第十五話(1/2):死闘の果て
朝の天去市南二区にいくつものサイレンが鳴り響いていた。
パトカーや消防車が川沿いの大型の公園に集まり、その周囲を遠巻きに大勢の野次馬が恐る恐る覗いている。
「どうなってんだ……こりゃ」
黄色い立ち入り禁止のテープが張り巡らされ、厳重に取り囲んでいる警察官のせいで中の様子を伺うことは出来ない。
全焼したのは公園の一角である「西ノ池庭園」だという話だが、公園全域を立ち入り禁止にしているらしく外巻きにしている野次馬ではどうあっても現場を見ることは叶わなかった。
ただの火事にしては些か大げさ過ぎる対応ではあるが昨晩の異様な様子を目撃した街の住民も多く、そこからだろうかどこかのテレビ局のカメラとリポーターの姿もあった。
「昨晩、天去市で起こった火事の現場です。ご覧のように未だに混乱は治まっておりません。南二区近辺で起こっていた連続放火事件と何か関係があるのかも不明のこの大火、通報から警察や消防がやって来るまでの間に恐ろしい勢いで燃え広がり公園の一角を炎上させ消火に一晩かかってしまったとのこと。被害拡大において警察や消防などの初動が遅れたことも原因の一つとされていますが、当時の混乱による誤認の通報や公園の管理ドローンのシステムエラーによる誤作動などの不幸が積み重なったものであるとされ、適切な対応であったかは調査の結果が待たれます。またこの事件については情報が錯綜しており、謎の轟音を聞いた等々。未確認の情報でありますが現場となった西ノ池庭園の名前の由来となった大きな池が消失した……などという情報もあります。ともかく、様々な推測や憶測が飛び交い近隣住民には不安の――」
レポーターやテレビカメラの死角を縫うように若い警察官と年配の警察官は話し合っていた。
「全く酷いもんだ。どうなればああなるんだ? 見たかあの惨状……ガソリンでもばら撒いて一気に燃やしたのか? じゃなきゃ通報からいくら初動が遅れたとはいえ燃え広まり方が早すぎるだろう。庭園なんて綺麗さっぱりなくなってるぞ」
「鑑識の話だとそういう痕跡はなかったらしいですけどね。というより自然に燃え広がったというより、至る所に点火源らしきものがあったためそのせいではないかと」
「っても相当時間としては短いだろ。それとも犯人は火炎放射器でも持って燃やして回ったって言うのか?」
「俺に言われてもですね……」
「それに一番馬鹿げているのは――」
「失礼します」
二人の警察官が話して合っているといつの間にか人がすぐそばまで来ていることに気付いた。
一人は黒のスーツを着た髪を後ろに一つに束ねた二十代前半の怜悧な表情の女性。もう一人は十六、七歳ほどの明るい赤毛の髪色が特徴の少女。
どこかの学校の学生服らしき服を着ていることから学生らしいことはわかる。
かたい表情をしている女性とは対照的にどこか楽しげな様子の少女という二人組。
それに怪訝な表情を浮かべながらも職責として若い警察官はずいっと一歩前に出た。
「ここから先は立ち入り禁止となっています。すいませんがお引き取りを」
そう言いながら立ち塞がった警察官相手にスーツ姿の女性は慣れた手つきで電子手帳を取り出し自身の身分を提示する。
「私たちはこういうものです」
「警視庁……特異第六課? なんで警視庁が……それにこんな部署」
「許可は得ています。宜しいでしょうか?」
「す、すいませんでした。その……そちらの彼女もでしょうか?」
「はい。お願いします」
若い警察官は些か困惑しつつも一歩下がり道を開けた。照会した結果には確かにデータが出た以上、彼女たちは関係者だからだ。
女性と少女の二人組は軽く会釈をして警察官の隣を通り過ぎた。
「それにしても警視庁なんて……昨日の今日ですよ? それに子供に……特異第六課なんて聞いたことありますか」
「ふむ……。都市伝説みたいな話で妙な事件を専門に担当する部署の存在を聞いたことは有るが」
「そんなのがあるとしたら……まあ、来てもおかしくはないんですかね?」
