《11》

 常春とこはるが『龍霄門りゅうしょうもん』の一員として参加する初めての稽古は、拝師式の日から明後日に始まる予定だ。酒をかっくらった反動で頭を痛めている門人のために、休息日として一日空けたのである。


 拝師式はいししきの翌日である五月二十一日。まだ休校期間は三日残っているため、常春は完全に暇をしていた。


 なので常春は、「お茶茶茶」の主人公やぶきたのキャラソンをBGMにしながら、趣味である針仕事に打ち込んでいた。


 ちくちくちくちくちくちくちくちく……賢明に針と糸を通しているその布は、昨日受け取った『河北派かほくは』の制服であった。


 真っ黒な布地に、さまざまな色の糸が通っていく。その一本一本は確かな規則性をもって布地に走っていき、やがて「絵」となっていく。


 一歩も家から出ることなく、朝から夜中までかけてその作業は続いた。


 ようやく「作品」が完成した達成感で気持ちよく就寝し、ぐっすり眠って五月二十二日……最初の稽古日を迎えた。


 稽古は、麗慧れいけいの本業『万年青おもとどう』の営業終了時間である午後五時を過ぎてから始まる。けれどその前からすでに門人たちは稽古場所である地下広間へと集まっており、師が来るまでの間、各々で自習を行っていた。


 常春もそういう事情を事前に聞いていたので、午後五時よりいささか早い四時半に到着し、『万年青堂』裏側の玄関の呼び鈴を鳴らしていた。鳴らしたら、この家の住人の一人である随静ずいせいが出迎えてくれる手筈となっている。


「——常春、その服は一体?」


 玄関のドアから、淡々とした銀鈴の声でそんな問いが聞こえてきた。ドアスコープ越しに見える「作品」に、驚きやら訝しみやらを抱いているのだろう。


 しかし常春は気にせず、誇らしげに胸を張ってその「作品」を見せた。


「この河北派の制服って、改造してもオーケーなんだよね。どう、これ? 昨日一日かけて作ったんだよ!」


 その「作品」とは——河北派制服だった。


 長袖の唐装とうそうに長ズボン、上下ともに黒、という大まかな服のデフォルトは変わっていない。裾の長さも変えていない。しかし服前面の左半分には、日常系アニメ「お茶茶茶」の主人公やぶきたを描いた精巧な刺繍がカラフルに施されていた。


 痛車、痛バイクならぬ「痛唐装」。


 がちゃり、とドアが開く。同じく河北派制服を身にまとった随静が、常春の服の美少女刺繍を興味深げに指でなぞる。


「……すごい。とても細かく出来ている。これを、あなたが?」

「ふふふ、まぁね」


 得意げに笑いつつ、常春は玄関の中へと入っていく。


 生活空間では裸足または靴下だが、地下の広間ではそこへ入って稽古をするための靴が必要だ。常春は拝師式でもらった布靴ブーシェをすでに広間前の下駄箱に置いてあるため、それを履いて広間へと入った。


