エピローグ(1/3):未来同盟

 天去南総合病院。

 市が推し進めている都市再開発計画の一端によって最新医療設備を多数導入され、改装も行われた南区において一番の大総合病院。

 その天去南総合病院の入院棟の一室のベットに尊は横たわっていた。


「いやー、それにしても事故で入院だなんてね。新学期が始まってすぐに病気で休んでいたかと思ったら……今年は厄年にでもなるんじゃない? はい、これ。頼まれていた暇つぶし用の漫画とあと雑誌ね」


「……うるさい。なってたまるか」


 揶揄うように言ってくる歩に不貞腐れたように返しながらも尊は受け取った。

 そしてそのまま無言で雑誌を読み始めるも載っている内容は三日前の出来事で持ちきりだ。


「例の事件の話ばっかりさ、テレビも雑誌も……」


 突如として天去市の空を割るように切り裂いた雷光。

 その全土の住民が耳にした鳴り響く轟音。

 驚き見上げるとその眼に飛び込んできた二つの地に堕ちた星。


「自然現象とは思えないような超常的な事象。謎に満ちた事件。しかもその光景は天去の住民の多くが確認していたこともあって一種のムーヴメントって感じだね。この――福音事件は」


 福音事件。

 誰がこの名をつけたのかは不明だが、鳴り響いた雷轟の音が由来でネットから広まったという話だ。

 まあ、尊にとって名前なんてどうでもいいことではある。

 重要なのは火島との事件が世間的にどう決着したかということだ。


「それにしても不思議な出来事だったよね。テレビでも偉い科学者とかオカルト研究者とかが出てああだこうだ言ってるけど、結局アレが何かなんてしっくりくる説明なんて出来てないみたいだし……自然現象というより超常現象だよね。気象兵器の実験だったんじゃないかって説もあるみたいだけど、自然現象説より納得できてしまいそうだよね?」


「……案外近いかもな」


「だよね。あれのせいでなんかしばらくの間、市の電子機器が色々と誤作動して大変だったって話だし……尊くんの事故もそのせいなんだっけ?」


「まあな」


 雑誌に目を通す作業をしながらも尊は相槌を打った。


 ――そう言うことになったんだっけか。


 火島を倒した後、色々と身体が限界が来ていたのか満足に動けなくなってしまった。

 元々が公園での戦いで重傷を負っていた所、何とか持ち直すも完全に治りきる前に再度の戦い。そして初めての完全駆動に殲滅術式という膨大な処理を必要とする術式起動。限界を超えるには十分過ぎた。

 そのためシリウスに頼んで病院に入院する手はずを整えて貰ったのである。

 当然、そのまま説明することは出来ないので適当に物事をでっち上げる必要があった。


 ――そこら辺、今の電子情報化社会ってのは未来のAIであるシリウスにとっては便利なものだな。電子データを書き換えればどうにでもなる。


 福音事件の際、天去市において複数の電子機器の誤作動や暴走事故が発生した。これらはあの天去の空を切り裂いた蒼い雷光による一時的な電磁パルスの影響であるというのが定説としての見方だ。

 だが、実際のところそれらはシリウスが起こしたものだ。

 理由は勿論ある。


 一番の理由は思った以上の大事になってしまったため事件自体を隠すのは不可能とし、次善策として尊たちの存在を隠蔽するためだ。情報を気付かれないように改竄するよりも一帯に不具合が起きていたことにした方が楽とのこと。

 そのために誤作動、暴走事故を装った事象を起こし尊はその一件に関わり入院することになったということにしたというストーリーだ。


「大変だねぇ。それにしてもいったいこの街で何が起こってるんだろう? 連続放火事件があったと思ったら、西ノ池消失事件にそしてこの福音事件! 何と言うか凄くワクワクするよね!」


「そうか? ろくでもないだろう」


「何かが起こってるんだよ? その真相を知りたいとは思わないのかい?」


「思わないね」


 知ってるからな、とは口には出さない。

 ペラペラと雑誌のページをめくりながらふとその手を止める。

 「逃走中の連続猟奇殺人犯再逮捕」の文字が書かれたページの角。


「…………」


 尊は軽く鼻を鳴らすと再度ページをめくり始めた。


「尊くんはつまらないないなぁ」


「疲れてるんだっての。こちとら入院患者だぞ。さっさと帰れ」


「お見舞いにわざわざ来てあげた友人につれないよ?」


「それほど大したケガじゃない。もうすぐ退院できる程度だ。恩を着せるには足りないな」


「やれやれ、キミのためにわざわざ買ってきてあげたのに?」


「呼んでも無いのに「行くから何か要るものある?」って聞いてきたからついでに頼んだだけだ。別に来なかったから来なかったこっちは別に良かったんだぞ?」


「おや、酷い」


 欠片もそんなことを思っていない態度で歩は笑った、

 そして、探るような視線を尊の方へと送る。分かりやすいほどあからさまに。


「俺はつまらない人間だからな。何を知ろうとしているかは知らないが諦めた方が時間を無駄にせずにすむと思うぞ?」


「お気遣いどうも。でも、ボクはさ。キミという存在は結構面白く見てるんだ。とても興味深い」


 雑誌を眺めるふりをしながら、尊はちらりっと目をやった。そこにはトレードマークの帽子のその下で、歩は楽しそうに目を歪めていた。


 ――どうにも厄介。こいつは何でもいいから刺激的なのが大好きでついでに鼻も効くのは知っていたけど……。


 歩の好奇心を満たすような一連の事件の真相。それを確かに知っている尊を標的にしているのは間違っていない。

 まあ、喋るつもりはそらさら無いのだが。


「何を言っているのかさっぱりだ」


「そうかい? ボクは尊くんのこともっと知りたいって思ってるよ。最近、何か起こったんじゃないかい?」


「何かって?」


「さて……でも、キミの近頃の様子を見ていれば勘ぐりたくもなるってものさ……色々とね?」


「色々、ねぇ」


「そうだね。例えば……」


 ガララッっと病室のドアが開けられた音が響き、一人の少女が飛び込んできた。


―――――――――――――――――――――――――


・シーン1

https://kakuyomu.jp/users/kuzumochi-3224/news/16818023212365592303


・シーン2

https://kakuyomu.jp/users/kuzumochi-3224/news/16818023212365592303

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