第5話

宮内 side


「私は『完璧』なんかじゃないんです」

一言一言雪見君に伝わるように言葉を紡ぐ。


「本当は誰よりも臆病で、失うのが怖いだけなんです」

「失う?」

「今の私を作っているのは、なにもかも出来る『宮内桜』なんだと思います。だから、ずっと1番を取り続けたり期待に応えないと、失望されて何も残らないんだと思います」


今まで誰にも話せなかった思いをぶつける。


「変な話ですよね。それを求め続けていたのに、今はそれに苦しめられている。認められるために頑張ってきたのに、私自身が私を認めることなんて出来なくなりました」


一度話してしまえば、もう止まるはなく言葉は溢れる。


「だから、とうに限界が来ているのにも関わらず、勉強し続けて雪見君に迷惑をかけてしまいました。本当にごめんなさい」

「…いや、それはかまわないけど」

「優しいですよね、雪見君は。話を聞いていただいてありがとうございます」

「話したかったことはこれで全部か?」

「はい」


そう言うと、少しの沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのは、雪見君だった。


「宮内、お前は一つ間違っていると思うぞ」

「間違ってる?」

「ああ。確かにみんなが宮内のことを理解しているのかなんて、俺には分からない。この前言ったように、本当に表面的にしか理解されていないのかもしれない」

「…」

「だから」


雪見君の話の続きを予想する。やっぱり私は変われないのでしょうか。


けど、雪見君の発言は私の予想外のものだった。


「賭けをしないか?宮内」

「賭け?」

「ああ。宮内が本当に完璧であり続けないといけないのか」

「それは、どうやって証明するんですか?」

「今度、最後のテストがあるだろ?そこで証明するんだ」

「私が1位以外を取れば良いんですか?」

「いや、今まで通り本気でやってくれ」


話の流れがいまいちつかめない。けど、雪見君は今まで何度も私を助けてくれた。だからもしかしたら、


「俺が証明する。宮内が一人じゃないってことを」


助けてくれるんでしょうか。




☆☆☆☆☆

雪見 side


俺はやることが出来たため、身支度をし保健室を出る。


「じゃあ、宮内、また今度な」

「はい、さようなら」


俺はすぐに帰宅し、勉強しに部屋に戻る。


「ふう、久しぶりに本気で勉強するかもな」


宮内に意気込んだのは良いものの、テストまで時間はない。


「徹夜コースだな」


出来る限り避けてきたが、何としてでも俺は証明しないといけない。


「よし、やるか!」


その日から俺は毎日勉強をし、テストに望むのだった。




☆☆☆☆☆




全クラステストの返却が終わり、順位表が張り出される。


みんな休み時間の始まりともに、確認しに向かっていったが、俺は保健室に向かう。ずっと深夜まで勉強していたため、さすがに体に限界が来てしまった。


無心でひたすら足を進め、保健室に着くと扉を開き、中に入る。


「失礼します」

「あ、雪見君。今日はどうしたの?」

「少しだけ寝させてもらって良いですか?」

「全然良いよ。体調不良、とかではないんだよね?」

「はい。単純に寝不足です」


近くに空いていたベットがあったため、すぐに横になる。テストの順位が気になるが、今はそんなこと言ってられない。


横になるとすぐに睡魔が襲いかかって来たので、抵抗せずに俺は眠りに着いた。




☆☆☆☆☆



その後俺は何とか保健室のベットから降り、教室に戻る。すると、何だか俺に視線が注がれていると思ったが、気にせず机に伏す。


その日の午後の授業は、全部寝てしまったことは、あまり触れないでおこう。




☆☆☆☆☆




午後の授業も全て終わり、みんながそれぞれ帰りの支度をし、帰路についていった。


俺は誰と約束をしているわけではないが、図書室に向かう。無論、向かう理由は一つだけ。

確認したいことがあったから。


「失礼します、って宮内もう来てたのか」

「ここでなら、ゆっくり話せると思ったので」


笑顔で待っていた雪見の近くに俺は座る。


「とりあえず、1位おめでとうございます」

「ちゃんと取れてたか」


俺がずっと勉強していたのはテストで1位を取るため。


「それを踏まえて宮内に聞きたいんだけど」

「はい、何でしょう」

「初めて1位以外を取って、何て言われた?」


質問すると、少し考えるように間をおくと、口を開いた宮内。


「私自身、凄く怖かったです。今まで私が築いて来たものも終わりなんだなって思って」

「…」

「けど、誰も私を責めることなく、むしろものすごく励ましてくれたんです。いつも頑張っているねとか、また来年も一緒に頑張ろう、とか」

「…良かったな、賭けは成功だったんだ」


宮内に足りなかったのは本の少しだけだった。それは、自分自身を認めてあげること。


「宮内、お前は誰よりも凄いよ。宮内が望んでいなくても、何度でも言ってやる」

「…はい」

「そう思っているのは、俺だけじゃないって、今回で分かっただろ?」

「…はい」

「だから、」


俺は、宮内に会ってからずっと言いたかったことを言葉にする。


「自分を認めてくれ、責めないでくれ。宮内のことを理解してくれている人が絶対にいるはずだから」

「…はい」

「ちゃんと宮内を見て、好きになってくれる人がいるから」

「本当、ですか?」

「ああ、少なくとも俺はお前のことが好きだからな」


そう言うと宮内がどんどん赤くなっていったため、俺は自分の言葉を思い返す。って、俺めちゃくちゃ恥ずかしいこと言っていない?!


「そ、そう言う意味じゃなくてな?!だから、えっと」


俺が次の言葉を探していると、


「ふふっ」

「わ、笑うなよ…」

「あたふたしている雪見君、初めて見たので」


ひとしきり笑った後、宮内は言ってくれた。


「雪見君がそう言ってくれるのなら、私は私のこと認めようと思います。今すぐには難しいけれど、少しずつ頑張ろうと思います」

「…ああ、そうしてくれ」

「あ、それと…」


今まで見てきた顔で、1番美しい顔をする宮内を見る。


「私も雪見君のことが、好きですよ?一人の異性として」

「な?!」


そう言うと、近くにあるカバンを持ち、足早に出て行ってしまった宮内。


「爆弾を投与していくなよ…」


そう悪態付くが、心には嬉しさが込み上げてきた。


1位を取ること大変さは今回でものすごく分かった。それでも俺は、彼女の1位を取れるように、自分の言葉で彼女に伝えるのだった。




___________________________________________

読んでいただき、ありがとうございました!

とりあえずは完結とし、機会があれば後日談を書いていきたいと思います!

今度は甘々のものを新作に書いていきたいと思っているので、そちらもよろしくお願いします!

つたない文章を読んでいただき、ありがとうございました!




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『完璧な美少女』をぶっ壊してやった @1ya12ma2to

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