 案の定、自習に精を出していた兄弟弟子達はざわめき立った。


「すげー! これどうしたんだよ!?」

「えっと、昨日一日かけて縫いました」

「まじか!? このキャラってさ! このキャラって……ええっと……」

「お茶茶茶のやぶきたタンです。今度どうか視聴してみてください」

「これ、売ったら稼げるんじゃありません!?」

「いや、こういうのは著作権の都合上売るわけには……」

「ねぇ、今度あたしにも何か作ってよ! お代は払うから!」

「えっと、そのうちに」

「俺も俺も! 滄州そうしゅうの鉄獅子の刺繍を背中に入れてくれよ!」

「て、てつじし?」


 兄弟子姉弟子たちの怒涛の質問や要望に、常春は気圧されながらも一つ一つ答えていく。ときどき布教も挟みつつ。


「うわっ? なにか服に宿ってるぞ、常春」


 広間に訪れた麗慧の驚き声が、稽古開始の合図であった。








「次! 『雲閉日月うんへいじつげつ』!」


 麗慧の号令に合わせ、整然と並んだ門人達が技を行う。


「『發雲見日はつうんけんじつ』!」


 門人達が技を行う。


「『順風擺柳じゅんぷうはいりゅう』!」


 門人達が技を行う。


「『推窓望月すいそうぼうげつ』!」


 門人達が技を行う。


 その後も、師の号令とともに、技をいくつも繋いでいく門人達。


「はぇー……」


 そんな兄弟子姉弟子の質実剛健たる練武を、常春は麗慧の隣でぼんやりと眺めていた。


 常春は武功こそ身につけているものの、その記憶は断片的で中途半端だ。なので、武芸らしい攻防理論や技術の貴賤など、そういったものは一切わからない。ただ「スゴイ」としか言えない。


 でも「スゴイ」のだ。


 ある時は穏やかで流麗。ある時は速やかで凄烈。そんな緩急のリズムがいくつも連なっていくその技は、まるで風によって優しくも激しくもなる雲の流れのようであった。


 『気』の操作から生まれる『内勁ないけい』という名の風が、五体という名の雲を動かしている。時に流れ、時に渦巻き、時に針のように鋭く掌を発する。


 そう、「掌」だ。


 今行っている『套路かた』は武器を使わぬ拳法であるが、「拳」はほとんど使っておらず、「掌」が主体だ。「掌」が虚空を流れ、「掌」が虚空を穿つ。そのためか、どれだけ激しい技であっても武張った印象は薄く、どこか中性的で、どこか舞踊的だった。


 そんな感じで素人的感想を抱いているうちに、その套路かた——『春風纏葩しゅんぷうてんは』の終わり収式が訪れた。


辛苦了おつかれさん。それじゃ、休憩にしようか」

 

 麗慧がそう告げたとたん、場の空気が弛緩した。整列していた門弟達があちこちにバラけて、各々のハンドタオルで汗を拭ったり、水分補給をしたりし始めた。


 手持ち無沙汰となった常春は、空調設備の回る音をぼんやり聴いていた。


「どうだったかね? 我が門の武功は」


 涼しい香りとともに近寄ってきた麗慧は、そう問うてきた。


「すごかった、としか言えないです。それと、僕が本当にこれを習得できるのかなぁ、とも」

「『雷帝らいてい』の武功を受け継いだ者の答えとは思えないなぁ」


 麗慧は苦笑し、教本をそらんずるように言った。


「『龍霄門』の武功の最たる特徴は「攻防一体」「剛柔兼備」。門派名にある「龍霄」とは、「龍のような雲」を意味する。雲は、浮舟のごとく穏やかに漂うこともあれば、重厚に渦巻いて暴風雨と稲妻をもたらす天災になることもある。雲は柔らかくもなり、硬くもなる。そんな雲の特徴を取り入れたのが、この『龍霄門』の武功だよ。——あと君、もしかするとこう思ったんじゃないかな。なんか中性的で踊りみたいな拳法だな、って」

「っ」


 図星を突かれ、常春は静電気を感じた猫のごとくピンッと直立した。


 麗慧は意味深に笑ってから、解説を続けた。


「中性的に見えるとすれば、それは創始者の性質を表わしているからだよ。『龍霄門』の創始者は、清朝末期の宦官かんがんなんだ」

「宦官って何ですか?」

「チンコを切り落とされた役人のことさ」


 美女の瑞々しい唇からさらりと出てきたセンシティブワードに、門人達が一斉にざわついた。しかし当の本人は自分の発言に疑問を持つ様子も無く、語り口を続ける。


「男だが、男として大切な証を失っている。つまり中性。だから『龍霄門』は中性的な動きの武功となったんだ。君の『天鼓拳てんこけん』の凄まじさも、使い手である黎舒聞れいじょぶん本人の激しい気質ゆえにそうなったのかもしれないね」

