第八話(2/2):新都オリエンタルホテル
着いたのは奥まった場所にある倉庫のような部屋。
ホテル側の備品などが保管されているのだろうその一室の中に一体の多目的型給仕ドローンロボットがあった。
「こいつか……」
『回答。同型機ではありますがこの機体はホテル側には未登録の機体』
ドアの開閉音に反応したのかあちらこちらへとそのカメラアイを動かしているが、正面に立っている尊に気付いた様子はない。既に無線を通じてシリウスが干渉し認識できないように妨害しているからだ。
「となるとやはり」
『推奨。スキャンの実施』
「ああ」
どうにもホテル内で稼働中のドローンの機体数がホテル側の電子システムの設定より多い。
ネットワークを通じてハッキングしていたシリウスの一部がそれに気づいたのがついさっきの話。記録された個体登録番号から増えたその一体を見つけ出したのだが、
「……あった。内部に何かあるな。何か液体のようなものが」
『解析。設計データと比較して人為的な改造の跡を確認』
「まっ、ロクなもんじゃないわな」
電磁的なスキャニングをしながら情報を共有した尊はそう呟き、胸ポケットから簡単な工具を取り出した。
そしてシリウスの指示の通りに解体を開始する。
――十中八九、犯人の手によるものか……。思った以上に手を打つのが早い。ほとんどオートメーション化しているプラチナムエリア内、紛れ込ませてしまえば同型機が増えているなんて気づくのは難しい。
『報告。電子的なシステム面にも改造を施している痕跡を確認。エリア内でのドローン同士の相互確認を実行する際、ウィルスを流し込むことで信号を誤魔化す仕様のプログラムを搭載』
「それで機械同士の目も誤魔化していた……っと。相手はそっち系統の腕も相当なものがあるみたいだな。それにこんなものを直ぐに用意が出来る程度に伝手も広い」
昨今の殺し屋というのはハイテクを駆使するのだと感心した。
イメージで言えばもっと銃などを使って直接的に遂行する印象が創作物から尊にはあったのだが……。
――まあ、リスクを考えれば間接的に実行できるならそれに越したことはない、か。
考え事をしながらも手の動きは緩めずにおよそ十分ほどでドローンの外装を外すことに成功。
その内部には設計図には存在しない菱形の物体が取り付けられている。
「あった……。内部に液体が……二種類か?」
縁は金属で出来ているが面の部分は透明で内部が透けて見えた。識別しやすく色付けされているのか薄いピンク色と緑色の液体が内部で仕切られて左右にわかれている。
『推測。液体爆薬の一種。混合することによって爆発すると推定』
「マジかー、想定してなかったわけじゃないが。起爆したらどうなる? 例えばホテルのスイートルーム内ぐらいの広さなら……」
『回答。液量から計算すると爆発自体は小規模。壁や遮蔽物に隠れることに成功すれば危険性は低い』
「逆に言えば不意打ちなら十分に有効……と?」
『肯定。ドローン自体が金属の塊。内部から爆発すればその破片は十分な殺傷能力を有する。殺傷ないし怪我を負わせるには十分と推測』
「なるほど、危ないもんを送り込みやがって……。標的を見つけ出して動く知るための情報収集兼隙を見つけたらそのまま殺すための仕掛けってとこか? 確実な手段ではないけど最悪適当に近くで爆発させれば相手を追い立てるには使えるだろうし」
――こんなのを送り込んでいる以上、楠木マリアがこのホテルに泊まっているのは既にバレているってことか。……まあ、どうにも色々と思惑が動いているらしいしそこから流れている可能性を考えれば妥当な所だな。
「兎にも角にもこんな危険なものさっさと処分したいところだが……下手に弄って大丈夫なのかコレ?」
『回答。液体爆薬は二種が混合しなければ危険性無し。液体の入った金属容器は後付けされているだけで組み込まれているわけではないと解析。取り外すことは可能と判断』
「なんかコードみたいなので繋がってるようだけど」
『回答。スキャニング情報からドローン内部のバッテリーに接続してあるの確認。容器内部の二種の液体爆薬を混合させるための装置の起動の為と推測』
「なるほど、むしろ逆にコードは切っておいた方がいいのか」
シリウス曰く、金属容器は外部からの衝撃に強い構造となっており内部での二種の液体も完全に区切られている。
混合させるための装置は電子プログラムで制御され、決められた条件か遠隔的な信号によってのみ作動するようになってのみ起動するように設定されている。
そのため電力さえ切れば金属容器は比較的に安全とのことらしい。
「これで……良しっと」
格闘すること数分後、尊は液体爆薬の入った容器を取り外すことに成功した。
本来であればもっと緊張するものなのだろうが短い間に死にかけ過ぎたためか、あるいは最悪爆発しても防護膜を起動させれば死にはしないだろうという楽観のせいかあっさりと進んでしまった。
「さてと、これからどうするべきか。液体爆薬の容器の方は一先ず回収して後で処分するとして……ドローンの方はこのまま置いておいて見つかって騒ぎになるとそれはそれで面倒だな。それに……」
少し思案してシリウスへと問いかける。
「こいつって直接的に操作してるわけじゃないにしろ情報とかを送る都合上、犯人のとこと繋がってるんだよな? それを辿って居場所とか正体とか探ったりできたりするか?」
『演算。……可能か不可能かで言えば不可能ではないと回答。ただし、当然相手もそれは考慮に入れていると推定。複数のサーバーなどを経由している痕跡有り。時間も相応にかかり、辿っている最中に気付かれる可能性も高いと予測』
「ふむ……」
『選択。実行確認』
「……いや、やめておこう。警察関係にまで圧力を与えられるバックの影響力がどこまであるか予想が付かない。実行犯側の勢力もだ。仮に居場所を見つけ出したとして、そいつを確保しようと動けば楠木マリアから離れることになってしまう。遠隔で暗殺する手段を相手は用意する上に、どうにも楠木マリアの周りは信用できそうにないことを考えると――」
やはり五月五日までは離れず直接尊が守った方がベターだ。
そうなると相手を捕まえるという余裕は無いわけでするだけ無駄というもの。
とはいえ、
「何もしないのもアレだからな。適当に嫌がらせ目的のウィルスを送り込むことぐらいは可能か?」
『肯定。可能であるとユーザーに返答』
「なら、宣戦布告代わりに送りつけおいてくれ」
『了解』
「それからこのドローンの方は……運ぶのも面倒だな。外装だけ戻して後は地下の廃品回収置き場に自身で向かうようにプログラムを弄っておいてくれ。到着したその後は機能停止するように……利用されても困るしな」
『把握。実行のために必要な所要時間は――』
シリウスの言葉を聞き流しながら尊は気を引き締める。
――思った以上に手が早い……一先ずウィルスが送り込まれてくれば動きは鈍るとは思うが警戒は必須。出来るだけ近くで見張る必要があるな。そうすると色々予定を変更を……。あっ、それと悠那のヤツに連絡を取らないと。
そこまで考えてふと思いついたように。
「ああ、そうだ。どうせウィルスを送り込むなら――」
と、あることを尊はシリウスに指示することにした。
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