第十五話(2/2):死闘の果て
『――確認。脳波正常、基礎律動に異常なし。意識の覚醒に成功』
そんなモーニングコールで尊はベッドの上で目を覚ました。
『……おはようございます、ユーザー』
目覚めたばかりでぼんやりとした頭の中で最初に浮かんだのは……。
「――死にかけて復活、か。あー、漫画の主人公っぽいかな?」
『回答。ヒーローポイントを付与』
くだらない掛け合い。
見慣れた天井がここが自室のベッドの上だという現実を尊に教えてくれた。
「おはよう。どうやら俺はしぶとく生き残れて――ぐぅっ!?」
とりあえず、現状を聞こうとシリウスと会話をしようと身動ぎをした途端に全身に奔った痛みに尊の口からは思わず呻き声が零れた。
『注意。無理をして動かないように。身体に負担がかかります』
「どうなって……っ」
『報告。現状のユーザーの身体状態。――左鎖骨完全骨折。左上腕骨、及び左中手骨完全骨折。右肋骨三番四番不完全骨折、左肋骨四番五番六番不完全骨折。左大腿骨不完全骨折。左脛骨及び左腓骨不完全骨折。その他、火傷、捻挫、擦過傷及び裂傷、全身合わせて三十二箇所の負傷』
「……あー、とにかく酷い状況なのはわかった」
『経過。現在の
「その言い方だとだいぶヤバかったように聞こえるが」
『報告。三度の心拍停止状態』
「……そうか」
シリウスからのハッキリとした明瞭簡潔な返答に、ちょっとぐらい気を使う言い方をしてもいいんじゃないか、と思わなくもなかったが尊は直ぐに気を取り直した。
「俺はどのくらい寝ていた?」
『意識完全喪失から四十二時間二十四分三十二秒経過しています』
「随分とよく寝ていたもんだ……。えーっと、ちょっと待て……流石に目覚めたばかりで前後のことが……ああ、そうだ。巫城はどうした? 確か――」
『解答。巫城悠那について無事です。最後の行動によって《
そうシリウスに言われてようやく気付いた。
尊の身体には治療を施した後がある。
至る所にガーゼが張られていたり拙くしっかりと包帯や巻かれ、それどころか左腕の方には点滴のようなものも刺されていた。
明らかに人為的な処置であり、身体を持たない人工知能AIでは出来ないことだ。
「……そうか。無事だったか」
思わず安堵のため息をつく。
これだけ酷使した甲斐はあったというものだ。
「それで? 巫城は居るのか? というか、よく俺を一人で運べたな……気絶した人間は重いと聞いたが」
『回答。公園の管理ドローンを一つ拝借しました』
管理ドローンと聞いて尊はなるほどと思い出した。
公園の清掃や警備だけでなく管理ドローンには確か身体の不自由な人を相手にする介助機能などもあったはずだ。
それを上手く使ったのだろう。
『報告。それと彼女は少し前に買い物へ出かけています。色々と物資が足りないものが発生したため。主に医薬品ですがそれ以外にもユーザーの治療は治癒能力を促進させるため十分な栄養も必要不可欠でしたので』
「ああ、なるほどな。こんなに包帯やらガーゼやら買い込んでた記憶なかったし……少なくともこんな点滴は無かったのは間違いない」
『回答。区内の大型医薬品専門店で購入しました』
「ああいったのは免許とか資格とか厳しそうなイメージなんだが……簡単に買えるもんなのか?」
『否定。偽造しました』
「……なるほど」
それで助かっている以上、尊に何か言えることはない。
まあ、金は払ってるのだしいいだろうと気にしないことにした。
それより大事なことがある。
「というか、だ。なんか普通に協力してるみたいだ……が説明したのか? なんというかアレやソレとか」
『否定。使命に関すること。シリウスやユーザーについての詳しい説明は実行していません。疑問に感じているのは確かですが一先ずはユーザーを助けることを共通目的として、シリウスの指示の合理性に理解を示し協力体制を構築しました』
「棚に上げてる状態ってことか……わかった。それについては後で考えるとして。それで《
『不明。対象も十分に重傷を負っているため今のところ近隣の医療施設を中心に情報収集を実行中です。ですが今のところそのような人物の治療の情報の痕跡無し。身元不明の死体が発見されたという情報も同上。どこかに潜伏している可能性が高いですね』
「そうか……。寝ている間に事件が続いてないってのはそれだけあっちも重傷で動けないと思いたいが……大丈夫なのか? 巫城の奴は一人で」
『留意。シリウスもそのことについては懸念事項としていますが……現実問題として医薬品などの物資が不足しています。そして当人の要望も強かったため実行することに……念のために端末の方を持って外出を。不測の事態でも対処可能であるとシリウスは報告します』
「なんだ、巫城が持っているのか……てっきりテーブルの上に転がってるのがそれが成れの果てかと」
尊はベットから降り痛む身体を引きづるようにして近寄ると見覚えのない中身の入ったビニール袋、飲みかけのペットボトル、使用したばかりのように見える包帯などの医薬品と一緒に置かれていた金属の塊をひょいと摘まみ上げた。
「じゃあ、これって?」
ドス黒く変色し変形した掌サイズの金属の塊。
それでも手に取ってみれば大まかな形というのはわかるもので、それが携帯端末の残骸であることは見て取れた。
『回答。それは巫城悠那が現場で拾ったユーザーの端末です』
「ん? ああ、そう言えば話を聞きに行く前に何か持ってるって話をしたな。結局、その後がその後で確認する暇がなかったが……そうか持っていたのか。全く、こんなのさっさと捨てりゃいいのに」
『ユーザー?』
「……なんでもない」
何故だか無性にむしゃくしゃして尊は頭をかいた。
動かすたびに身体に痛みは走ったが、不意打ちで感じた時とは違いこの程度ならば問題ない。
むしろ、痛みが気付けのいい刺激になっているぐらいだ。
『要請。判断を求める。巫城悠那にユーザーを目覚めたことについて連絡について。心配だというなら危険を冒さずに早期に帰宅して貰うことを推奨する。身体状態は程度安定しているので緊急性はそこまでではないと判断しています』
「いや、それは……。ああ、そうだ。そういえば街の様子はどうなんだ? あれだけ派手に暴れたわけだけど……」
『報告。メディアや雑誌、SNS等で原因不明の大事件として取り上げられている最中です。報道関係者や警察も他所からのパトロールの増員され、街は物々しい雰囲気に包まれています』
「……そうか。今は昼というのもあるし相手も負傷しているのならそれほど大胆な動きは出来ない……はず。巫城については……少し待ってくれ。その前に少しお前と話さないといけないことがある」
『情報共有――受諾。巫城悠那についてシリウスも新たに報告しないといけない内容があります』
(報告しないといけない内容?)
一瞬、尊は眉をひそめるもこっちの方が先だとシリウスに話しかけた。
「あの日の記憶。俺が殺された日の――記憶についてだ。どうにも思い出せてしまってな、とても不本意だけど」
『疑問。ユーザーの記憶の回復ですか?』
「ショック療法というやつかな。いい具合に相手が俺を同じように焼いてくれたお陰かもしれない。……全くもって感謝をする気は起きないけど。結論から述べると――」
どうやら本来あの日。殺されるはずだったのは俺ではなく……巫城の方だったようだ。
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