第十三話(2/3):公園での死闘・Ⅲ


 バチバチ。バチバチ。

 至る所で炎が上がり、木々が燃え。火の手は広がっていく。

 《拝火者サラマンドラ》が手当たり次第にばら撒いたせいだ。

 無秩序なまでに燃え広がり、整備されていた庭園は見るも無残な姿に変えていく。


(こんな中を戻って俺は元凶のところに向かおうとしている……頭がおかしくなったのかね、俺は?)


 自らの正気を疑いながら、それでも進む。


 燃え盛る炎は触れるものを区別はしない。

 自身もまた視界に映った木々のように灰と炭のような姿に成り果てるかもしれない。

 そう想像するだけで冷たいものが背筋に走る。


 だが、それでも。


「勝機は本当にあるんだろうな? ……正直、逃げ出したい気分をギリギリで耐えてるんだけど」


『(回答。戦術プランの説明を行います)』


 シリウスは答える。


『(敵対象|拝火者《サラマンドラ》の戦力評価について予想を上回る点があったのは事実。特に異能の出力強度、ならびに容量については想定を大きく上回っており用意していた戦術プランを一旦全て破棄ないし凍結を余儀なくされました)』


 尊にとって異能者というのは《拝火者サラマンドラ》しか知らないが、どうもシリウスによると使い続けているCケィオスの量が異常な数値ということらしい。

 異能者として熟練していくと次第に増えていくものらしいが、それを考慮してもデータの記録の中でも上位と言えるほど数値の大きさを誇っているらしい。


「(あれはまるで嵐だった……)」


 思い出すのは炎の嵐と言うべき光景。

 ただの人間ならその領域に存在することすら許さない火焔の煉獄。


(よく生きてたな……頑張ったぞ、俺。凄いぞ、俺)


『(難敵。ですがどれだけ異様とも言える才能を持っていたとしても付け入る隙は存在します。特に《拝火者サラマンドラ》ほどの際立った異能者ほど陥りやすい確かな隙が……)』


 シリウス曰く。


 Cケィオスは無限でも。

 人には限界が存在する。

 

 それは

 

 上位次元の力をこの次元にて顕現させる。

 それの窓口である異能者の負担は決してなくならない。

 次第に慣れることで負担を減らすことが出来ても零になることは決してない。


 異能者が使う異能は有限、限界がある。


 どれほど膨大であっても――それは無限ではない。


『(情報。才覚を持って目覚めた異能者の中で一番多く討ち取られたケース……それは自身の限界を見誤り引き際を間違えた場合です。彼らにはまず敵というものが存在しなかった。限界まで力を使うという機会に恵まれなかった。だからこそ自身の異能を絶対視し、限界というものを把握していない。――《拝火者サラマンドラ》もその事例に当て嵌まります。冷静さを欠いてあれほど安易に異能を使い続ければ――)』


「限界が来る、と」


 殺意や怒りを炎に変えていると言わんばかりの苛烈な攻撃。

 それを向けられていたからこそわかるが、あれは確かにペース配分を気にしているような攻撃ではなかった。


(そもそもが今の俺だから何とかなったけど、普通の人間なら殺しそびれるのなんてことはまずないだろう。つまりは相手にとってこれだけ手間がかかったのは初めての体験なはず……)


 そして、ペース配分もなしに一気に力を使えば待っているのは……。


「……か」


『(肯定。それこそが勝機です。対象の動きや反応から解析するに肉体自体はほどほどに鍛えられてはいますが、何らかの特殊な訓練を受けている痕跡は認められませんでした。つまりは近づくことが出来れば――鎮圧は可能です。よって最も成功確率の高い戦術プランは――)』


「――防ぎきれない炎球の攻撃だけに注意。それ以外の火球の攻撃は防護膜を盾に強引に突っ切って懐に……か」


 高密度の炎球は防ぎれない。

 だが、火球の方なら受けきれることはすでに証明済みだ。


 そして、懐に入ってしまえば強力すぎるが故に異能の力も制限せざるを得ない……なるほど勝ち目は見えて来た。


 問題はそれを実行できるかどうかの胆力の方だが。


 ふと、少女の顔が頭をよぎった。

 怯えた小動物のような顔をしている癖にこっちを心配する顔。


(全く、あんな顔をされたんじゃやるしかないじゃないか……)


 振り払うように頭を振った。


「考えてみたんだけど今の俺って主人公っぽいよな? ヒーローっぽいシチュエーションというか」


 冗談めかしに尊がそんなことはそんなことをふと言った。


『回答。同意します。シリウスはヒーローポイントを付与します』


「ヒーローポイントってなに?」


『ヒーローっぽいことをすると加点されるポイントです』


「いらねー」


 真面目に言っているのかそれとも管理サポートAIとして緊張を解すために敢えてしているのか……尊はくだらない話を交わした。


「ただ、まあ……柄じゃないけど悪い気分じゃない」


『解釈。ヒーローとは人知れず苦難と戦う者である。シリウスはこの時代に来て学習』


「人知れず戦うヒーロー……か。はっ、いいね。カッコいい。俺にはちょっとばかり不釣り合いな称号だけど……そしてお前はそんなヒーローの相棒というやつか? ニチアサ系?」


『回答。深夜帯かもしれません。シリウスは未来から来た高性能で美少女なスーパーAI。――完璧なサポートを約束します』




「言うじゃないか、じゃあ準備は良いか相棒マイ・バディ?」


『返答。問題はない、相棒ユーザー




 くだらない掛け合いをしながら二人は進み、そして――



「――さて、行くか」


『(肯定。ユーザーとシリウスはどこまでも一緒です)』



 そして、尊とシリウスは先ほどの場所までついに辿り着いた。

 そこにはまるで帰ってくることを予期していたかのようにベンチに《拝火者サラマンドラ》は座っていた。



―――――――――――――――――――――――――


・シーン1

https://kakuyomu.jp/users/kuzumochi-3224/news/16817330669058554444

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