無邪気な甘噛み

 じんとした痛みが手のひらに伝わる。人差し指の先に当てられた歯は、甘えるように私を刺激した。

 目の前で微笑んでいる彼女からは、いじわるな気持ちなど全く伝わってこない。この無邪気さが、毒だと思う。

「どう?」

「ん、おいしい」

 せっかくのバレンタインなのに、手作りをする勇気がなかった。百貨店で選んだハート型のチョコは、私の気持ちが露わになってしまったようで、今朝になってから少し後悔した。

 でも、美味しかったなら、いいや。

「もう一個ちょうだい」

「そろそろ自分で食べなよ」

「いいじゃん。せっかくだから食べさせて」

 リップを塗ったばかりの口が控えめに開いた。艶々とした桃色が縁取るそこに、私はそっとチョコを差し入れた。



(300文字)


2023/02/04

#Monthly300

( @mon300nov )

第2回お題:甘い



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