第2話 どうしてこんなに可愛い生き物が生まれたのかしら
里帰りという制度、風習、慣習……ともあれ生み出した人は素晴らしい。
あの夫との二人暮しの空間で、数分離れれば命の行方が分からない脆い新生児を育てるなんて想像もできない。
毎食野菜とタンパク質を熟考してくれる母と明け方から抱っこを交代してくれる父に深く感謝をして、部屋中の服やシーツを洗濯する日々。
洗濯機は偉大だ。
スイッチを押して数十分は自由時間。
洗い物は難しい。
息子の泣き声の度に手を止めれば何分かかるか分からない。
「ママそばにいるからね」
胸いっぱいの愛をこめて息子の頭を撫でる。
生まれて数日で艶やかに伸びた睫毛。
黄色い点々が可愛らしいお鼻。
しわしわでぷにぷにのおてて。
ふやけてひび割れやすい唇。
いつまでも伸びないはげちゃびん。
呼吸で静かに上下するホヤホヤお腹。
重力に逆らわないもちもちほっぺ。
きゅうん、とか細い寝言。
ふにゃふにゃな泣き声。
「たまらんなあ……」
一日に三十回は呟いたかもしれない。
すべてがたまらなく愛しい。
弱々しく、守らねばと思わせる一挙一動。
名前を何度も呼べば、偶然の反応が返事しているように見えるミラクルの嬉しさ。
何かを探すように泳ぐ手足を撫でれば、安心したように微笑む口元。
「なんでこんなに可愛いの」
「自分の子は特別よね」
私の独り言に母が答えた。
特別。
そうだ、子供好きの方ではなかった。
子供からは好かれるし笑顔は振りまけるけれど、こころから可愛いと悶えることは無かった。
それが我がお腹から生まれた我が子はどうだ。
毎秒可愛い。
悶えすぎて頬が痛い。
にへにへする微笑につられて接客業してた時よりも笑顔が増えた。
毎日何十、何百と増えてく画像はどんなにブレてても捨てるのが躊躇われた。
寝顔を見ていると、私からとは思えない美形に拝む気持ちだった。
深夜に泣き続ける息子を抱っこして部屋をぐるぐると円を描いて歩き回る。
腰が限界を叫んでバランスボールに座れば、手術跡が針を刺すように痛む。
そんなことは瑣末だった。
息子が生きている。
無事に今日も生きのびた。
たくさんの事故例や病気の記事を読んでさらに寝れない夜を過ごす。
今日も呼吸を続けてる。
なんて偉いの。
今日もたくさん乳を吸った。
なんて天才なの。
今日もほやほや笑ってくれて。
なんて優しいの。
全てを褒めたたえたくて仕方ない。
全世界に叫びたい。
知らしめたい。
うちの息子は天使です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます