第十二話(2/2):公園での死闘・Ⅱ
(この状況が続くのはマズい。それはわかっているのに……)
「(くそっ、時間はどれくらい経った!?)」
『(回答。戦闘開始から二百八十七秒経過)』
「(まだそれだけ!?)」
知覚が引き延ばされているからか思った以上に現実時間との齟齬が大きい。
尊の感覚だけならばすでに二十分以上は戦い続けている気分だった。
(マズイ、このままじゃ……)
状況は好転を見せない。
思わず彼は冷や汗をかいた。
『(報告。戦闘音並びに《
「(絶対に近づけるな! 何でもいいから時間を稼いで妨害してくれ!)」
『(了解)』
さらに状況は悪化していく。
戦闘の激しさのせいで周囲からは人が寄ってきているらしい。
(これだけ暴れていればそうなるか……っ!)
特に《
消防、警察はすぐに飛んでくるだろう。
一先ず、咄嗟にシリウスに指示を出して時間を稼いでもらってはいるがそれで果たしてどれだけ持つか……。
荒れ狂うように異能を使う《
いや、そのような楽観は捨てるべきだろう。
ヘルメット越しで表情がわからなくてもわかるほど殺気立っているのだ。
逃がした獲物を殺したくて仕方ないといった感じで、邪魔者が現れればまとめて大虐殺しかねない雰囲気だ。
それは流石に不味い。
更に言えば尊の顔を見られるのもそれはそれでマズいのだ。
覚悟を決めるしかない。
そう彼は腹を括った。
言葉ほど簡単ではないが、それでもここで賭けに出なければ自体は枠なる一方だと尊は判断した。
「巫城……少し乱暴に行く。我慢しろよ」
「~~~~っ! だ、大丈夫です!」
彼の言葉に息も絶え絶えに何とか巫城は返答をした。
意識を引き延ばしている尊とは違い、思考を回せる余裕もなく上下左右へと動かれ三半規管的にもかなりの負担をかかっているだろうにそれでも問題ないと答えるあたり――実に良い根性をしている。
「シリウス!」
詳しく説明する時間はない。
だが、尊とシリウスは繋がっている。
こういう時には便利なものだ。言語化しなくても意図は正確には伝わるのだから。
『(これは――了解。妥当性を認め、戦術プランを承認します。タイミングを――三、二、一)』
カウントダウン共に彼は停止した。
当然、そこに一斉に火球の雨が集中して降り注いでくるが、それを務めて無視して防護膜を集中し自身の周りに張り巡らせる。
そして、右脚を――アルケオスの脚を力をためるようにぐぐっと地面を踏みしめ、
『(零)』
合図とともにその力を解放した。
ドン!という重音が響いた。
その瞬間、火球の雨の中を突き破るようにして高速に飛び出していく姿を見て火島は自身の失敗を悟った。
咄嗟にさらに火球を生み出して発射するも止められない。
恐らくあの盾を張り巡らしているのだろう、多少当たっていようが目の前に障害物があろうかお構いなしに突き進みそのまま雑木林の中に飛び込んでしまった。
姿を見失ってしまった。
ならばこの雑木林ごと焼き払ってやろうと力を籠め――
ふらり。
そこで気付く。
自身の息がいつの間にか上がっていたことに。
身体全体に重い倦怠感、そして足元もふらつく。
「これは……」
体力が消耗していることに火島は初めて自覚した。
その事実が沸騰していた意識を少し冷まし、火島の本来の冷静さを取り戻させた。
「そうか力を使い過ぎたのか」
振り返れば思い当たる節がないこともない。
ただ力を使うというその特別性に興奮を覚えて居たし、これほど連続で使い続けたこともなかったので顕在化しなかったのだろう。
そんなことにも気づかない程、浮かれていたのかと自身を嗤いながら息を整える。
そして、身体の調子をチェックした。
問題はなさそうだ。
あのまま気付かずにオーバーペースで続けていたらどうなっていたことやら……。
自滅などという笑いものな結末になっていたかもしれない、と火島は考えながらも次の思考に移った。
「……何なんだあの男」
一時的に冷静さを取り戻した火島は分析を始める。
とっておきの計算外なイレギュラーな強さを持った敵である男のことを。
「私と同じような存在……それはわかる。何となく近しい力の――質のようなものは感じる」
自身と同じような存在である、と考えただけで腸が煮えくり返りそうになるがなんとか耐える。
見かけによらない異常な運動能力。回避能力。
それに不可視の盾のような力……。
「最初の運動能力は確かに異常ではあったがまだ普通の人間の内にとどまっているように見えたが……最後のは」
まるで地面を揺らすような重い衝撃音。
そしてその後に弾丸のように真っ直ぐ突き進――否、ほとんど飛び込むように雑木林に突っ込んでいた様子を思い出す。
最後に男たちが居た場所に火島は目を向けた。
地面は標的を見失った火球が着弾し荒れていたがその中でも一際大きいクレーターのようなものが目に飛び込んできた。火球の爆発によるものではない。余程の大きな力が加えられてこうなったのだろうことがわかる。
「……一体何者なんだ?」
起こったことを整理すればおおよそのことは把握は出来る。
だが、だからこそ謎も深まるというもの。
「いや、関係ない。相手が何者かなんて関係ない。私はやるべきことをやるだけだ」
火島はそう頭を振って意識を切り替えた。
気にはなるが重要なことは……そうだ。
――どうすれば殺せるか。
それに尽きる。
激情に赴くままに力を使ったせいで消耗が激しい。
それにこれだけ派手に暴れたのだ警察共もやって来るのも時間の問題だろう。
この周囲の被害を見れば如何な惰弱な日本の警察とはいえ、捕まえることより射殺に踏み切る可能性も低くはない。
放火は重罪だし、ここ数日のこともある。
それでも力が万全なら切り抜けられるだろうが今の状態では些か不安は残った。
理知的な判断としては警察に見つかる前に一旦逃走するのがベストだろう。
とはいえ、折角見つけた獲物をまた逃がす判断は火島にとってはあり得ない。
「あの男を確実に仕留めてから逃走する……これだな」
二人が逃げ込んだ雑木林を見ながら、火島はそう結論づけた。
すでにもうあの身体能力で追いつけない場所に逃げたのではないか、という考えは火島にはなかった。
確信があった。
「男は女を逃がすために飛び込んだだけ……帰ってくるはずだ。私を討つために」
根拠があるわけではない、ただ強いていえばあの眼だろうか。
火島は知っている。
恐怖に慄く人間の目を、絶望して諦める人間の目を何度もこの目で見てきた。
だからわかるのだ。
あれは逃げるために逃げたのではないということを。
「私には神からの祝福がある。徒人では私を止められない……」
少なくとも警察に守って貰えば安心などと腑抜けた考えなど持っていないだろう。
自身もまた力を持っているのなら猶更だ。
信じられるのは自身の力のみ。
逃げたところで火島は狙う。
狙い続ける。
供物云々の話以前に自分以外の選ばれし人間の可能性など火島には認められない。
その溢れ出る殺意も怒気も伝わっているはずだ。
顔も知られている。
ならば逃げたところで意味はない。
逃げられないなら……戦うしかない。
「さて、どうする?」
火島は待った。
冷静に策を練りながら。
数分と経たずに雑木林の向こうから現れた一つの人影にニヤリとヘルメットの中で笑みを浮かべた。
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・シーン1
https://kakuyomu.jp/users/kuzumochi-3224/news/16817330668676164743
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