第九話(1/2):再会とラーメン
尊と巫城が何故ラーメン屋で一緒に食事をしている状況になったか。
説明するにはしばし時間を遡ることになる。
「(うん、見つからないね)」
『(同意。発見困難)』
巫城を探そうと街の繫華街へと繰り出したのはいいもの彼らの捜索はすぐに難航した。
理由は単純。
「(よくよく考えてみれば何の手掛かりもなかったな)」
『(肯定。高校から入手したデータも普段よく行く場所の情報などは載ってはいませんでした。経歴、プロフィールなどの情報はそれなりに入手できましたが……巫城悠那の私的な行動・性格等のデータは十分に得られませんでした)』
「(見通しが甘かったか?)」
手掛かり無しで一人の人間を見つけれるほど天去市は小さな街ではなかった、というのを再認識する羽目になったのだ。
(自宅を張っていた方が確実だったか? 一応、視界内に収めた顔はチェックをさせてはいるから視界に入れば見逃すことはない……はずだけど)
街には連続放火の件で警察がそこらをウロついている状況、人気の多いところを探す効果について少し疑問を覚え始めていたころ合いだった。
(後ろ暗いところがあるならこの現状はリスクが高い。学生という身分も考えれば普通に補導されることだってあるわけで……。だとしたら、もっと人気のない場所を虱潰しにした方が良かったのか? シリウスにピックアップして貰えばある程度目星はつけられるとは思うが)
人探しなど慣れていないのでどうにも勝手がわからない。
とはいえ時間を空費しても仕方ない諦めて尊は地道に探すため場所を変えようとした。
そんな時のことだった。
「いいからこっち来いよ」
「変なことはしないからさ」
「あ、あの……離してください」
耳に飛び込んできたのは男女の言い争う声。
彼が声の方に目を向けるとそこには男が三人が女一人を取り囲むようにしてちょっかいをかけている姿が。
「(見た感じは……大学生くらいか? そこら中を警察がパトロールしてるってのに……気付いてないのか?)」
『(報告。女性の方は――恐らくはユーザーの学校の女子生徒ですね。学制服を確認できました)』
「(マジか。……仕方ない、助けに行くか)」
『(確認。巫城悠那の捜索ミッション中。余計なトラブルに介入するのは如何なものかとユーザーに提言します)』
「(俺だって別にトラブルに首を突っ込みたくはないけど、見てしまった以上は見て見ぬふりは出来ないだろ。警察もウロウロしてるから大丈夫だとは思うけど……気分のいいものじゃないからな)」
『(了承。そういうことでしたら。手早く収めるようにと)』
「(わかってるよ)」
柄ではないが偶にはいいだろう――そんな尊の軽い気持ちからの行為だった。
『……っ!? 緊急。ユーザー待っ――』
思い返してみれば途中でシリウスは気付いたのだろう。
だが、それは結果として遅きに失した。
「おい、いい加減にそのぐらいにしておいたらどうだ?」
そんな彼の言葉に振り向く三人の大学生らしき男たち。
「あー?」
「んだっ、てめぇっ」
「引っ込んでろよ」
「……えっ」
そして、ちょっかいをかけられていた女性――巫城悠那もまたこちらを向いた。
『(あ)』
「あ」
「…………あ」
思わぬ出会いに凍り付く尊とシリウス。
そして、巫城。
「おい、こっちを無視してんじゃ――」
「(おい……これってどうすればいい!?)」
とりあえず、余計なノイズはスルー。
そんな余裕はなかった。
心の準備もしていない状況での唐突な再会にこの時の彼は普通に我を失っていた。
『(演算。……とりあえずは挨拶をしましょう。会話の基本は挨拶であるとシリウスは学習している)』
「(そっか! ……そうだな!)」
思い返すとシリウスでも焦ることはあるらしい。
「おっ、おう。巫城……久しぶり。あー、いい天気だな?」
『(報告。……ユーザー、今日の天気は曇り。そしえ、時刻的に既に夜)』
「(あっ、そうだった)」
『(追加。そしてログを見返しました結果。巫城悠那とは自己紹介をしていないので、ユーザーが名前を知っているのは不自然)』
「(……あー)」
しまったなーっと考えながらシリウスとの必死の作戦会議。
ちなみにこの時点で三人組大学生のことはすっかり頭の中から抜け落ちていた。
何か喋っていたような気はするのだが全て聞き流して記憶に残っていない。
「(えっ、これどうしたらいい? どうしたらいいの?)」
『(叱咤。ユーザーこれは明らかなフラグ。お気を確かに)』
「(いや、わかるけど! 何か重要そうなイベントっぽいけど! だからってどうすればいいんだ?!)」
『(提案。……ユーザー、形勢はやや不利であるシリウスは演算します。ここは一時退却を進言する)』
「(た、たしかに。一先ず離れて落ち着いてから……)」
「と、とりあえず危ないところだったな。だがもう大丈夫だ。」
尊はシリウスの進言を受け入れて一旦距離を取り改めて体勢を立て直そうと画策して話を切り上げようとするも……。
「………ひっぐ、えっぐ……よかった……」
「え」
『え』
「「「え?」」」
その判断は残念なことに遅かったと言えるだろう。
巫城は初めの驚愕の顔が崩れたかと思うとくしゃりと顔をゆがめ、
「うぇえええええぇぇぇん!!よがっだぁぁああ!よがっだよぉおおお!」
ギャン泣きを開始。
清々しいほどの大泣きをしながら彼に縋り付いてきたのである。
「……えっ、俺たちってそんなに怖かった?」
「わ、悪ノリしてたのは認めるけど」
「へ、変なことはしてないからな!」
最近の事件によっていつもよりは人は少ないとはいえ大通りの近くだ。
そこで人目など気にせずに大泣きしている姿は衆目を集めるには十分で、わらわらと人は集まってくるわけで……。
逃げるように去っていく三人組の姿がとても印象的であった。
(おい、これを置いていかないで。責任を……)
尊は内心でそう叫んだが現実が変わるわけでもない。
『(疑問。ユーザーどうする?)』
「(どうするって……どうしろってんだよ)」
「うわぁあああああァァあん!!」
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・シーン1
https://kakuyomu.jp/users/kuzumochi-3224/news/16817330667966711263
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