後ろで若い警察官と年配の警察官が話し始めるのを背に二人は脚を進めていき目的地へと辿り着く。
「これは……」
そこは現場の「西ノ池庭園」。
否、かつて「西ノ池庭園」であった場所……というのが正しい表現だろう。
何せ緑の木々が有ったであろう場所は炭と消火に使われた消火剤や水と混ざった汚い泥が広がり、舗装されて整備されいたはずの地面はいたるところがめくり上がり穴が開きまるで戦場のような様相。
そして、何より――この庭園の名前にもなっていたはずの大池が消失していた。
有ったはずの大量の水の大部分は消滅し、まるで爆心地のような異様な有様だ。
「間違いなく
「それは間違いない……けど、これは予想以上だ。これだけの破壊規模……これまでで最大かもしれない。話には聞いていたけど……」
「もしかして初めてのカテゴリーA事案?」
「恐らくはそうなるだろう。規模から考えて……頭が痛くなるな」
嘆息し疲れたように空を見上げるスーツ姿の女性。
空には報道用のドローンがいくつか飛んでいるのが見て取れる。
「今回の件を上手く誤魔化すのは大変だろうな」
ポツリと呟き同情するも現場の自分よりはマシだろうと女性は意識を切り替える。
「やっぱり今回の
「決めつけは危険だが、その件から洗うのが妥当だろう」
課から配給された特殊な電子手帳を使って捜査情報データを確認しながら女性と少女は会話をしつつ現場を回る。
スーツ姿の女性はともかく学生服姿の少女については奇異の眼が投げかけられるもそれは慣れたものなのかどちらも気にはしていない。
「これは?」
地面に何かが落ちていたのを見つけ女性は拾い上げた。
それは掌サイズの融解して固まった金属の塊。
「……携帯端末?」
元の形もよくわからない程に変形していたがそれでも液晶のような部分を見つけ、何となく女性はそう思った。
「ん、何か見つけた? 手掛かりになりそう?」
「……さてな。とにかく、これほどの相手だとこちらも戦力が必要となる」
「むっ、僕は何時でも行けるよ」
「ダメだ。相手が
「むぅ……でも、次の犯行が行われるかわからないんだよ?」
「これほどの行使をしたのならすぐに動けるとも思えん。それに慌てて戦力が不十分な状態で動いてやられても意味がない。
「全力じゃん」
「相手を過小評価してリスクを背負うより、臆病に過剰戦力をかき集めて完璧に終わらせたい性分だ。まあ、向こうも向こうの予定もあるはず。調整が効くかはわからんし……まあ、どのみち調査も始まったばかりだ。まずはその対象の
「……はーい」
つまらなさげに足元の小石を蹴りつつも了承の意を表した少女を横目に見ながら。
ふと、スーツ姿の女性――警視庁特異第六課所属の
この街にちょうど居るであろう人物のことを……。
(巻き込まれる前に事件は終わらせないと)
ここに来たのは仕事で偶然だが、もし万が一事件に巻き込まれてしまったら玲にとって合わす顔がなくなってしまう。特にこの事件は自分の管轄の事件というのもある。
(……まあ、彼は私に助けられたくはないかもしれないけど)
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
少し意識が没頭していたのか少女がその紅の瞳でいつの間にか玲の顔を覗き込んでいた。
「とにかく出来る限りのことはしよう。まずは調査で出来れば準備は整ってから動きたいけど……不測の時は頼むぞ
「まっかせて! 何故なら僕は――正義のヒーローだからね」
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・シーン1
https://kakuyomu.jp/users/kuzumochi-3224/news/16817330669249584802
・シーン2
https://kakuyomu.jp/users/kuzumochi-3224/news/16817330669249629404
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