第二話(2/2):天去市中央警察署
センサーを使って周囲の反応を確認しながら建物内を進んでいくと尊はあることに気付く。
「こんな時間でも人の動きが激しいな……。やっぱり一連の事件の影響で忙しいんだな」
視界内に表示された人を表す光点の動きを見ながらポツリとつぶやいた。
予想していた光景……というよりもそれを見越しての警察署への侵入の実行だった。
繁忙を極めている今の時期なら隙も多く容易いだろうと考えだ。
「放火の方と西ノ池公園の件に関しては完全に被害者だし、石油コンビナートでの一件についても大部分は被害者だから俺が気にする理由はないんだけど……」
情報隠蔽のために色々とシリウスにさせた結果が、福音事件と呼ばれる事件なので尊としても少しだけ申し訳なく思う気持ちもあるのだ。
とはいえ、こちらとしても命の危険に晒されながら火島という男を相手にして捕まえさせたのでそれでお互い様ということにして欲しい。
深夜まで働いている職員さんに尊は内心で謝った。
「それにしても福音事件なんて命名はどこから来たのかね」
『不明。ネットやSNSからの発生のようですが詳しい調査を実行しますか?』
「いや、いいよ。変なネーミングだと思っただけさ。まあ、電磁障害ということでシリウスが色々と荒らして何が起こっていたかなんてわからないようにしたんだから、よくわからんネーミングになってもおかしくはない……か。――大丈夫なんだろうな?」
『回答。当時、一定範囲内で稼働中だった電子機器には手当たり次第に不具合を誘発。ネットを介して故意に多様な風説を拡散。情報を氾濫に成功。ユーザーや巫城悠那の当日の行動に繋がる情報も既に削除実行済み。隠蔽は万全』
「そうか」
安心と同時にやはりもう一度しっかりと謝っておくべきだという気持ちが湧いた尊は改めて警察関係者への謝罪をすることにした。
――本当にごめんなさい。お仕事頑張ってください。
そんなことを考えながら警察署の中を進んで数分、尊は目的の場所に辿り着いた。
「ここが……」
『肯定。天去市中央警察署のメインサーバー室』
無数の機械が所狭しに並んでおり、空調はそのためかかなり低めに設定されているようでひんやりとしている。
ここは天去市で起きた全ての事件事故の警察が得た情報を保存する心臓部。当然、それに相応しいだけのセキュリティもあったはずなのだが……シリウスが全部あっさりと解除してしまったためにあまり実感はなかった。
「一番、セキュリティ的には厳しいはずなんだけどなぁ」
『回答。有ったが無意味。それよりもユーザーに要請。機密捜査情報の奪取を実行』
「はいはいっと」
尊は言われた通りに懐から機器とUSBのようなものを取り出してサーバーの一つに接続した。
シリウスの指示によって改造されたものでありデータをこちらにコピーして移し替えるのが今回の手順だ。
無論、データ内で区分けは行われているであろうし単に火島に関するものだけを抜き取るだけならそれほど手間もかからないが現状ではどこ情報がどこに繋がるかは未知数。その度に侵入をするのも手間でしかないのでリアルタイムでシリウスが解析し、関係が繋がりそうなデータは片っ端から掻っ攫うつもり予定なのだ。
「時間はどれくらいかかりそう?」
『予測。予定終了時間を四百八十秒と提示』
「八分ほどか……わりとかかるな」
『回答。セキュリティの回避。及び機密捜査情報の奪取自体の痕跡の抹消まで含めると妥当』
「まっ、下手に後で騒ぎになっても困るか……」
これ以上に仕事が増えるのは流石に哀れに過ぎる。
職員のためにも含めて全く気付かれずに終えたいものだ。
「完璧な仕事頼む」
『了解。ユーザー』
世界が静寂に戻った。
シリウスは完全に作業の方にリソースを振り分けたようだ。
サーバー室は薄暗く無数の機械が発する微かな明滅の光があるだけで他には面白みのある物はなさそうだ。
――当然と言えば当然か。
施設の中でも極めて重要度が高くセキュリティの観点から人の出入りが制限されている場所だ。それ故に一度入ってしまえば比較的に安全と考え尊は少し緊張を解いた。
――警戒はアルケオスのセンサーで十分……さて、どう暇を潰すか。
何もせずに待つにはやや長い八分の時間の空白。
手持ち無沙汰になった尊は興味本位でサーバー内の閲覧を実行した。
セキュリティ自体は一旦シリウスが停止させているために覗く分には問題はない。
火島に関するものは任せているので特に関係なさそうなものを事件の捜査資料を適当に流し見ては別の事件の捜査資料へ……という行為を繰り返した。
特に意味のある行動ではない。単に警察の事件資料をこうしてこっそりと読んでいる状況を尊は楽しんでいただけだった。
――世の中ってこれだけ事件が起きているんだな。
本当に暇つぶし以上の意味はなく、何となく歩ならば喜びそうだなと思いつつ適当にぼんやりと閲覧を続けていると……。
「ん?」
ふと何かに目を引き寄せられた。
それはおよそ八年前の資料でとある事件についてだ。
八年前ともなると尊も小学生の時期の頃だ。その時にどんな事件がニュースを騒がせていたなんてよくは覚えていない。
だから、何故この事件資料に強く惹き付けられたのか尊自身もよくわからなかった。
「事件の……概要、……での…………。資料の作成者名は――」
何かに急かされるように読み進めようとした時、
「……っ!? なんだ?!」
不意に信号をキャッチした。
咄嗟に何かの異常事態かとも慌てたがなんて事はない。それは外で待機している悠那からの連絡を示すものだった。
何もないとは思うが何かしらの緊急事態が起きた時に連絡するように指示していたものだ。
そのことを思い出し、それを忘れて本気で少しだけ慌ててしまったことを誤魔化すように尊は通信をオンにした。
――こっちの進行状況の確認か? あくまでトラブルが起きた時にでもって話だったのに。
などど思いつつ尊はそう注意をしようとした……その矢先、
「――せ、先輩っ!? あのっ!!」
「んー? どうした悠那? こっちの方は今のところ順調であと少しで終わるって所だ。それよりも悠那、そっちからの連絡はあくまで……」
「ば、爆発です!!」
「……はい?」
「今、警察署から出た車が――爆発しちゃうんです!!」
そんな悠那の言葉がこちらに飛び込んできた。
――……なるほど。それは確かに緊急事態だな。
尊の頭の中に最初に一先ず浮かんできたのはそんな納得だった。
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