線を天井に映す。

 別に、すごく考えないといけないわけではない。そのまま、はじめるを選択している時は、はじめるを大きく、おわるをそのまま書くという処理と、おわるを選択している時に、はじめるをそのまま、おわるを大きく書くという二つの処理を書けばいいのだ。ただそれだと、例えば、設定という選択肢を増やすと、同じ処理を3つ書かないといけなくなる。さらに選択肢を増やすと、同じ処理をその都度増やすことになる。

 これはなんだか気持ちいいものではない。選択肢が増えても、同じ処理を書かなくていい方法はないか、考えてみた。

 ふと時計を見ると、下校時刻の数分前だった。

「まだ完成してないが、やってみるか?」

芝竹君は、余ってる椅子を引っ張ってきて、俺の後ろに座っていた。

 せっかく来たのに、ただ見ているだけというのはつまらないだろう。実際、芝竹君は眠たそうにしていた。

「おっ、いいのか」

立ち上がった芝竹君は、俺の横でしゃがんでパソコンに向かった。

 まだスタート画面の作成を開始していない段階のプロジェクトを開いて、実行する。最初は、飛行機とUIが描画されただけだが、芝竹君はかなりテンションを上げていた。敵を倒してスコアをどんどん稼ぎ、切りのいいところで、立ち上がった。まだゲームを終わらせる処理が書けていないので、画面には飛行機と敵が表示されたままだ。

「まじでゲームじゃねぇか、完成したらまたやらせてくれ」

すぐにだぞ、と言いながら、芝竹君は後ろの長机の方まで下がった。

「あぁ、またやってくれ」

人にやってもらうことを嬉しいと感じたことに、自分でも意外だと思った。少なくとも今は、自己満足で抑えておくつもりだったのだ。

 芝竹君は、スクールバッグを持つと、邪魔したなと帰っていった。

「すまんな、いきなり見学なんて」

いつも開けているドアが、今日は開いていない。芝竹君が閉じていったのだ。廊下の音が聞こえなくなったせいか、一瞬だけ、雨の音だけが流れた。

「いいよ、別に」

いつも通り静かな秋晴さんは、丁度パソコンを閉じているところだった。

「もしかしたら私の友達も来るかも、見学」

こちらをチラッと見てくる。もしかして、許可を求めているのだろうか。それならOK以外の返事は無い。

「わかった、いつでもいいぞ」

俺もパソコンを閉じて、自分のスクールバッグを取る。

 雨の日に、バッグを軽いと思ったのは、初めてかもしれない。

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