第十二話(2/3):逃走劇
走る、走る、走る。
自身の慣性を巧みに操り、スルスルと速度を維持しつつも人の波を縫うように、
「頑張れー」
「後ろから追って来てるぞー」
あるいは強引にパルクールよろしく、壁を蹴り三角飛びの要領でアクロバティックな動きも織り交ぜ、
「おおっ、凄い動きだ。サーカスとか雑技団とか……そんな感じの人?」
「何で終われてるんだろう。もしかしてあれかなちょっと昔に流行ってたテレビの鬼ごっこみたいな……」
「ああ、テレビの――」
ただ、只管に尊は逃げる。
「(まだ追って来てる!?)」
『(回答。星弓飛鳥はとても元気にこちらを追跡中。参りました。ちょっと振り切れません)』
後ろから迫ってくるゲーミングカラーに輝く少女、星弓飛鳥から全力で逃げ回っていた。
「(あの
『(分析。どうにも星弓飛鳥曰く、異能者を専門に対応する部署であるとのことなのでその性質を鑑みれば……)』
「(本気にさせちゃったってことか……。うぐぐっ、クソっ失敗したか)」
何とか異能を使わずに逃れるべきだったかと尊は後悔するのも後の祭りだ。
――どのみち、異能なしで相手出来るほどの相手じゃなかったし……よし、切り替えよう。
そう割り切ってとにかく足を動かすことに全力を傾ける。
何せ怖い鬼が迫って来てるのだ。
「待てぇええ!」
『(推奨。防御)』
後方からの声。
それと共に一条の
尊はそれを防護膜で弾き飛ばしながら叫ぶ。
「こんなに大勢人が居るところでポンポン撃つんじゃない! というかなんだこの
「ちゃんと狙って撃ってるし! ヒーローに
「ピカピカ発光させるなよ! せめて一色にしろ、目が痛くなる! 馬鹿みたいに色を変化させるな。
「だ、誰が馬鹿みたいだって……ぇ!!」
星弓の身体を覆う光が七色に輝いた。
おおっ、と周囲に驚く声が響いた。
「今、そこでアホっぽくレインボーに輝いてるやつ。どれだけ目立ちたがりなんだ……」
「そういう力なんだから仕方ないでしょ! 大体僕だって普段はカラーリングは抑えて――」
「……あっ、やっぱレインボーカラーのヒーローはねーよなって思ってはいるんだな」
「……ぶっ潰す」
怒りを表すかのように猛り輝く光のオーラ。
尊はそれ察知すると全力で逃げ出した。
当然のように追ってくる星弓。
「頑張れー、お兄ちゃーん!」
「負けるなよー!」
「追い込めー!」
そんな光景に無責任に声援を飛ばすイベント客たち。
「(どうしてこうなっただろうか……)」
声援に応えるように手を振りながら考える。
『(回答。わりと茶々を入れるユーザーの言動も星弓飛鳥に捕捉されている要因であると分析)』
暗に非難してくるシリウスに対し、「だって腹の虫がおさまらなかったんだもん」と小声で呟き受け流し、尊は現状の打破を考える。
「(
『(回答。元々のプランはあくまでも相手の状況と立場を鑑みて自重することを前提にしていたもの。その前提を度外視にされては単純な身体能力では星弓飛鳥が上な以上、非常に困難であると結論。それから
「(えっ……あれ、怒ってる? ごめん)」
『(否定。美少女AIは怒らない)』
「(いや、何々しないみたいなことを言われても……)」
『(――ただ、ちょっと。他の危険物探しのためのドローンロボット操作に演算領域を今もなお割き続け、現在衆目を集めまくる
「(色んな事やらせてゴメンね!! ホント! ありがとう!)」
『(鷹揚。これが美少女管理サポートAIの務め……だが、感謝は受け取るとする。それはそれとして流石にこのまま加熱した情報処理を続けるのは……演算処理の外部補助として
咄嗟に身をかがめるとその頭上を閃光が貫いた。
それそれとシリウスとの話に戻る。
「(えっ、リアルな危機だ。俺の家が焼け消えるかの瀬戸際!? やべぇじゃん)」
『(詳細。それに加えて自覚はないようだが、
「(……俺の身体って結構ヤバい?)」
『(診断。明日の筋肉痛は確定)』
「(……マジかー、それなら大人しく家でゲームでもしようかな)」
『(歓喜。ヤッター)』
お前がやりたがってたやつをやるとは言ってないんだが、と言いかけつつ。
尊は方針を展開することにする。
――こうなったらなるようになれ、だ。振り切れないなら仕方ない……。
「(シリウス、見つかった危険物の場所全部送れ……っ! 片っ端から処理してやる)」
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