第3話

と、まあそんな感じで、時折宮内は図書室に勉強しにくる。俺も暇なときは大体図書室にいるため、少しずつ話すようになった。


といっても、宮内は勉強しに来ているため、なるべく邪魔しないようにはしているのだが。


それよりも、俺がずっと気になっていたことを聞く。


「そういえば宮内。どうしてここで勉強するようになったんだ?」

「そう…ですね。話せば少しだけ長くなるかもしれないんですけど……。良いですか?」

「うん。大丈夫だぞ」


そう言って俺は、宮内の斜め前の席に座る。


「クラスで私がどんな感じで過ごしているか分かりますか?」

「まあ、大体友達とかと話してるイメージはあるぞ。あ、だから勉強する時間がないとか?」

「それもひとつの理由ですね」

「それもひとつの理由って、他にもなにかあるのか?」


そう聞くと神妙な面持ちになり、意を決したように口を開く。


「私が皆さんに何と呼ばれているかも分かりますよね?」

「さっき言った、『完璧な美少女』のことか?」

「はい、それです」


そう言うと、また口を閉ざしてしまった宮内。まだ勇気がでないのかもしれない。宮内が自分の口から言うまで待っていると、閉ざしていた口を開く。


「……全部、才能だと思われているんです」

「才能?」

「はい。努力を認めてほしいとなんて、決して思ってはいません。ですが、何をしても、完璧、才能、当たり前の一言で済まされてしまいます」

「確かに、あまりクラスとかで、勉強している姿は見たことないかもな」

「多分、私が放課後ここで勉強していることを知っているのは雪見君だけだと思います。それに……」

「?それに?」

「いえ、何でもないです」


全てを言い終わったのかのように、勉強に再開する宮内。その先を安易に聞けないのは、俺に覚悟が足りていないのか、それとも、彼女の本当の思いに、気づけていないのか。


「雪見君」

「ん?どうした、宮内」


おずおずと怯えるように、はたまた、何かを確認したいかのように口を開いた宮内。


「雪見君は、私を『完璧』だと思いますか?」


そんな問いに、俺自身の言葉を、考えを話す。


「宮内、これは俺自身の考えでしかないから、数あるなかの一つだと思って、聞き流してくれ」

「…はい」


自分の傷に触れるように、言葉を溢す。


「俺は、『完璧』なんてものは存在しないと思っている」

「…え?」

「人は誰しも、そうなりたい何かを持って、過ごしていると思う」

「そうなりたい何か?」

「ああ。例えば、テストで何点取りたいかとか、部活のレギュラーになりたいとか、そんな感じの、まあ、目標とかに置き換えても良い」


溢れ出てくる言葉を、分かりやすく伝えられるように選ぶ。


「けどそれって全部、自分に無いものだから、自分で手にいれることが出来ないから、努力とか本人の頑張りを認めたくなくて、一言でまとめてしまうんだと思う」

「…じゃあ、一言でまとめたのが」

「うん、『完璧』なんだと、俺は思う」


人は嫌なことや認めたくないことについては、深く考えようとしない。だから、当事者の気持ちとか考えずに、一言で済ましてしまうんだと俺は思ってしまった。


「だから、宮内」

「はい」

「何か、俺が出来ることがあれば、話してほしい。頼ってほしいとまでは言わないから」


そう言って俺は、宮内の方を見なおす。

宮内は何かを言いたいような、けれど一歩踏み出せないような顔をして言った。


「もし、私の本当の気持ちを言えるようになったら、聞いてもらってもいいですか?」

「宮内が話したくなるまで待つから、いつでも言ってくれ」


俺はそう言うと、急に気恥ずかしくなり席を立ち、本棚の方に戻る。

通りすぎる際に見た宮内は、顔を手で隠していたが、耳まで赤くなっていたが、俺自身も体が暑くなって閉まっていたため、特に気にもとめず、通りすぎていった。





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