dIffereNCe

雪城

ちがい。

私の親だって、そのまた親だって、「仮想世界に飲み込まれないように」って言う。

仮想、世界って何なんだろう。


中学2年生まで、外に行くのは習い事と学校のみで、みんな小学生から持ってるスマートフォンなんて、もちろん、もたせてもらえず、私は友達と遊ぶことはもちろん、家でもインターネットを使うことすらできなかった。そんな私が、アニメ、ゲーム、そんな世界を知る由もなく、友達との会話も、一部の子にしかついていけなかった。別に家は好きじゃないし、帰りたいと思ったことなんて一度もないけど、帰るしかなかった。そんな私に、中2の冬、ライトノベルへの扉を開いてくれた同級生がいた。とあくん。家も、名字も知らない。ライトノベルは、たまにやることがなくて読んでた家にあった、文庫小説とは違って、なんていうか、その、ちょっと、知らない世界だった。とあくんの本は、ブックカバーがしてあって、家で読んでても、何も言われなかったから、どんどん夢中になって読んで、気づいたら、朝ってこともあった。視力も、一年で0.5以上落ちた。続きが気になって、布団の中で昔のガールスカウトで使ってた、ヘッドライトを持ち込んで、ずーーっと読んでた。1日3冊ずつ借りて、学校で返す。とあくんはいっぱい本を持っていて、どれもが新鮮で、凄かった。たまにちょっと、男の子ってこういうのが好きなの?!っていうのがあったりしたけど、それもまた、初めて読むから、もうどきどきしちゃって。とあくんはそれから地元の学校に、私は5駅先の憧れの学校に入って、もう、あれから会ってない。でも、とあくんは間違いなく、私の人生を変えてくれた1人だと思う。背が高くて、めっちゃ細くて、恥ずかしいページについて感想を求めてきては、へんたーい、とか言ってきたよ!もう!

でも、私はどういう意味かはさておいて、とあくんが好きだった。友好的な方かな。うーんわかんないけど…。


高校生になって、友達の勧めでスマホゲームを始めてみた!キャラクターがめちゃくちゃ可愛いの!訳あって、カッコいい!ってみんなが言う人には惹かれることなく、女の子ばっかコレクションしてて笑われたけど、でも、この画面の中の女の子たちは、匂いもしないし、こんなに近くにいるのに、みんな、触れない。でも、それだけ。みんな笑うし、声も聞ける。動く。出来ないことより、出来ることの方が、多い。それは私たちも同じで、例えば、ポーカーフェイスが出来ない子。お料理が出来ない子。勉強が苦手な子。…全部私に当てはまるんだけど。でもさ、やっぱり、私は、今画面に映る、金髪の、告白の勇気が出ないんです、って言ってる女の子たちの世界だって、世界じゃないのかなって思う。私の親や、そのまた親の世代は、こんなに簡単にこう言う世界にアクセス出来なかったから、たかが仮想世界って思うのも当然なのかもしれない。でも一度先入観を捨てて、入ってみたら、あの日、とあくんが見せてくれた世界みたいなーー


って思ったこともあって、あまり勉強や指示されたこと以外のことを話すとまた外出に許可証が必要になっちゃうから、それとなくしか話したことはないけど、いつも返ってくるのは同じ。「現実世界での成功以外に価値はない、仮想世界に飲み込まれないように。あんなので儲けるのは凄いと思うよ、しかも社会で上手くいってない人間どもがあんなにもホイホイついていくなんてね。よっぽど生きることに価値が見出せないんだろ。」って。一回だけ、じゃあその仮想世界と、ここの世界の差異は何かな、って聞いてみたことがあるんだけど、学会だから、ってはぐらかされちゃって。


一回、高校の時に初めてお付き合いさせてもらった男の子にも話したことがあるんだけど、親の答えをカンニングして、ちょっと語尾を変えて満点もらおうとする生徒みたいな回答だった。彼は頭も良くて、プライドを持っている人で、私のことも、好き、と言うよりは思い通りにするための道具に近い感じだったんだと思う。だから、私は、そうかもね、とだけ言って、帰りに彼が好きだと言った伸ばしてた髪を、ショートまで切った。そこから彼は、俺のことが嫌いなんだ、でも絶対に別れてなんてやらない、とか言って、何度も何度もいろんなところによびだされて、わたしは、わたしのじかんとおかねが、へった。

8回目に別れを切り出した時、彼はあっさりOKしてくれた。使い捨てられたカイロみたいだなって自分でも笑っちゃった。私を、見て欲しかったな。


私は中学2年生まで、7時30分にご飯を食べて、学校に行って、陸部に行って、帰ってきたら音楽教室に行って、家事をやって、お弁当を作って、寝る。そういう感じだったから、外とは切り離されていた。外の世界に、みんなの住む世界に行ってみたかった。画面の向こうの、私が触れない女の子たちは、中の女の子同士では触れているわけだし、私たちのいる世界と、何が違うんだろう。


高校2年生の夏、ゲームのアプリは、アンインストールってのが出来ることを知った。

同時に、復元もできるんだって。でも、復元のパスワードを忘れると、消えちゃうの。そんで、最初からやり直すこともできるって言われた。私は、所詮仮想世界って一部の人に言われる理由が、少し見えた気がした。全ては、消えちゃう、やり直せる、ってことにあるのか。そこが大きな違い。そう思った。

でも、人間も寝てる間とか、何かに集中してる間は、みんなのことを思い出す訳じゃないし、人生いつでもやり直せます!っていう、看板よく見るし?ニュースを見たら、自殺をする人も居るそうなんだよね。…何が違うのかな。また路頭に迷った。


いくつも考えてみた。これだけ共通点がある中で、どうして、親とかにとっては、蔑む存在になってるんだろう。私自身もゲームを進めていって、普通に触れられない子が、ありがとう!って言ってくれても、クラスの、それこそ男の子だから、そうそう触れられないって意味で、触れられない子が、ありがとう!って言ってくれても、どっちも嬉しいし、ちょっと誇らしい、ってことに気づいた。


親たちが言ってた、社会でうまくやれない、ってことが私にも起きてるなら、彼らの答えは、正しく…なっちゃうのかな?確かにクラスの子とはそれなりにみんな喋れるけど、学年の子は、部活の子以外は、総じて仲がいいとは言えない。それともうまくやるって勉強のことかな、なら、、ダメかな…泣。とあくんなら、こんなこと考えずに、本とか勧めてくれそう。テキトーにいけばいーじゃん、って。クソ真面目なくせに変態なお前には、これがお似合いだ!とか言って胸まで触るし。あげく、お前、男より胸なくね?とかいうし。そのせいでそん時はちゃんと彼の意見を聞けなかった。もう高校を卒業するこの季節に、彼に会う術は、ないけど、彼は茶化しつつも、聞いてくれると思う。いや、体育着に墨汁つけた罪を盛り返せば絶対、聞いてくれるわ。なんて言うかな。なんて、顔するかな。

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