第三話(2/2):吉凶
そう気持ちを切り替える。
弱気の虫を追い出すように声を上げ……そこでここが夜の公園。
しかも、警察署のすぐ近くであることを思い出し、慌てて声を潜めて周りを見渡した。
「……だ、誰も見てないよね?」
それほど大きな声を出したつもりではないが流石に時間が時間だ。夜の静寂な世界には思った以上に響いてしまった気がする。
不安になって恐る恐る悠那は公園の木の影に隠れるようにしながら警察署の方へと目を向けた。
「あれ……なんだろう、あの車」
そこであることに気付いた。
幸いにも声は届いていなかったのか怪しんで向かってくる者は居ないようだった。
そして、その代わりに目に飛び込んできたのは警察署の敷地内にある外車だ。夜の闇の中でも映えるような黒塗りの如何にも高級車といった風情。
「わっ、高そうな車」
車のことに詳しくない悠那でも雰囲気でわかる。
あれに乗っているのは所謂上流階級というやつなのだろう。
車の周囲では慌ただしく人が何やら行きかい、その中を建物から出てきた何者かが通り、そしてその後部座席に乗り込んでいったのが見えた。
顔や姿はハッキリとは見えなかった。
単純に遠目であること夜の暗さもあったが、それにどうにも辺りを警戒するようなピリピリとした雰囲気があったために迂闊に木の影から顔を出せなかったのが要因だ。
「こんな夜更けの警察署の裏手に如何にもな黒塗りの高級車……か」
そしてどこか周囲を警戒している雰囲気もあると来たものだ。
要点だけを掻い摘めば何やら事件の香りがする気がする。
邪推に近く、特に根拠もないがとても好奇心が擽られる出来事であるのは間違いない。
特別にゴシップが好きというわけではなく悠那も人並みには興味がないわけではない。
とはいえ、
「まあ、事件なんて今抱えている分だけで十分……」
非日常要素はこれ以上は不必要。
変なことに首を突っ込むほど暇ではないし、刺激を求めるほど余裕があるわけでも無い。
「そんなことより異能の練習をしないと。先輩が来るまでもう少し時間があるだろうしその間に……っと、動き出した」
そうあっさりと興味を失い、頭を切り替えようとした矢先。
いつの間にか黒塗りの高級車は警察署の敷地内から裏門の道路へと……つまり、悠那の居る公園の方へと向かって動き出していた。
「うわっ……っと」
ヘッドライトの光が光がこちらへと向き、悠那は咄嗟に木の影に身体の全身を隠しながらふと思った。
――……いや、慌てて隠れる必要はなかったかな?
完全に不審者の行動だ。
まあ、時間が時間で見咎められないことに越したことはない。
それに尊たちのこともあって後ろ暗い意識があったのだろう無意識の行動だった。
「まあ、いいか。とにかくもう一度――っ!?」
目の前を通り過ぎ、そして離れていく黒塗りの高級車を眺めながら悠那がそう気を取り直した瞬間、
公園の奥に戻ろうとした踵を返した瞬間、
世界はくるりと反転した。
何の予兆もなく、唐突に認識する世界が切り替わり……流れ込んできた。
――これは……っ!?
それは「紅き星」の予知。
悠那自身でもコントロール出来ない災いと不吉の未来の光景を識る力。
つい今しがた目の前を通り過ぎた車が――橋の上で爆発し炎上する姿。それが確かに悠那の中へと流れ込んできた。
ぞわりっと血の気が引いた。
事件の後、一度も発動しなかった力。
忘れていたわけではない、
忘れるはずも無い。
巫城悠那の人生はこれに振り回されていたのだから……。
それは必ず起きるはずの不幸な未来。
少なくとも悠那の独力で変えられたためしはない必然の情景。
変えられる可能性があるとしたら、――それは。
気づけば悠那は震える指先で端末を操作していた。
「せ、先輩! あの――っ!!」
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