「え、ああ、はい……ソデスネ」


 センシティブワードの余波が残る常春は、しおれた態度でそう頷いた。


「話を戻そうか。君が『龍霄門』の武功を習得できるかできないかについてだが……出来るし、と言っておこう」


 再び自分の問題を話に出され、常春は瞬時にシャキッと気を引き締めた。新たな師の発言に耳を傾ける。


「君はすでに『天鼓拳』という武功を体得している。確かに『龍霄門』とは趣も破壊力も大きく異なるが、それでも同じ武功だ。「『気』を操り、肉体を操り、『内勁』を練る」という中華武功の骨子は、どの門派でも変わらない。むしろ武功を身につけていると、その他の武功の習得速度が格段に速くなるのが普通だ。いくら記憶喪失と言っても、君はちゃんと武功の技を使っている。例外ではないはずだ」


 麗慧は「それと」と区切り、


「はっきり言わせてもらうが——

「……やっぱり、そう思いますか」


 いつか言われると思っていたことを、ようやく言ってもらえた。常春は意外には思わず、むしろすっきりした。


 自分はまだ他の武功を全然見ていないが、それでも分かる。


 『天鼓拳』の威力は群を抜いて強い。強すぎる。


 グラウンドと公道を隔てていた大きく分厚いコンクリートブロック壁を、常春の拳が粉々にしたのだ。まるで爆弾のような威力。こんなもの、普通の人間はもちろんのこと、武功使いにもおいそれと当てられない。下手をすると殺してしまう。いや、一人殺した。


 打って死ぬのが、狙った敵だけならば良い。しかし、今の自分は突然降って湧いた『天鼓拳』を扱いかねている。手綱を上手に握れない技は、敵だけでなく、誤って味方も傷つけてしまいかねない。


 言うなれば今の常春は、ダイナマイトを握った赤ちゃんと同じだった。


 麗慧が聞かせてくれた説明も、そんな常春の考えと全く同じだった。


「というわけで、私は考えた。まず君に必要なのは、「殺敵」の技ではなく「護身」の技であると。殺す必要の無い者、殺してはいけない者、勝ち目の無い者などと戦うことになってしまった場合、その者の攻撃を防ぎ、あしらい、逃げるための「護身」の技が、今の君には最も求められていると。そして、『龍霄門』の武功ほど、そのような目的に最適な技は無いと言える」


 それ武当派ぶとうはあたりが聞いたら怒りますよー、という兄弟子の一人の茶々が入る。


 けれど常春は、麗慧の言葉が誇張ではないことを実体験として知っていた。


 随静と二度目の遭遇をした時、彼女は逃げようとする自分を武功であっさりと捕まえてみせた。本当に「あっさり」と。全然痛くない技で、しかし手早く確実に常春を無力化したのだ。もしも随静の使う武功がもっと破壊的なものだったなら、手酷く痛めつけられて捕まっていたことだろう。


 少なくとも『龍霄門』の武功ならば、破壊する以外の戦い方だってできる。今の自分に一番足りない要素であるといえよう。


「覚える気になれたかな?」


 そう問う我が師に、常春はこくりと頷いた。


「ようし。じゃあまず、『龍霄門』の戦い方というものを、大まかに知ってもらおうかな」


 言うと、麗慧はパンパンと手を二度叩き、皆の注目を集めた。


「はい休憩終了ー。現在時刻は六時ジャスト。稽古時間は残り一時間だが……今日はせっかく新入り君が来たわけだし、ちょっと趣向を凝らした稽古をしてみようと思う。——随静!」

「ここに」


 門人達の中から、小さな影がひょっこりと出てきて、師へと歩み寄る。白髪ラビットツインテールが目印、見た目幼女実年齢二十歳で今や常春の義姉である藩随静はんずいせい


 河北派制服の上着を脱いで白いTシャツ一枚となっており、そこから伸びる両腕と首は折れそうなくらい繊細で、胸囲と腰回りも薄く細い。瑞々しい白皙はくせきの素肌があらわになった分、今の彼女は普段以上にフラジャイルに見えた。


 麗慧は愛弟子であり義理の娘である少女の肩をポンと叩き、悪ガキじみた笑みを浮かべて告げた。


「今から一時間以内に、この随静を捕まえてみたまえ。『絶招ぜっしょう』や武器、または相手を殺傷できる技法を使わなければ、手段は問わない。とにかく必死で、この可愛い白ウサギちゃんの捕獲に精を出したまえ。もし誰か一人でも捕まえるのに成功したら、美人で太っ腹な私がまた全員にメシを奢ってやろうじゃないか」


