両想いだと知った日

 その感触が唇だと分かったときには、柔らかいそれは俺の口から離れていた。

「もしかして初めてだった?」

 楽しそうな目が俺を見つめる。初めてかどうかなんて、幼馴染のお前が一番よく分かっているくせに。わざわざそんなことを聞いてくるんだから、やっぱりこいつは意地悪だ。

「お前だって、初めてだったくせに」

 そう言ってから、ふと胸の中に黒いものがよぎる。

 本当にこいつは、初めてが俺で良かったのか?

「私はいいの。初めてはあんたがいいって思ってたから」

 俺の一瞬の表情を読み取って、ニカニカと笑いながら言った。俺はいつもこいつに転がされている。悔しい。でも嫌じゃない。

「ね、もう一回してみる?」

 甘い言葉に、俺は小さく頷いた。



(300文字)


2023/01/07

#Monthly300

( @mon300nov )

第1回お題:初



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