第八話(1/2):新都オリエンタルホテル
『解説。新都オリエンタルホテルは地上四十八階、地下三階の高級ホテル。客室だけでなく一流のレストラン、バーやワインセラー。高級スパや屋内プール、フィットネスセンター等の施設も充実。イベントや催しなどに対応できる会場施設。プライベートウエディングチャペル。それらをサポートする専門のプランナーも完備する等、専門誌でも最高評価を受けている超一流のラグジュアリーホテル』
「ほー、何ともまあ……」
縁の無い世界だなとしみじみに思う。
GWというのもあって宿泊客も家族連れが多いためか若者や子供の比重が大きく感じた。
そのためか学生である尊も目を引かれることはなく、混雑に紛れるように入り口から内部へと侵入することに成功。
変に目立たないように脳内でシリウスと会話を行いながら、自然な様子を装って辺りを見渡す。
偽造した右眼が起動させ、変装用のミラーサングラス越しに周囲の映像を記録する。
そして直ぐ様に分析。
――従業員の大まかな数と居場所はわかった。センサーを起動して対象を動きを
電子的な記録情報は怖くはない。
それはシリウスならばいくらでも改竄できるからだ。
故に気にするべきは人の目であり、人の記憶だ。
一応変装はしているしているとはいえ、目立たないに越したことはない。
ブラブラとエントランスホールでまるで待ち合わせでもしているかのような歩き、時間を潰しているフリをしながら慎重に従業員らの視線を掻い潜り、ホールの隅の方へと滑り込む。
従業員以外にも宿泊客も大勢いたが、そこにある従業員専用のセキュリティドアをシリウスがあっさりと開錠し尊が入っていく様子を見れば不思議に思うことは無かっただろう。
――えっと、この奥に確か……あったな。
尊が向かうのは従業員の控室だ。
既に内部の構造情報はハッキングによって回収済み。
そして従業員のシフト状況もだ。
シフト時間上、誰も居ないことは確認している控室に入り込むとロッカーを漁る。
「おっ、あったこれだこれだ」
超高級ホテルとしてなまじ従業員の環境なども金をかけて電子ロック式のロッカーだったのが運の尽き。
「いや、そうじゃなかったら物理的に壊してたかもだから……」
そう言った意味だと良かったのかもな、なんてことを考えながら尊は本日休んでいる田沼という人物の従業員服を拝借する。
必要性があるとはいえ、人の物を盗むのは罪悪感がある。
ちゃんと返すから……。
――いや、でもこの田沼って、この繁忙期に休み入れてるんだよな? しかもGWの最後まで……。いや、いつ休むかは当人の自由と言えば自由なんだろうけど……。たぶん、同僚には絶対に恨まれているだろうな……。……出来れば返すくらいでいいか。
まあ、それはそれとしてホテルマンの従業員服を入手できたのでこれで動きやすくなった。
流石にミラーサングラスは外すしかないが、制服は帽子もセットで目深く被れば問題はないだろう。
「これで良しっと。それで何階だっけ……?」
『回答。例の存在は三十八階を巡行中』
「三十八階……プラチナムエリアか」
この新都オリエンタルホテルにはある特徴があった。
基本的にとても割高ではあるもの料金さえ払ってくれるならばホテル側としては制限問わず宿泊を受け入れている。
ただし、それは三十七階まで。
三十八階以上のエリアは特別なお客向けに整備されたエリアが存在し、そこに一般客が入ることはできない。
それが不可侵の領域。通称プラチナムエリア。
『解説。所謂、VIP専用の特別仕様のシークレットエリア。詮索無用の宿泊客が泊るエリアで階層ごとに貸しきられ、人と人の接触を可能な限り排除。客室の掃除や整備、ルームサービスの配膳もドローンによって実行。ドローンは起動中に記録したデータを毎日休止状態になる度に初期化。宿泊客のプライベートを最大限尊重するサービス』
「人を徹底的に排し、データを消しやすいドローンロボットのみで対応させる……ね。随分とまあ……」
きっとロクでもない密会がこれまで行われてきたのだろうなと思うのは尊の邪推だろうか?
とはいえ、ここに楠木マリアが泊った判断はあまり間違った判断ではないなと分析する。
一般客が間違って入ってこないようにエレベーターは操作され、宿泊客が持つ認証キーがその階に行くには必要となる。非常階段でも繋がっているが非常時以外はロックがかかっており、さらに非常階段内には監視カメラもある。
――そしてプラチナムエリア内は可能な限り人を排しているから、従業員どころかプラチナムエリア内の別の階層の宿泊客とも、敢えてホテル側に伝えていなければ分けられまず出会うことはない……。それに宿泊客の対応は基本的にドローンロボットが行うとなると……。
ここまで人の出入りに接触が制限されている状況。
護衛する側としてはやりやすく、狙っている相手からすればやりづらいだろう。
何せこのエリアで見知らぬ人物を見かければ、とりあえず敵として認識して対応していいのだから気が楽だというもの。
とはいえ、
「それはあくまで人間だったら……の、話だけど。これで間違いないのか?」
『解析。間違いないとユーザーに返答』
エレベーターのシステムを容易に掌握し、三十八階に到着した尊とシリウス。
この階層に今は宿泊客が居ないのは熱源センサーで一帯を調べたので確認済みだ。
ならばと特にコソコソする必要もなく、豪奢で広々とした通路を手早く通り目的地へと向かった。
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