 うおおおお! と湧き立つ門人達。


 ええええ!? と驚愕する常春。


 麗慧へ視線を向ける随静。相変わらず無表情だが、ちょっぴり不満げな感情がなんとなく読み取れた。


「師父。軽々しくそのような賭けをするべきではない。散財は良くない」

「安心したまえ。余裕がなければこんなことは言わないよ。それに——?」

「……不可能ではない、とだけ言っておく。彼らの名誉のために」


 ため息をついたような雰囲気を一瞬出すと、随静はこの広間の中央へと歩み、立ち止まる。やはり足音が全然しない。


 麗慧は取り出したスマートフォンのアラームを一時間後にセットし、


「それじゃあ——開始!」


 そう発した。


 瞬間、随静の一番近くにいた青年の門人が、一気に距離を潰した。半秒と経たぬ間に、すでに腕の届く範囲にまで白髪の少女へ近づいていた。


 だが、随静の姿が突然消える。——いや違う。腰を沈めてその青年の懐へ潜り込み、それと同時に彼の腕を取り、一本背負いの要領で投げた。しかし腕力や体重移動にモノを言わせて強引に投げたような感じは一切しない。まるで青年を取り巻く重力の流れそのものが操られたかのような、滑らかな投げであった。


 トンボを切りながら虚空を舞い、その放物線の先にいる中年男性の門人にかぶさるように落下した。


 しかし攻撃はまだ始まったばかり。その他の門人も積極的に捕獲に乗り出してくる。随静はそんな彼らの間をまるで踊るように回転しながら縫っていき、さらに行く先で待ち構えていた若い女性門人の目元をツインテールで撫でた。痛くは無いだろうが目元を叩かれて怯んだ女性門人の後ろへ素早く回り込み、その背中を掌で軽く打った。女性門人は軽々と前へ流され、塊となったその他の門人の元へと突っ込みドミノのごとく共倒れした。


 次にやってきた門人達は、とうとう捕獲ではなく、攻撃をしかけてきた。無論、それらに含まれている『内勁』は優しいものではあったが、随静の小さく軽い身体が吹っ飛ばされるくらいの威力はある。一度でも当たれば飛ばされる勢いでタイムロスとなり、そこを捕まえられる可能性が高くなるだろう。


 しかし、矢継ぎ早に殺到する掌の数々を、随静は巧みな手捌きと体捌きで次々と防ぎ、回避していく。どれも決定打には至らない。


 さらにそうやって攻防を繰り返している随静の隙を突かんとばかりに、彼女へ背後から襲いかかる者が一人。けれども、随静は背中を向けたまま素早く退歩し、後ろから迫ってきていた門人の胴体へ背中で衝突した。小さな少女の体当たりで、その頭一つ分以上の背丈を誇る急襲者の身体が綿毛同然に吹っ飛んだ。


 その後も、門人達はありとあらゆる手段を技を講じて随静を捕えんとしてくるが、そのことごとくが失敗に終わっていく。


 気がつくと、すでに三十分が経過していた。


「…………うそぉ」


 麗慧とともに端っこで観戦している常春は唖然としていた。


 開いた口が塞がらないとはこのことだ。


 彼女の技の巧みさ、スタミナの長さもそうだが、それ以上に驚異的なのは「立ち回り」の巧さだ。


 ただ目の前で起きた事に対処しているだけではない。次に何が起こるのか、どういう攻め方をしてくるのかを「あらかじめ知っている」としか思えないほどの、八百長じみた攻防。


