第七話(1/3):改変
楠木マリアの暗殺事件を防ぐこと。
それは別に善意とか正義感で行おうとしていることではない。
警察署の夜の一件のようにすぐ近くで死にそうになっていたら流石にやぶさかではないが、敢えて休日潰してまで関わって助けたいかと問われれば心情的にはノーだ。
いくら特別な力を使えるようになったとはいえ、そんなに四方八方の事柄に首を突っ込めるほどの余裕があるわけでも無い。
しかも事件が総理大臣の暗殺事件ともなれば尚更に気軽な気持ちで関われるものでもないだろう。
ではなぜ、こうして動いているのかと問われれば尊はこう答えるしかない。
――強いて言えば実験だ。
未来を改変する。
その目的に対して尊は常にある疑問があった。
果たして未来というのは変わるのか?
根本的過ぎる疑問。
無論、本当に大厄災なんてものが起これば全てが無茶苦茶になってしまう以上、やれるやれない以前の問題でやるしかないというのは尊として重々承知の上。
それでも一度、シリウスに問いかけたこともある。
回答はただ一言。
『不明』
ある意味、予想通りだった。
そもそも証明のしようもない事柄だ。シリウスとアルケオスという存在が時間を遡って過去に干渉し、未来を改変するという手段の初の試み……実例がない以上は答えようがない。誰にもわからない。
故に一つの実験が必要だ。
――シリウスの居た未来では五月五日に楠木マリアは暗殺され死亡した。その記録が残っているわけだ。ならばその日を超えて楠木マリアを生かすことが出来れば、未来の歴史に少なからず干渉出来た……と見てもいいはず。
未来の歴史において死んだはずの人間を生かす。
それは十分な未来改変のはずだ。
死んでいたはずの人間を生かすという意味では悠那もそうなのだが、彼女の予知は主観によるものが大きく客観的なデータとして確実に死んだという記録のある楠木マリアの方が適している。
言ってみれば尊とシリウスは今後の試金石も兼ねて今回の事件に関与しようと考えたのだ。
――だと言うのに……。
ジトっとした目で尊は隣に向けた。
「あー……? なんですか……?」
「何でもない。さっさと食べてしまえ」
「はーい」
呑気な悠那の返事に溜息をつきたくなった。
今はちょうど正午。昼食時になったため、ファストフード店の窓際に面した席に尊と悠那は隣り合って座っている。
エリアに合わせたのか家の近所にある同じ店に比べ、店内がシックな雰囲気に改装されているがバーガーとポテトの味は当然の如く変わらない。
「食べ終えたら未来同盟部作戦会議ですね! 楠木総理を暗殺者の手から助けてあげないと!」
「とりあえず、色々と名詞を口に出すな。物騒な話なんだから……」
「おっと、そうでしたそうでした」
関わろうとしている事件が事件だ。大丈夫だとは思うが警戒するに越したことはない。
――何のために軽い変装までしているのか、本当にわかってるのかコイツ? 暗殺事件を防ぐって方針を言ったらまたキラキラした目で見てくるし……。
一応、ちゃんと理由については説明したのだがどうにも伝わっていない気がするのは気のせいだろうか。
何かにかけて善い人判定をしようとしてくるのは何というかむずがゆいものがある。
「(なあ……やっぱり、悠那は関わらせない方が良かったんじゃ)」
『(返答。不測の事態を考慮すると協力者は多い方が対応を考えると好ましいと提言)』
「(それについては否定はしないが異能を除けばコイツはただの女子高生だぞ? 役に立つか?)」
『(反論。その異能が重要。未だに制御が覚束ないとはいえ、既に一度暗殺事件を防ぐきっかけとなった実績を評価)』
「(それはまあ……そうなんだろうけど)」
等々とシリウスと会話をしつつモソモソとふやけたポテトを処理していると、先に食べ終えた悠那が口を開いた。
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