第4話

この間の中間が終わり、もうそろそろ期末テストの時期になってきた。


当たり前だが学生の本分は、勉強である。どの生徒も休み時間や放課後、友達たちと勉強して最後のテストに望もうとしている。


だが、例外の生徒が二人。


一人目は俺。今回のテストの範囲は、いつもより広いが、それなりに授業をちゃんと受けていたため、大体はわかる。


だから、焦って今さら勉強するというよりは、あとは復習していつも通りの点数を取るだけだから、わざわざ学校で勉強する理由はない。


そして、もう一人は言わずもがな宮内である。


彼女自身は図書室での過ごし方を見てわかる通り、努力家で日々の勉強を怠らない。そんな彼女が勉強していない、いや、勉強できていないのは……


「桜、ここわかる?」

「ここの公式ってなに~?」

「これであってるよね?」


友人と思われる人たちに、勉強を教えているからである。もちろん、人に教えること自体は良い勉強になると思う。それでも、今まで守ってきた1位という結果を継続させるためには、自分の勉強を疎かにはできない。


って、俺がどうしてこんなことを気にしているんだ。


その理由は分かっていたとしても、言葉にしないし考えることもしない。


だが、俺はまだ気づいていなかった、いや、気づけていなかった。


とっくに宮内に、限界が来ていたことを。




☆☆☆☆☆


その日は俺は日直ということもあり、日誌をまとめてから教室を出た。


その頃にはクラスにはほとんど人は残っておらず、宮内も図書室に向かったのか、ここにはいなかった。


今日の授業のことなどをまとめ終わり、教卓の上におくと、教室を出た。


いつも通り図書室に向かい、扉を開けると予想通り宮内はいた。


日々の日常になりつつある景色だが、一つだけいつもと違う光景になっていた。


「宮内?大丈夫か?」

「…」

「宮内?」


いつもは宿題や復習、予習を行っている宮内だが、今日は何も用意しておらず、机に伏せるように眠っていた。


ただ眠っているだけならかまわない。俺だって、やることがなかったり単純に眠かったりすると、机に伏せて眠ったりする。


だが、無性に嫌な予感がする。俺は心を鬼にして、宮内に声をかける。


「宮内?ここで寝るよりも家で寝た方がいいぞ?」

「…」

「ただ寝てるだけ、なわけないよな?」


俺は心で宮内の両親に全力で謝りながら、宮内の方をゆする。


すると宮内はようやく気づいたのか、顔を起こし、こちらを見る。


「ゆきみ、くん?」

「宮内大丈夫か?体調悪そうだけど」

「だ、だいじょうぶですよ?」


本人は否定しているが、宮内の体自身からは顕著に体調の悪さを感じとることが出来る。


「宮内少しだけ良いか?」

「?いいですよ?」


火照っている額に、恐る恐る手で触れると、


「あつっ!宮内、多分熱あるぞ」

「き、きのせいですから。だいじょうぶですか」

「いや、だけどな…」


本人が大丈夫だと言うのなら大丈夫なのだろう。だけど、ここで放っておいても大丈夫なほど、宮内の体調は優れていなかった。


「宮内、少しだけ歩けるか?」

「はい?だいじょうぶですけど…」


席から立った宮内の手を引き、宮内の歩幅にあわせ保健室に向かう。


何事もなければ良いのだが……




☆☆☆☆☆



「37.5。微熱だね、親御さんは家にいる?」

「はい、母がいると思います」

「じゃあ迎えがくるまで、少し寝てるか、安静にしてて」

「ありがとうございます」


保健室の先生と会話が終わると、俺は気になっていたことを聞く。


「先生、宮内大丈夫ですか?」

「うん、疲れが溜まってた感じだと思う。少し安静にすれば良くなるはずだよ」

「ありがとうございます」

「いやいや、これが仕事だからね。じゃあ私は作業があるから職員室に戻るけど、何かあったら呼んで?」

「分かりました」


そう言うと先生は保健室を出ていき、ここにいるのは俺と宮内だけになる。


どうしたものか、宮内も一人の方が過ごしやすいかもしれない。いや何かあったときは俺がいた方がいいか?


そんなことを考えていると……


「…雪見君、この後何か予定はありますか?」

「いや?何もないぞ」

「じゃあ、少しだけ話を聞いてもらっても良いですか?」

「ああ、大丈夫だぞ」


そう言うと、近くにある椅子を宮内が使っているベットの近くにおき、そこに座る。


「話って?」

「……この前言えなかった、私の本当の気持ちを今なら言えるような気がします」

「…そうか。分かった、ゆっくりでもいいから聞かせてくれ」


宮内は何度か深呼吸を繰り返したのち、言葉を発する。


「私は、『完璧』なんかじゃないんです」




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