エピローグ(2/3):未来同盟
「先輩ー! 下の売店でリンゴを買ってきました! リンゴ! リンゴですよ! 真っ赤でおいしそうなリンゴです! 一緒に食べましょう!」
ここが病室であることも忘れたかのように元気な声を上げながら巫城は現れた。その手には言葉通りの真っ赤なリンゴに紙皿と切り分けようの果物ナイフまで持っていた。
そのウキウキとした雰囲気からは尊と一緒に食べることを心待ちにしている様子が誰にでも見て取れるだろう。
「彼女との関係……とかかな?」
「……うるさい。あいつとは事故の関係で助けて懐かれただけ。それだけだ」
「えー、それはおかしくないかい? だとすると電話した時との整合性が取れないじゃないか。明らかに三日前の段階ですでに関係があったはず。ちょっと前までは顔も名前も知らなかったのにこの態度……二人の間に何が有ったかとても気になるなー?」
「ええい、うるさいうるさい。いいから帰れ! おい、巫城! こちらの方がお帰りだ! ドアを開けろ!」
「えっ、あっ、はい! あっ、先輩のご友人の……確か佐藤さんでしたっけ? すいません、気づかなくて……」
「気にしなくていいよ。まっ、今日のところはお邪魔虫はここで退散することにしよう」
「お、お邪魔虫だなんて」
「まあ、邪魔なのは事実だな」
「ああ、可愛い年下の女の子と二人っきりになりたい友人の気持ちを汲み取るなんて……ボクは出来た友人だろう?」
「うえっ?!」
「お前が邪魔なだけだよ!」
「ふふっ、じゃあねー」
言いたいことだけを言って歩は去って行った。
引いたように見えるがその実として全く諦めていないのはこれまでのことから尊にはわかっていた。
恐らくある程度の確証が得られたので長く楽しむためにあえて出直したのだろう。
面倒だなと心中で嘆息しつつ、何故か顔を赤くしている巫城に話しかけた。
「というかお前も入院患者なんだからあんまり動き回るなよ」
「だ、大丈夫ですよ大丈夫! 私は元気と健康だけが取り柄というか。先輩ほど重傷ではなかったですし」
「いや、お前目から鼻から血を垂れ流して酷い有様だったじゃん。見た時引いたぞ」
「忘れてください……お恥ずかしい」
「恥ずかしがるのは違うんじゃないか?」
あの事件の後、入院することになったのは何も尊だけでなく巫城も一緒だった。
動けなくなったので巫城に助けてもらおうと思っていたのに、向こうは向こうで大量の血を垂れ流してダウンというダブルグロッキー状態になってしまったのが仕方なく救急車を呼んで入院する流れになった経緯である。
「異能の反動ってやつか」
「たぶん、そんな感じなんでしょうね。あそこまで無理矢理使ったのは初めてでしたから……いや、それにしても冷静になったら酷いことになってたな私」
火島に痛めつけられた怪我を除けば無事だと思っていた巫城の有様に慌てたの記憶はまだ真新しい。
シリウス曰く、異能の過剰発動によるフィードバックとやらであるという話なのだが。
「どんな異能を使えばああなるんだか……」
『分析。巫城悠那の発言から「予知」というより「別世界観測」に近い異能であると推測』
尊の言葉に返したのはシリウスの電子音声。
発生源は巫城に渡したままの携帯端末の画面からだ。白い少女のアバターでシリウスはさらに話を続ける。
『未来においても所謂第六感に近い感覚で近未来の事象を予測できる異能者は存在。巫城悠那の異能はそれらに類するものであると仮定。得られる情報の規模、範囲が広ければそれだけ処理する情報量も膨大。無節操に行った結果がダメージとなって返ってきた形であるとシリウスは結論』
「そう……なのかな? よくわからないけど」
「わからないって……自分の能力だろ」
「し、仕方ないじゃないですか! 相談できる相手も居ないし、なんか勝手に発動するしで好きでもなかったからあんまり深く考えないようにしてたわけで……っていうかどうせ死ぬと思ってたからわりと投げやりに生きてたからどうでも良くて……」
「何というか……難儀な人生を送ってきたんだな。可哀想」
「いやー、聞いた先輩の現状の方がだいぶ難儀だと思いますよ?」
「おい、やめろ」
入院しているこの三日間、尊は随分と色々なことを巫城と話し合った。
未来から来たシリウスとアルケオスの存在、そして使命のことを知っている限り一通り。
最初から全部を言うつもりはなかったのだが、巫城の異能についての話をしている際に大厄災についての情報が出てきたために尊は考え直した結果だ。
「それにしても滅びの未来……ですか」
「現状、さっぱり情報が無いけどな。だが、それは起きるらしい」
『肯定。それを防ぎ、未来を変えるためにシリウスはやってきました』
「私の予知にもそれらしき未来のことについては……詳しくはわかりませんけど。どうせその前に死ぬと思ってたんで」
「お前な……」
「でも、私はこうして生きています」
「…………」
「未来は不変ではなかった。困難ではあったけど変えることは不可能ではないというのがわかりました。先輩のお陰です。だから……」
「またそれか。俺は自分がやりたいことを自分のためにやっただけで別に――」
「はい。だから私も先輩のお手伝いをしたいから勝手にさせてもらいます! お役に立てるなら……それにほら、私もどうせ生きられるなら平穏な未来を老衰するまで穏やかに生きたいですし? 大厄災なんてノーセンキュー! 一緒に世界を救いましょう!」
「……はあ」
正確に言うのならば妙にテンションの高い後輩の勢いに負けたともいう。
『提言。巫城悠那の存在は希少。未来において存在が確認されていない異能者。しかも大厄災以前である現代においての異能者の例。大厄災の謎の解明について役に立つ可能性をシリウスは示唆』
「そうだそうだシリウス言ってやれー!」
ついでにシリウスが巫城という存在の特殊性に眼をつけたのも理由の一つだ。確かにいくらシリウスとアルケオスの能力が高くても協力者が居るに越したことはない。
ただの少女ならいざ知らず異能を持っており、事件の過程を経て既に色々と関わっているのだ。
それならば仲間とするのは悪くない。
何をするにしろ尊個人の負担が減るというのは確かな利点だ。
とはいえ。
「面倒なこれまでだったんだろ? 責任で苦労なんて背負い込むもんじゃない」
「私がやりたいんです。もう目を逸らしたままなんて嫌なんです」
巫城は真っ直ぐと尊の目を見てそう答えた。
今までとは違う強い力のある目だ。
「……はあ、わかった。降参だ。勝手にしろ」
尊がそう言うと巫城はやったと呟きながら小さくガッツポーズ。
その様子に別に根負けしたわけではないと内心で言い訳をしつつもどうにも座りが悪い。
話を変えることにする。
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