「予知能力……?」常春は思わずそう呟いていた。


「超能力などではないよ」


 またしても心の中を読んだような麗慧の指摘に、常春はまたもビクッとした。


「あれは——『しき』の能力だよ」

「『識』? 武功の一種ですか?」

「というよりも「武功の副産物」かな。けど、オマケのようなものではないよ。ある意味、武功よりも重要な能力といえるかもしれないね」


 なおもよどみなく続く随静の無双っぷりを当然の事のように眺めながら、麗慧は説明した。


「まず、『気』というものについて説明しようかな。『気』というのは、何も神秘的パワーとかではない。誰にとってもありふれたものだ。人や物を大地に繋ぎ止めている重力、頬を撫でる風、川や水路を流れる水、木々を繁らせ育む大地の栄養、地表を照らす太陽の光、地球の自転や公転……そういった、を、古代中国では『気』と総称した。そして、人を含む生物全ての体内にも『気』というエネルギーは存在する。体内の全ての生命活動を統括し、調和させる大本となっているエネルギーもまた『気』だ」

「それを聞くと……人間の体も、世界と同じような仕組みに思えてきますね」

「良いトコを突いてくるな。——その通り。『気』という観点を用いて見れば、人体というのは言わば「」。外界という「」の縮図なのさ。つまりだね常春、武功の修行を通じて、人体内部という「ミクロの世界」を動かし感知する能力が向上すれば、外界という「マクロの世界」を認識する能力が向上する……そういうことになるとは思わないかい? ——そして、その「マクロの世界外界を認識する能力」こそが『識』というわけさ」 

「うーん……イマイチ分かるようで、よく分からないような……」

「もっとざっくり簡単に答えると「」と言えばいいのかな。我々は世界でただ突っ立って呼吸しているだけでも、外界からのあらゆる情報が知覚神経に入ってくる。酸素濃度、気温、天候、太陽の角度、風の向き、周囲の音……そういった情報は単体だけで見るなら取るに足りないゴミのような情報だが、。たとえば、テレビへ目を向けていなくても、そのテレビの解説や音声だけ聞いていればどんな番組をやっているのかが大体予想がつくだろう? それと同じさ。『識』とは、そんな認識能力を高度に発展させた能力だ。外界から知覚神経に伝わってくるいくつもの「ゴミ情報」を脳が自動で繋ぎ合わせ、組み立て、計算し、補整を加え、周囲の「現実」を定義する。——随静は武功で高めた『識』の能力によって、目を使わずに周囲の状況を算出し、これから一瞬先でどう動くかの未来予測も行い、それを元に立ち回っている」


 それはほとんど予知能力なのでは……常春はその言葉を飲み込んだ。この期に及んでエスパー扱いすることは、随静の努力を否定することになると思ったからだ。


 さらに十五分が経過する。しかし随静は今なお捕まっていない。体力にもまだ余裕がある。残り十五分。


「あの子は……随静は、身贔屓みびいきを抜きにしても、『龍霄門』始まって以来の天才だ。たった五年の修行で門人の誰よりも強くなり、将来的には師である私すら追い越すだろう」


 残り十分。なお捕まらず。


「五年前は……あの子と今のように打ち解けられるなど、とても思えなかった。あの子は私や同門だけでなく、世界そのものを憎悪していた。自分の愛する人間を奪った世界へ向けて、拒絶と瞋恚しんいを常に発散していた。髪が真っ白になるくらいね。そんなあの子が、ああも冷静に世界と向き合い、己の未来を歩めるようになったのだ。こんなに嬉しいことは無いよ」


 残り五分。なお捕まらず。


「だから……私は守りたい。あの子と、あの子が愛してくれているこの『日常』を。いや……絶対に守る。たとえ、他の何もかもを失い、捨て去ることになったとしても……この『日常』だけは、どんな手を使ってでも——」


 残り時間ゼロ。アラームが鳴った。


 足音などで騒がしかった広間の空気が、へたりこむように静まった。いや、随静を除いて、門人全員が尻餅をついてへたっていた。


「師父。わたしの勝ち」


 その中心に立つ白髪の美少女は、ほとんど息切れも発汗もせず、やはりいつもの無表情を保っていた。




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 今のところ、主要キャラの中で日本人は常春くんだけですが、龍霄門の門人の中には日本人も結構います。中国人も在日二世三世だらけなので、日本語も問題なく話せるし、日本的なノリも通用します。

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